辟者18th

鎌田試作

第1話 辟者と彼岸獣

「こちら漆奈。現場に到着。姫色さん、目標の痕跡を発見しました。これから捜索及び討伐を開始します。」

 夏の夜空の下、緑髪の少年――栗峰漆奈(くりみねしつな)は、同僚の少女である水無瀬澪(みなせみお)と一緒に、とある工場現場に来ていた。澪は艶のある青い髪を掻き分けながら、愚痴を言う。

「まったく、任務とはいえ、こんな真夜中の出勤は勘弁してほしいなあ。シナあ。こんな真夜中に人が急に出てくるだけでも怖いのに彼岸獣が出てきたらと思うと、怖いよね。」

「仕方ないよ。澪ちゃん。夜は彼岸獣の発生と活動が活発になるからね。手っ取り早く倒すなら、夜に調査をして彼岸獣を倒すのが効率がいいんだよ。」

「そうかもしれないけどさ。怖いものは怖いよ。」

2人はこんな話をしながら、調査をしていた。

「まあ、頑張って調査しよう。終わったら、コンビニでアイスでも,,,澪ちゃん。お出ましのようだよ。」

「そうだね。そうっぽい。」

 2人はその存在に気づき、振り向いて臨戦態勢に移った。“そいつ”は2人の知っている動物では鳥の姿に近く、羽の部分はディスク、円盤に近いものが三つ重ねて張り付き、頭部は断面のようになっていて、その上にヘッドフォンのバンドのようなものが浮いている。純白の姿を象った怪物だった。

「うわあ、出たね。この瞬間はいつまでも慣れないよ。」澪は嫌そうな表情で緊張した感情を漏らす。

「まあまあ、安心して今回のやつは俺一人でもいけそう。澪ちゃんは離れてて。」漆奈は前に出ると、突如、漆奈の手から透明感のあるエメラルド色の刀に近い武器が出現した。同時に、彼の髪色の緑が剝がれるように抜け落ち、代わりに紅色が露わになる。すると、漆奈の姿は一瞬にして消え、怪物の奥へ移動していた。その刹那、怪物の身体は真っ二つに割れて、消滅した。

「まあね、今回は出番なしだったね。だって今回私のそばには“辟者(へきじゃ)”がいるんだもの。」澪は安堵しながらそう答えた。

「よし、終わり。帰ろう。澪ちゃん。」そう漆奈が答えると、エメラルド色の剣は消え、紅の髪は元の緑髪に戻っていた。



「姫色さん。目標の彼岸獣を無事に倒しました。」

「お疲れ様。漆奈。任務は終了よ。気を付けて帰ってきてね。」

 漆奈たちが無事に帰ってくることに塔之木姫色(とうのきひめいろ)は安堵しながら返事をし、通信を切った。

「はあ、あいつらさえいなかったら、漆奈たちは今頃、平和に人生を謳歌しているのに…」姫色は溜息をつきながら、過去の資料を読んでいた。

 彼岸獣は20年前に突如として人類の前に現れ、思いのままに人類を蹂躙した怪物である。人類は多くの犠牲を払いながらも、17年前に研究者である緒方千里(おがたせんり)によって人類を進化人類、辟者に変化させ、彼岸獣へと対抗できる者を生み出す計画もとい彼岸崩壊計画(ひがんほうかいけいかく)が開始、これによって人類はある程度の平穏を取り戻した。,,,,そう資料には書かれていた。

「何が平穏よ。こうして、対抗策が造られて、対彼岸獣組織の「ディスレーテ」もといDLを結成しても、彼岸獣による人的物的被害は後を絶たないっていうのに、辟者も若者がなりやすい傾向にあるから漆奈たちがやってるし、まあ、被害が少なくなっているだけマシなんだけどね。当時は本当に世界がパニック状態で世界が終わるかもしれない状態だったから,,,,。」といいつつも現状の妥協に満足の意を示そうとしている自分に姫色は呆れの感情を向けた。そして、時計を見ると、それなりの資料を読んでいたからか、1時間半くらいの時間が経っていた。

「そろそろ。漆奈たちが帰ってくる時間ね。」

そう思っていると、インターホンの音が鳴り、姫色は安堵の感情と共に玄関へ向かった。玄関を開けると、見慣れた顔があった。

「姫色さん。おかえり。」

「ええ、おかえり。あんたたり。お腹はすいてない?なんか食べる?」

「じゃあ、昼食の残りでも食べようかな?澪ちゃんはコンビニでアイス食べたんだから、食べ過ぎないでね。」

「はいはい。それなりにたべますよー。」

三人はそんな会話をしながら、食卓を囲んだ。

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