最強の死神

駄目りんご

鬼遊び編

第1話

 殺してやる。

 そう叫んだのを覚えている。

 あの時も月は雲に隠れていて、雨が降っていた。

 紅風あかかぜ さくらはビルの屋上で、傘もささずに空を見上げていた。

 肩まで伸びたピンク色の髪に、紅い瞳。ゆったりとした黒色の服を纏っており、手には刀を握っている。

 一見すると可愛らしい女性のようで、名前も女性的であるが、紅風 桜は男性である。

 濡れ鼠になっている青年は、真っ直ぐ前を向いて走り出し、ビルの屋上から躊躇なく飛び降りた。

 数秒経ってから、桜はビルの壁を蹴って前に跳び、空中で体を回転させた。

 まるで独楽のように回っている青年が、向かいに建っているビルの屋上を囲む、錆びたフェンスを刀で斬り裂く。

 屈んだ状態で屋上に着地した桜は、ゆっくりと立ち上がって、辺りを見回した。

 端に古びた給水タンクがある。

 その近くに少女が立っている。

 頭に二本の角が生えた、真っ白な少女だ。

 明らかに人間ではないその少女は、桜を見て楽しそうに笑っている。


「こんばんは。君を殺しに来たよ」


 刀で何度か雨を斬り、その鋒を少女に向ける桜。

 紅い瞳に映る少女は、それでも笑顔のままだ。


「雨の日の夜に、この辺りにあるビルの屋上に現れて、近くに人がいれば襲い掛かる。もっと怖い顔をしていると思っていたよ」


 少女が奇声を発したので、桜は眉を顰めた。


「理性も記憶もないか。話しても無駄だね」


 少女の足が、床から離れた。

 彼女は流れるように桜の近くまでやって来て、右手を伸ばし、頭を掴もうとしてくる。


「遅いな」


 細い指先がピンク色の髪に触れる前に、桜は少女の右手を刀で斬り落とし、彼女の首を掴んだ。

 少女の胸を刀で貫き、それをそのまま横に振って、白い胸と左手を斬り裂く。

 あっという間に赤く染まった少女の、甲高い悲鳴を聞きながら、紅い瞳の青年は刀を振り上げた。

 血を吐き出した少女が、恐怖に顔を歪める。

 少女の首から手を離した桜は、容赦なく刀を振り下ろし、彼女を真っ二つにした。


「ごめんね。僕にはこうする事しか出来ないから」


 床に落ちた死体に謝った桜は、人の気配を感じたので、給水タンクの方に目をやった。

 黄色いレインコートを着た少女が、給水タンクの上に立っていた。

 フードを深くかぶっている為、顔はよく見えない。だがその佇まいは知っている少女のものだったので、彼女がどのような顔をしているかは、見なくてもわかった。


「謝る必要なんてない。馬鹿じゃないの?」

「そうかもしれない。――何か用? 蓮華れんげ


 蓮華と呼ばれた少女が、かぶりを振った。


「あんたに用なんてない。用があったのはそこの死体。私もそいつを倒す為にここに来た。――まさかあんたに先を越されるなんて思ってなかったわ。落ちこぼれの紅風 桜」

「天才の紅風 桜」


 桜が笑顔を作って適当な事を言うと、レインコートの少女が盛大に舌打ちした。


「ふざけた事を。あんたは人間じゃない。それを忘れないでね」


 桜に背を向けた蓮華が、ビルから飛び降りた。

 ため息を吐いた桜は、少女の死体を見詰め、刀を床に突き刺した。


「忘れないさ。僕は死神だ。殺意に呑まれて、殺してやると叫んだあの時から」

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