第28話 植物型魔物《アルラウネ》のラウネ
「白い花の繁殖か……」
僕は管理者として、やはりもう一度ダンジョンへ入って調べたほうがいいと考えた。
「僕がもう一度、ダンジョンの中へ入って調べてくる」
「えっ? 今からですの?」
もうそろそろダンジョン営業時間は終わりになる。営業後なら問題ないだろう。男の子はお医者さんに任せて、僕達は休憩所から出てダンジョンの前まできた。
「悪いけど、後片付けをお願いしてもいいかな? あと、誰もダンジョンに入って来ないようにしてくれる?」
僕はサウスさんとミレーヌにお願いした。サウスさんとミレーヌは顔を見合せて、ちょっと考えてから頷いた。
「承知いたしました。後片付けはお任せくださいませ。地下三階からのお帰りは、このリストバンドをお使いになられてください」
ミレーヌにダンジョン用のリストバンドを渡された。
「管理者用のリストバンドになりますので、地上へ戻るときにお使いください」
「ありがとう! 気を付けて行ってくるよ」
僕はミレーヌからリストバンドを受け取って、再びダンジョンへ入った。
ごつごつした岩の入り口の、上から垂れ下がっている
まだ地上一階は入り口から光が差し込むが、奥に進むにつれてヒカリゴケの明るさが顕著になってくる。それにつれてジメジメしてきて肌にまとわりついて不快になっていく。
そのくらいに不気味な声が耳に聞こえてくる。
ケケケ……。ケケ。
左右の岩陰から大キノコが飛び出してくる。
「もう怖くないぞ、大きいキノコ! 小さいキノコは好きだ!」
ザシュ! ザッ!
大キノコにレイピアで攻撃して問題なく倒した。僕もレベルアップしてるかな? ふぅ……と息を吐いて奥へと進んだ。
「あ! プルプル!」
岩の隙間からそっと覗いていた最弱スライム プルプルを見つけた。名前を呼ぶと、ぴよ――ん! と飛んで僕の肩に飛び乗った。
プルプル、プルプルと揺れていて可愛い。
「また、一緒についてくるかい?」
僕がプルプルに話しかけると、プルプル揺れた。つぶらな三つの瞳が可愛い。
「確かに魔族のペットで人気になるのがわかるなぁ……。でも人間は襲うのか……」
いくら可愛いくても魔物は魔物。それぞれに適した場所があるからしかたがないし、魔物だからといって気軽に飼って、可哀そうな目に合わせるのはダメだ。
僕はプルプルを、肩に乗せたまま進んだ。
順調に大キノコを倒しながら進んで、地下一階まで降りてきた。地下一階は大小の岩が並ぶ景色になる。
ここは大ゴミムシダマシが生息している。警戒を怠らず進む。
プルン! プルプルが肩の上で跳ねた。
「わっ!」
岩陰から大ゴミムシダマシが襲ってきた!
僕は横に避けて攻撃をかわした。
足に力を入れて地面を踏みしめ、父からさらに改良してもらったレイピアで大ゴミムシダマシの固い体の隙間へ突き刺した。
ブシュッ! ……ドサッ!
前回よりは早く倒せた。やっぱりこの間から始めた筋トレの効果がある。
囲まれないように先へ進んで奥に行くと、朽ちた木々が集まっている場所が見えてくる。
朽ちた木々に小さなキノコが生えていたのを見つけた。
「……もしかして。上の階にいる大キノコは、ここで育っているとか?」
ここだけ湿っているけど、まさか。
そんなことを想像していたら、覚えのある足元の
「来る」
ズボッ! とミルワームが地中から出てきた。始めてダンジョンに来た冒険者は、地中から出てきたミルワームに驚くだろう。
別に演出したわけじゃないのに、ゲームや漫画の見せ場・または驚くシーンみたいで冒険心をくすぐる。
何度かダンジョンにくれば慣れていくけど、油断すればミルワームに囲まれて危なくなるので注意だ。
今日は繁殖しすぎたものを探しに来たから、ここは逃げて先に進む。
「プルプル、落ちないように掴まってて」
プル! プルプルは答えた。けれどスライムは掴まることが出来るのかな……と思ってチラッとプルプルを見てみると、丸い小さな体からニュッと触手か小さな手みたいなのを二本伸ばして、キュッと僕に掴まっていた。かわゆ……い!
僕は、にやけた顔をしながら走った。
地下二階の休憩所の前を通り過ぎて、地下三階の場所へ移動しようとした。
「魔王様! 寄っていってください!」
ダンジョン地下二階 休憩所&宿泊所の中から声をかけられて、歩くのをとめた。
「へ?」
前はミレーヌが店員だったけれど今日は違った。振り返ると、緑色の髪の女の子が出てきた。
「初めまして、魔王様。私は
ラウネと名乗った女の子は、植物の花びらのような緑色のブラウスとスカートを着ている。腰辺りから蔓みたいのが左右に垂れ下がっていた。
ラウネはにっこりと微笑んで僕に続けて話をした。
「ここ、辺境の村ダンジョン地下 休憩所&宿泊所の店員に採用されました! よろしくお願いいたします!」
うん。丁寧で好感を持てる。冒険者に人気が出そうだ。
「こちらこそよろしく。魔王様って呼ぶのはやめてね」
僕は苦笑しながら答えた。
「あっ! 世を忍ぶ仮の姿……ですものね!」
「違います!」
僕は全否定した!
「あ、そうだ。ラウネ……さんは「呼び捨てでお願いします!」」
今度はラウネに全否定された。
「コホン。ラウネはこのダンジョンで、繁殖しすぎてるものを見たことがあるかい?」
僕は気を取り直して、ダンジョンの中の店員さんに聞いてみた。何かしら見つけたら気が付くだろうと考えた。
「繫殖しすぎるもの、ですか?」
ラウネは、ええと……と上を向いて考えてくれた。植物型魔物というけど人間の女の子と変わりない。言われなければ気が付かないだろう。
「あ! そういえば地下三階に、白い花とスイートバイオレットがたくさん咲いてましたね!」
綺麗でしたけど、とラウネは微笑んだ。
白い花は例の男の子を眠らせた花だ。それはあとで駆除をしなくてはならない。お医者さんに、医療用に使いたいと頼まれたので白い花は摘み取って渡すつもりだ。
「スイートバイオレットって確か、香水とかの原料にもなる花だよね?」
日本名は、ニオイスミレとかいう。花を砂糖漬けにして飾ったり、食用に育てて生のままサラダにして食べたりとか……。
「ラウネ、案内してくれるかな?」
僕はそのスイートバイオレットの花に興味を持った。さっそくラウネに案内をしてもらって地下三階へと向かった。
「まさか、魔王様……ではなくて、マオ様に会えたばかりではなく、ダンジョンを一緒に歩けるなんて光栄です!」
ラウネは両手を合わせながら、感激していた。なんでだろう?
「あ、マオ様。そこに、滅んだ人間の隠した宝石がありますよ」
ラウネに言われて、指をさした方向を見た。壊れた石の家の敷地、と思われる場所の中に入ったラウネは、テーブルの脚のくぼみにあった宝石を見つけ出して僕の手に乗せた。
「えっ? これ……」
僕の手のひらに乗せられた、親指の爪くらいの宝石をみて驚いた。
「ここに住み着いていた盗賊などの人間が滅んだあと、魔族で盗んできた宝石や色々な盗品をほとんど回収しました」
僕が……滅ぼした。
「多少、残っているのは魔族にとってあまり価値のない物。人間にはとても価値のある物。このくらいの宝石は、魔族は興味ありませんので魔王様に差し上げます」
「でも」
ラウネは僕の手のひらを包んだ。
「魔王様によって魔族は
真剣なまなざしに僕は手のひらにある宝石を返せなくなった。
「わ、わかった」
「はい」
僕が返事をするとラウネはにっこりと笑った。
ただ、気になったのは『僕によって魔族は救われた』という言葉。でも僕にはその記憶が思い出せない。
「さあ、行きましょう。マオ様!」
聞こうと思ったけれどラウネが先に行ってしまったので聞けなかった。
僕は急いで、ラウネのあとについて行った。
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