第3話 子猫ちゃんとの対面
ようやく子猫たちと対面、とはならなかった。
地元の合同庁舎は古く、昭和然としている。廊下にテープが貼られ、行き先別に色分けがされている。友人Sと「保健所」のテープをたどり、窓口へと着いた。
すでに猫ちゃんが用意されている、わけではなくまずは書類に名前を記入しなければならない。
対応してくださったのは、若くて可愛らしいお姉さんだった。
書類の内容を口頭で説明される。
譲渡された猫を捨てないか、完全室内飼いにするか、ケガや病気のときには病院へ連れていくか、去勢避妊手術は受けさせるか、譲渡された猫を転売しないか、終生面倒を見るか……。
「たびーさんが、子猫たちをいったん引き取って里親さんのところへ行くわけですね」
何度も聞かれたのは、転売をしないかと疑われていたのかも知れない。
※しかし、わたしは身分証明書として免許証ではなく、とある強力なもの(秘密です)を出していたので疑いが晴れたらしい。
それらのことを説明され、受諾し、宣誓書にサインをし、身分証明書を提示してようやく猫たちがいるところへと案内された。
建物内を移動しながら、聞かれた。
「子猫のお世話をしたことがありますか?」
「猫はずっと飼っていますが、ここまで小さい子猫は初めてです」
答えると、職員さんは「ん?」とちょっと不安げに首を傾げたように見えた。が、早く猫ちゃんと対面したいわたしはその反応をスルーした。
子猫たちがいたのは、建物の西側に増築されたコンクリートの長方体の一階だった。いつも見ている建物の中に動物たちがいるとは信じられなかった。スペースとして小さそうだったし、動物たちの鳴き声も聞こえなかった。
合同庁舎を一階まで行き、外へ出ると職員さんは長方体にとりつけられたよくあるアルミの扉に手をかけた。
勢いづいてついていこうとするわたしとSを制止した。
「こちらでお待ちください」
検疫上のことや、その他いろいろと事情があるのだろう。わたしと友人は閉められた扉の前でしばし立ち止まった。
すると、ピンクのケージを手に職員さんが出てきた。ケージの中にみんないるらしい。ミャーミャーと鳴き声が聞こえる。
「残念ですか、一匹だけ亡くなりました。四匹は元気です」
そうか、一匹さんは亡くなったのか。しばし胸の中で黙祷。
ふたを開けられたケージの中には、四つのほわほわしたものが入っていた。
子猫ちゃん! ようやく会えたね。ずっと心配していたよ。
「この子たちは哺乳瓶からミルクを飲まなかったです。こちらのシリンジを使ってください」
と、職員さんは針のない注射器の本体を二本、わたしに寄こした。
「一日に25グラムくらい増えると、順調に育っているしるしです。それから便が二日詰まると、いわゆるフン詰まりで死んでしまうので気を付けてください」
サラリと恐ろしいことを言う。ビビりながらも、子猫を用意してきたケージへと移す。どの子も小さくて、ふわふわしていてる。モフモフした子が二匹、しましまが二匹だ。
「ミルクは三・四時間に一回です。排泄の介助もお願いしますね」
やたらと詳しく説明する職員さん。
それは多分、わたしがきちんとお世話できるか不安に思ったからだろう。
子猫のケージを抱いて車へと行く。
さあ、かわいい子猫ちゃんとの生活の始まりだ。その時のわたしは、子猫たちをようやく手元におけるという幸福感でいっぱいだった。
けれど、本当の大変さをこのあと味わう。
そう、お姉さんがなぜ「ん?」と首をかしげたのか、身をもって知るのだ。
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