第1曲 俺とお前のアルペジオ①

世の中なんで、こんなに平和なんだ。

そう思ってからと言うもの、何も思いつかない。

俺は、練習スタジオの屋上で青空を見ながら、タバコに火を着けた。


『いい歌詞ってのは、考えるもんじゃない。降りてくるもんだ。』


なんて、どこかの誰かが言っていた気がするけれど、そんなこともない。

結局のところ経験と、考える力だ。


才能なんてのもあるかもしれないけど、経験してないことを繊細せんさいには書けないし当たり前のことを書いたって、そんなのが響くのは、歳を取った奴か人生経験が不足している奴らだけだ。


そんなかたよった俺の考えた曲で、誰かを幸せに…なんてもう八方塞はっぽうがりだ。


「あぁーもぅ何も考えたくねぇ。」


今日から、新しいメンバーがやってくる。

糸ノ瀬いとのせ 姫星きてぃ、名字も呼びずれぇし名前はキラキラネーム。

名前は呼ぶな!とか言われるしまつ。


だが、ギタースキルはプロ並みだった。

カッティング、タッピングは、お手の物。

はっきり言って逸材だと思う。

スキルだけなら佐山以上。

今まで、どこのバンドにも属さず経験がないのが、おしいぐらいだ。


パンクロックな格好をしていて、ツインテール。

あった時はタバコを吸っていやがった。


女のくせに、なんて言いたかないがカッコいい奴だった。


まぁ問題は、いろいろあるが背に腹は変えられん。

「はぁー。だりぃ。」



───ガチャ

屋上のドアが開いた。


近藤こんどうさん。ちっす。」

ベースの世永利よながり 蓮弥れんやがドアを開け入ってきた。

「もういたんすね。」


蓮弥は、ポケットから煙草を取り出し、俺の前のイスに腰掛こしかけた。


「蓮弥。今日来る奴気をつけろよ。」


「あー、前言ってた人っすよね。でも、女っすよね。余裕っすよ。」

こいつは、ひょろいくせに何故こんな感じなのかわからん。

「はは。」


もともと、こいつとは専門学校の後輩で、と言っても3個歳は、はなれている。


昔、仲のよかった先生に学校でバンドのPAを頼まれたことがあってそこで出会った。

その時のこいつはビジュアル系バンドだったが。

格好は、今でもそんな感じだ。

顔は、そこそこイケメンなんだが、化粧をしている意味が俺には、まったくわからない。


そして、所謂いわゆるバイセクシャルってやつだ。

ま、ベースがうまけりゃどうでもいいことだが。


「可愛いすか?」

そういって蓮弥は、タバコに火を着けた。


「どうだろうな、人によるんじゃないか?ところで、拓史は、まだか?」


「知らんす、あんな奴。」


拓史は、ドラム担当だ。

いまいち、蓮弥とうまが合わなくて困っている。


「はぁー。」

ため息ばかりが増えていく。

「とりあえず練習すっぞ。」


「へーい。」

俺達は、タバコの火を消し灰皿へ入れて練習スタジオへと降りた。



───ガチャコッ

スタジオの重い扉を開いた。


「サウロさん。おはようございます。」

表情を変えずに挨拶をしてきた、こいつがドラムの斎藤拓史さいとう たくしだ。


これ以上仲よくならないぞ。

そんな気合いがうかがえる。

もともと佐山と拓史が仲がよかった。

俺が別のバンドから引き抜いてきたんだが、少し距離を取られている気がする。

これからが少し不安だ。

俺のことも、信頼はしてくれている様には、思うのだが。

22歳で、背は俺と同じくらいか180センチぐらいある。

誠実な感じで短髪。

かなり正確なドラムを叩く。


まぁこいつは、こいつの事情がある。

ドラムがうまけりゃそれでいい。


「あの、サウロさん。今日から来る子に曲渡したんすか?練習オリジナル曲でしょ?2週間後ライブじゃなかったでしたっけ?」

拓史が、スネアドラムを調整しながら聞いてきた。


「あっ、忘れてたわ…」



「…まぁいいだろ。会って話した時、何曲か、コピーしてる曲で知ってる曲あったから、それでとりあえず今日は、練習するぞ。」


「あーわかりました。」

そう返事をして拓史は、ペダルをとりだしていた。


俺はギターをとりだして、アンプに繋げて、エフェクターを調整した。

周りをみると蓮弥と拓史も準備ができたみたいだった。


「とりあえず、あいつが来るまでオリジナル曲練習するぞ。」


適当な返事を返されて、俺はギターを鳴らし始める。




俺達がしている曲は、ハードロックに近いがメロコアだ。

今となっては、それなりファンも付いてきたが、もう少しポップな曲のほうがいいんじゃないか?なんて言わたりもしていた。


バンドメンバーとも話し合ってようやく今の形が板についてきた気がする。


佐山が辞めて新しいギターが女だとファンが減ったりするかもしれない。


だが、今まで聞いてくれなかった層が聞いてくれたりもするだろう。


うまくいけばいいが今後が不安だらけだ。


三曲通しで練習して、一旦俺達は持ってきていた水を飲んだ。

スタジオは、クーラーは効いているがモヤモヤと熱が浮いている感覚がある。

その中で、俺達は上手くなっていくんだ。


───ガチャコッ


スタジオの重い扉が開いた。

そこには、糸ノ瀬いとのせと…知らない男が立っていた。


「お前誰だよ。」

俺は、反射的にその言葉がでてきていた。

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