第44話 先を見据えて
朝に作った角煮丼は、めっちゃくちゃ好評だった。
村を警護してくれている騎士さん達は角煮丼を食べて、王都に『角煮丼屋』を開店すれば人気が出る! と言ってくれた。噂を聞いた冒険者や旅行者が次々とやってきて、この辺境の村は賑やかになった。
どうやらこの国は、アジア系の料理はあまり知られていないようだ。……となると、色々料理の幅を広げられそうだ。
カリカリチーズ(勝手に命名)はおつまみやおやつ、小腹が空いたときにもよさそう。今後の新たなメニューに、餃子も追加しよう。
思ったより角煮丼の人気がでた。
あと親子で角煮丼を分け合っているのを見たり、年配の方が角煮丼の量が多すぎて食べきれないのを見て、半分の量の角煮丼をメニューに追加した。意外にそれは、角煮丼とそのほかの料理を食べたい人の需要があって喜ばれた。
半分の量の角煮丼と、野菜のサラダとの組み合わせとか……。
「あっ! 定食のメニューを作れば、お客さんは迷わなくて楽かも? 単品で注文するよりお得にすれば……!」
次々とアイデアが湧き出て、皆に相談しながら決めることにした。
食事処&宿泊所の三階で仕事をしていた、サウスさんとミレーヌに相談した。メニューが増えて料理を作るのが僕一人だと、大変になってくるからだ。お総菜屋さん・ダンジョン経営・食事処とその他、村の人がやっているお店の様子を聞いたり力になったりと忙しくなった。
「そうですね……。あまりマオ様のご負担が増えてしまうのは心配ですわね」
ミレーヌは僕の負担を考えてくれた。
「このままだと全部できそうにないから、迷惑をかける前に相談したんだ」
恥ずかしいけど、皆に迷惑かける前にと思った。
「賢明な判断です。相談を持ち掛けてくださって、ありがとう御座います」
サウスさんが僕に頭を下げた。
「頭を上げてください、サウスさん!」
僕は焦ってサウスさんに頭を上げるように言った。
「では、私から知り合いの料理人を紹介しましょう」
考え事していたミレーヌが、顔を上げて僕とサウスさんに話しかけた。
「魔族と人間の子で、姿は人間そのものです。腕の良い料理人ですので、どうか
魔界の知り合いの料理人? それにミレーヌが推してくる料理人なら腕が良いだろう。
「そうだね。会ってみようか」
何か事情がありそうだけど。
「それにしても色々なアイデアを思いついて、素晴らしいですわね」
ミレーヌはニコニコしながら僕に言った。でもそれは……転生前の記憶の、食べ物なんだ。申し訳ないなと思いながら、曖昧に微笑み返した。
「あと……。急に話は変わりますが、お耳に入れたいことが……」
サウスさんが真面目な顔をして話しかけてきた。なんだろう?
「初心者ダンジョンで冒険者がきてギルドもできて、名物やお土産も有名になって近頃ではこの村へ移住の申請者がきました」
「そうみたいだね」
村の長が、村の土地を拡げたほうがいいのか皆に話があったばかりだ。
「このままだと、村から町へ。町から大きな街へ発展するでしょう」
サウスさんの言うことは、とても重要だ。
「うん。そうだろうね。のんびりした辺境の村が、大きな街になるかもしれない」
正直、ダンジョン経営を始めたときは十五歳だったから思いもつかなかった。でも二年も経って僕は十七歳になった。状況を見てれば想像がついた。
「まだ先かもしれないし……、もしかしたらそう遠くないかもしれないね」
僕は部屋の窓の外を眺めた。三階からは、村がよく見える。
「とりあえず、目の前のことを一つずつやっていこう」
僕は自分に言い聞かせるように言った。
「ちょっと失礼します」
ミレーヌはそう言い、部屋から出て行った。ちなみに今いる部屋は、三階の会議室兼リラックスルームだ。僕とミレーヌとサウスさんしか入れない、プライベートな
「呼んできました」
扉が開いたと思ったらミレーヌが部屋に入ってきて、誰かを連れてきた。背が高く青髪の青年だった。
「初めまして、魔王様。私はサウスさん兄妹の親戚の、カルマスといいます。魔族と人間のハーフです。よろしくお願いします」
カルマスさんは、頭を下げて僕に挨拶した。ミレーヌが言っていた腕の良い料理人だろうか? 確かに見ただけじゃ、魔族と分からない。ミレーヌやサウスさんは、魔法で人間の姿に変身しているけれど、この人はそのままの姿なのかな?
「物心ついた時から包丁やフライパンを握っています。人間界でひっそりと修行をしてきました。魔王様のお力に、なるために来ました」
真面目そうだし、丁寧だ。
「それなら、さっそく料理を作ってもらおうかな? レシピ通りに作って欲しいのだけれど」
「はい!」
やはり料理を作ってもらったほうがわかりやすい。僕達は一階のお食事処へ下りていった。
「皆さん、お疲れ様です」
ちょうどお食事処のお客さんが途切れたところだ。小休憩している従業員がいたので挨拶した。
「あ、マオさん。お疲れ様です――!」
「お疲れ様です――」
「ちょっとキッチンを借りるよ。いいかな?」
「「は――い!」」
僕はカルマスさんにレシピを渡した。から揚げのレシピと、好きなスイーツを作ってもらうことにした。
「いきなりで悪いけど、色々材料はそろってあるから」
僕はにっこり笑って、カルマスさんの料理の腕を見ることにした。
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