短編集

糸式 瑞希

音楽家

 僕は、音楽家だ。

 それなりに成功し、人々に愛されている。

 楽なことばかりではないが、何とかやっている…。


 家を…、本邸とは別に別邸を僕は持っているのだが、

 ある用事があって、今は暮らしてないその家に僕は出向いていた。


 家の前まで行くと、僕は玄関の重い戸を開き、目的の部屋に行くと、目的の書類を手に取った。


 そこで…、ふと思いついて、僕は2階の自室に来ていた。


 その部屋には、ピアノ…、というか、電子ピアノがあって、

 それが電池駆動出来るタイプなのだが、偶然、電池の残量が残っていた。


 僕は、部屋の本棚に楽譜がある事を思い出した。

 いつか僕が書いた、オリジナルの曲だ。

 ピアノで、いわゆる夜想曲、と呼ばれる種類のものだ。


 そして…、ピアノを演奏をする僕。

 若かりし日の、僕の音だった。


 僕はこの時気が付かなかった。

 この演奏が、この高城市の七不思議の一つ、「空き家から聴こえるピアノソナタ」になるという事を。

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