第5話 明日からお惣菜屋さんを始めます!



 「ブラウン家の子供達に聞いたわよ! ママさんが病気の時、お料理を作ってくれたのですってね!」

 

 次の日。ベルの作った野菜を買いに行こうと思って道を歩いていたら、村の奥さん達に話しかけられた。

 「それがとってもおいしいシチューみたいね? 食べたママさんは、すぐに熱が下がって回復したらしいわよ?」

 「マオ君の作る料理、おいしいのね!」

次々と奥さん達に褒められた。照れ臭かったけれど、おいしいって子供達が言ってくれてたのが嬉しいし、ママさんが回復してくれたのが良かった。


 「私も、マオ君の作ったお料理を食べてみたいわ~!」

「そうね! 毎日、三食作るの大変なのよね~」

 そうだよな。毎日、ご飯を作るのは大変だ。作ってくれる人に感謝だ。


 「ねえねえ! マオ君の作った料理が食べたいのだけれど、どうしたらいいかしら?」

 一人の奥さんがお世辞ではなく本気で聞いてきた。

「そうね。この村は、町みたいな食堂はないからねえ……」

 はぁ……と奥様達はため息をついた。


 僕は奥様達の、大変な食事作りの助けをしたいと思った。

「作りましょうか?」

僕がそう言うと、奥様達が「え?」と驚いたように顔を上げた。

「持ち帰りのおかずを数種類、作って売ろうと思います。『』ですね。明日、僕の家の前にテーブルを置いておかずを並べますから買いに来てください。」

 

「え! 本当? 今、収穫の時期で忙しいから助かるわ!」

「明日、そうですね……。お昼前の11時からと、夜ご飯前の4~5時頃に作ったおかずを家の前で売ります!」

 僕がそう言うと奥様達が嬉しそうに笑った。

「必ず行くわね!」「この村にも、そんな便利なものができるなんて!」

 皆に広めるわね! と言って奥様達は僕から離れていった。


 僕が料理人としてのはじめの一歩。

『お惣菜屋そうざいやさん』実はこの発想は、の記憶のもの。前世で僕は、日本人だった。

 よく覚えてないけれど、前世では不幸せだったらしい。悲しい記憶を断片的に思い出した。前世で僕は若くして亡くなったらしく、その後にこの世界へ異世界転生した。

 一度目の転生では……、失敗した。

二度とあんな選択はしてはダメだ。そのとき僕は殺された。思い出すと苦しくて、頭が割れるように痛くなるので思い出したくない。

 

 色々考えているとベルの家に着いた。

「あら、マオ! 野菜を買いに来たの?」

裏庭にまわると、ベルの育てた立派な野菜が実っていた。ベルは手袋と作業用エプロンを身に着けていて、野菜を収穫していた。

 

「うん。それでね……」

先ほどのお惣菜屋さんの話をした。自分の家族分の野菜だけじゃ足りないので事情をベルに言い、野菜を多く買えるようにお願いした。

「わあ! マオの料理人としての一歩目ね! まかせて!」

 ベルの心強い言葉に僕はホッとした。

「私も明日、買いに行くから!」

箱にたくさん入った、新鮮な野菜を抱えながら家へ帰った。


 「マオ、おかえりなさい。あら? いつもより多く、野菜を仕入れたのね?」

母が、僕の抱えた箱の中の野菜を見て言った。

 「うん。明日からお惣菜屋さんを始めるから、その分、多く仕入れてきた」

よいしょ、と野菜の入った箱をキッチンに置いた。


 「え? お惣菜屋さん?」

いきなり相談もなしで母に言ったので、驚いている。それもそうか……。僕は自分の家で使う野菜と、惣菜に使う野菜を分けながら母と話をしている。

 「相談なしで、ごめん。村の奥さんたちが困っているみたいで、なにか力になれないかと思って」

 「まあ! それはいい考えね。こっちの野菜は家の使う分かしら?」

「うん」

 母は家で使う野菜を仕分けてくれた。


 「家の前にテーブルを出して、昼前と夕方前にお惣菜を作ってそこで販売する予定です」

 反対されるかな……? と内心ドキドキとした。

 「いいじゃない! 私も手伝うことがあったら言ってね?」

ニコニコと母は反対どころか、手伝うと言ってくれた。……良かった。


 「おっ? なんだ、マオは商売を始めるのか?」 

父が仕事の手を休めて、キッチンへやってきた。

 「父さん」

父は武器道具職人で、家の隣に仕事場があってそこで仕事をしている。この村の人の農具から包丁やナイフ、大きなものでは剣や武器など扱っている。作ったり、修理をしたりしている。

 がっちりとした体格で僕も将来、父のような筋肉ムキムキになりたいと思っている。


 「そうなんだ。村の奥さん達の助けになるような、お惣菜屋を明日から始めようと思って」

 野菜の数と仕入れ値を紙に記入していきながら、何を作ろうかと考えた。

父は「ほう?」と言い、なにか考えてる様子だ。

 「奥様達のためにも総菜を作るのはいいが、働く者のためにも精のつくもの力になるものを作ってもいいと思うが」

 父の仕事は重いものを持ったり、力を使う重労働な仕事だ。父のアドバイスは、働く人側の意見だ。参考になる!


 「ありがとう、父さん! そのアドバイスは、取り入れさせてもらう!」

僕は父とパチン! と、手を合わせた。

 「なんだか……。女神様の鑑定を受けてから、急に大人になっちゃったみたいね」

母はちょっと寂しそうに言った。――僕は、心の中で『ごめん』と謝った。

 

 前世と異世界転生の一回目の記憶を思い出したので、僕は二度の記憶がある。異世界転生二回目の、このマオは記憶を思い出す前と感じが変わった……、と思われても仕方がない。


 「女神様の鑑定で皆、変わる。マオは、一歩目を歩き出した。それだけだ」

父はそう言って、仕事に戻っていった。

「父さん……」 

太い腕一本で稼いできた大人の背中が、かっこいい。


 「僕も頑張るぞ!」

やる気が出てきた! まずはお店に並べる総菜を考える。 

 家庭料理に詳しい人は目の前にいる。母だ。母の作る、料理は美味しい。

「母さん、定番の料理とか教えてくれる?」

 「いいわよ」

僕は母の夕飯の手伝いをしながら、にぎやかに話しながら総菜を考えた。


 「楽しみだ」

明日は仕込みをするために、早起きしなくちゃ! 僕はベッドで横になって、明日のことを考えながら眠りについた。

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