第40話 美丈夫な冒険者 



 和やかに、冒険者たちがバージョン2クリアの感想を話し合っていた。そんな中、入り口の扉が開いた。


 「いらっしゃいませ! お好きなお席へ、どうぞ!」

お客さんが一人、お店の中へ入ってきた。店員が挨拶すると、店内奥の空いてる席に座った。……なんとなく身のこなしが素早くて目で追ってしまった。金髪碧眼の美丈夫だ。

 どう見ても初心の冒険者には見えない。他に仲間がいる感じではなかった。


 注文を聞いた店員が戻ってくると、同僚に話しかけていた。

 「ねえ! 今、注文を聞いたお客さん! 美形なんだけど!」

「まあ! この辺じゃ見ない美形ねえ……!」

食事処の従業員は増えて、二十歳の独身の娘さん達から子供がいるママさんや、成人済みのお子さんがいるベテランのお母さんまで年齢の幅は広い。男性の従業員も同じくらい。

 そんな店員同士で、突然やってきた美丈夫の冒険者に盛り上がっていた。


 そんな中ミレーヌはいつの間にか、いなくなっていた。おかしいなと思っていたけど注文が入ったので調理を続けた。

「はい! から揚げ、二種・揚げたて! エディブルフラワーのサラダ、タコのアヒージョ、出来上がりました!」

「は――い!」

 盛り上がっていたけど、きちんと仕事をしてくれるので助かっている。


 「独身の子に譲ってあげるわよ」

ベテランママさん達が何か話している。どうやら美形冒険者への、料理を運んでいく担当を譲ってあげるらしい。

 「ありがとうございます!」

 譲ってもらった子は嬉しそうに料理を運んでいった。


 「しかし……。何者だろうね? ただ者じゃなさそう」

食事処で一番年上のモニカさんが、手を頬にあてて言った。さすが人生経験の豊かなお姉さま。鋭い。

 「名の知れた、冒険者っぽいですよね?」

僕も、ただ者じゃないなと思った。


 他の冒険者たちはその冒険者に気が付いていたけど、遠巻きに見ていた。着ているものも上等なものだった。本人は気が付いているのか、いないのか。とても目立っていた。だけど全く気にしていなかった。

 料理が運ばれていって、その美丈夫な冒険者は美味しそうに僕が作った料理を食べていた。


 上品に食べ終えると次々に料理を注文して、出来上がってテーブルに届いた料理をにしていった。

 「すげえ……」

 他の冒険者たちが思わず言った。僕も、次々と料理を平らげていく美形な冒険者に目を離せなくなった。

大食い大会に出られそうなくらいの食欲だ。テーブルにお皿が積みあがっていく。


「うわぁ……」

食事処のメニューのほとんどを食べつくした。上品な食べ方で料理が形の良い口へと消えていくのを、他の冒険者たちは呆気に取られて言った。

「美形だけどあの食べっぷり……。ちょっと引くわ……」

皆の思っていたことが一致したのか頷いていた。 


 美形冒険者は食べ終えて会計をして帰るとき、他のテーブルの片付けの手伝いをしていた僕へ声をかけてきた。

 「ごちそう様。王都のレストランにも負けない美味しさだったよ!」

どうやら料理を気に入ってくれたらしい。僕はテーブルを拭いていたけど振り返って返事をした。

 「そんなことは。でも美味しいとおっしゃってくださいまして、ありがとう御座います」

王都のレストランと比較にならないと思ったけど、お皿を高く積み上げるくらい召しあがってくれたのでお礼を返した。


 

 美丈夫な冒険者は僕を下から上までジロジロと見た。

「ふうん……」

 意味深に呟いた。何だろう? あまりジロジロみられるのは落ち着かない。

「……どうも、ありがとうございました! また良ければ、いらっしゃってください!」

 そう言ってキッチンへ戻ろうとした。


 「あ、待って。君の幼馴染のルルンに、頼まれたことがあるんだ」

「え? ルルンを知っているの?」

 まさかこの人から、幼馴染のルルンの名前が出てくるとは思わなかった。


 「うん。とても、よく知っている」

にっこりと笑って僕に言った。その笑顔を見た、食事処に居合わせた老若男女が釘付けになった。キラキラとした、特別な雰囲気を持った人だ。


 「そうなんですか」

本当かどうか知らないけど、ルルンに何を頼まれたのか。

 「これ、君宛の手紙」

 渡されたのは封のしてない手紙。受け取って手紙を読んでみた。


 「……この字は、ルルンが書いたものですね。ええっと、う――ん」

内容は……今、目の前にいる美丈夫な冒険者と『一緒に、ダンジョンへ行って欲しい』と書いてあった。

 「なんで!?」

大きな声を出してしまった。このままではお店の皆に迷惑をかけてしまう。


 「ち、ちょっと外へ!」

僕は美丈夫な冒険者を外へ誘った。後ろからついてきた美丈夫な冒険者は僕より背が高くて痩せて見えるけど、がっちりと筋肉がついている体格で凄かった。


 「一緒に、ってこのダンジョンは初心者用ですよ? 強そうですし、なぜ僕と一緒に!?」

訳が分からなかった。僕より強いだろうし、なぜ?

 「ん――。このダンジョンに興味あるし、君がどれだけ知りたいと、ルルンに頼まれてね」


 「え、いや。お店もあるし……「行ってくれるよね?」」

急に、威圧感を出してきた。周りに初心冒険者がいたら倒れていただろう。逆らえないほどの強い・圧。ビリビリと感じている。


 「く……。お店の人と話をしてきます!」

逆らったらどうなるか。悪人ではないけど、逆らえない高貴な。本能的にやばいと感じた。

 「よろしくね?」

 ニコッと微笑んだけど、は解いてない。逃げられないように絡みついているようだ。


 僕はお店の中へ入り、従業員へ事情を話した。

「……ちょっとダンジョンに行かなくてはならなくなったので、すみませんが後はよろしくお願いします」

 「は――い! 大丈夫です」

僕が忙しく、時々抜けるので慣れている店の皆さん。助かる。ミレーヌも、いつの間にかキッチンにいて「こちらはお任せください」と言ってくれた。顔色が悪かったけれど大丈夫かな。


 店の外に出てみると、美丈夫な冒険者はもうダンジョン入り口前にいた。

「入場券は買ったよ! すぐ行こう!」

 素早い。僕は仕方なくダンジョンへ行こうとした。

 「マオ様! あの者は……!」

入場券売り場にいたサウスさんが、動揺した様子で僕に話しかけてきた。


 「たぶん、大丈夫だよ」

僕はあの美丈夫な冒険者の正体が、なんとなくわかってしまった。だけど今更やめられない。

 僕は美丈夫な冒険者の後を追って、ダンジョンの中へ入っていった。

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