第9話 暗闇の窟の出会い
西の洞窟へは、セカロンから西へ伸びる街道を20分くらい走った所だった。
この街道の走る起伏のある草原『群獣の原』は、その名の通り敵MOBが複数体で襲ってくるエリアである。運営的には、ここで対複数戦の基本を覚えなさい、という事だろう。
ただ、街道を進んでいれば、出現する敵はわずかで、俺も数回の戦闘をするだけで目的の洞窟に辿り着くことが出来た。
ただその数回の戦闘でも、『侍』と『剣術』のレベルが5に『クリティカル』もレベル3になってしまった。
やはり先のエリアなだけあって、経験値が少し多いらしい。あとは、複数体で襲ってくるのもあるか。
3枚のアビカのレベルが上がった事により、【烈剣・蛟】【烈剣・穿】【烈剣・塁】とアーツがさらに3つ解放された。
どれもオーラを刀に纏わせる【烈剣】の派生アーツなので、見た目と使い方に差はない。相変わらず必殺技感は皆無だ。
「まあ、統一感って大事だしな」
おそらく【侍】はこういう通常攻撃を拡張していくデザインの職業なのだろう。
まあ、それよりも今は洞窟だ。
洞窟の入り口には、登録用のポータルがあって、それを囲むようにまばらに人が立っている。
見た感じ、数組のパーティが洞窟に突入前の休憩や打ち合わせをしてる感じか。
俺も早速、ポータルに触れて登録した。そして、周りに倣って一度、確認作業をする。
ステータス
名前;ユーフラット
性別;男性
レベル;7
HP;1000/1000 MP;1/26 SP;54/54
職業;【侍LV5】【鍛治士LV1】
称号;【ルーキー】
ジューカー;【カース・オブ・ブラック】
装備;【数打ちの刀】【粗末な革の胸当て】【粗末な革籠手】【革のブーツ】【ピッケル(大)】【カンテラ】
スキル;【剣術LV5】【生産の基本LV1】【クリティカルLV3】【発見LV1】【採掘LV1】
ショートカット;【初心者ポーション】【バインダー(採掘用)】
デッキにピッケルとカンテラを加え、ボックスのショートカットに回復薬とバインダーを登録した。
バインダーは、ショートカットに設定しておくと、特定の条件、この場合は鉱石を自動的に格納してくれる特殊なアイテムだ。
採集作業中でもボックスの容量を圧迫しない便利アイテムだが、死亡時などに内容物ごと失うリスクもあるので注意が必要との事。
どうもショートカットのアイテムは、すぐ取り出せるよう外部ポケットにカードを入れている設定で、ボックスに入っていない扱いをされるらしい。だから、死亡時になくなってしまうのだ。
なので「特にスキル系のバインダーは、絶対に持ち歩かない事」と、アヤは口を酸っぱくして言っていた。
曰く
「ショートカットの設定は、スキルによっては他人からでも見えるんだよ。だから、プレイヤーキラーは、ショッカを見て獲物を探すの」
いるのか、PK。また、めんどくさい。
まあ、それはともかく、そういった理由で大事なカードはデッキとボックスに必ず入れる。バインダーは、必要最低限だけ使い、重要なマテカやアビカなどをバインダーに入れる場合は、必ず拠点に保管する。
これがカード管理の鉄則という話だった。
まあ、デッキにすら空きのある今の俺には、あんま関係ない話だが。
「・・・ん?」
そこで、ふとステータス画面に妙なアラートが出ているのに気づいた。なんだこれ?
(お兄さん、『空腹状態』になってますよ)
すると、先に事態を察したフェニスの声が脳裏に響いた。
「空腹?」
(EOJでは、時間経過で『満腹値』が減って、一定以下になると『空腹状態』になるんです。こうなると、ステータスが減少して最悪死にます)
「マジで!?」
(本当です。ボックスに携帯食が入ってるので、とりあえず食べて下さい)
「お、おう!」
言われるがままにボックスを漁って【携帯食】を引っ張り出した。
味のないカロリーバーのような代物だったが、減っていた『満腹値』が6割まで回復した。
あっぶねぇ。あのまま気づかずに洞窟に突入してたら、確実に死に戻ってた。
念の為、もう一個食べて『満腹値』を全快させておこう。
これで残りの【携帯食】は、あと三つ。
次にセカロンに行った時には、必ず買い込んどかないとだ。
「ん?待てよ、餓死があるって事は、料理も生産ジャンルにあるって事だよな?」
そういやハードオックスのドロップも【牛肉】だった。という事は、必ずしもこのマズい【携帯食】じゃなくても良いのか?
流れで街を2つとも素通りしてきたので、その辺の実情が分からない。
「・・・まあ、その辺は後にしよう」
正直、食べ物絡みは非常に気になるが、今の目標は、明日の配信までに刀を新調する事だ。
ここで気になるからって町には戻れない。
「よし、いくか」
「ちょっと待ちなさい」
「ん?」
洞窟に向かって足を踏み出した瞬間、不意に後ろから声がかかった。
「アナタ、まさかこのまま先へ進むつもりなの?」
そこには1人の女性プレイヤーが立っていた。
金髪のロングヘアーに白い鎧。腕と足は鎧に合わせた白い籠手とタイトパンツ、ブーツで固め、腰には細身のロングソードが差されていた。
おお、なんか明らかに装備が良いな。そして、この白一色のコーディネートに負けないくらいの美人だ。
いくら仮想世界の中だと分かっていても、ここまでのレベルだと、ちょっとビビる。
なにせリアルの俺ってただの元配達員だぜ?いくら対面配達で人と話すのには慣れていても、女慣れするような環境じゃないのだ。
とはいえ、ここで黙り込む程ではないので、俺はさっさと頭を宅配モードへ切り替えた。
「あぁ、ええっと・・・すみません。何の事でしょうか?」
「だから、そのままその洞窟に入るつもりなの?って聞いてるのよ」
「ええ、まあ」
「引き返しなさい」
「・・・へ?」
俺の返事を聞いた途端、彼女は鋭い声と眼差しでそう俺へ言い放った。その口調と視線には、有無を言わさぬ強さがあった。
思いがけない返答に面食らっていると、彼女は言葉を続けた。
「その装備で、どうやってここまで来たのかは知らないけど、その洞窟から先は、ここまでのエリアとは別物よ。悪い事は言わないから、もっとちゃんと準備をしてから挑みなさい」
「あ、心配してくれてるんですか」
一瞬、いきなり何を言うんだと思ったが、その言い分は、至極真っ当な忠告だった。
俺が自分の意図を理解したのを察すると、彼女は面倒くさそうに嘆息した。
「流石にその装備をしてたらね。この洞窟は、知らないと出られなくなるようなギミックや罠がいっぱいあるの。それに、モンスターのレベルもここから急に高くなるから、ここまでのようにはいかないわ。初期装備の【ルーキー】にどうにかなるようなエリアじゃないの」
なるほど。単に暗いだけのエリアじゃなくて、ちゃんとしたギミックのあるダンジョンって事か。
確かにそれは、簡単に進める気はしないなぁ。モンスター相手はともかく、フィールドギミックを解いていく脱出ゲームとかは俺、苦手なんだ。
「忠告、ありがとうございます。でも、先に進むつもりはないので、大丈夫です。入り口付近で鉱石を掘りたいだけなんで」
「鉱石っていう事は、生産プレイヤー志望なのね」
「えーと、まあ」
実は、妹に薦められたから【鍛治士】を取っただけで、中身はバリバリの戦闘厨なんだけどね。
とはいえ、そこは言うとややこしくなるので、とりあえず話を合わせる。
すると、盛大な溜息を吐いてから彼女は続けた。
「だったら尚更、一度、ファースに戻りなさい。ちゃんとスキルと称号を取って『組合』に参加すれば、同業の人と合同で私みたいな護衛を雇えるから」
「・・・護衛?」
「そういうジョブミッションがあるのよ。あそこ、見て」
彼女が示した先には、四人の男女混成パーティがこちらの様子を伺っていた。
どうやら彼らが彼女のパーティメンバーらしい。
「私みたいな【兵士】とか【傭兵】系のプレイヤーには、定期的に生産プレイヤーを護衛する依頼が『組合』経由で入ってくるの。3~4人の生産職に1~2人の戦闘職が付くパーティミッションね」
「ああ、強制マッチプレイ的な?」
「そういう事。あそこにいる3人は、上位の生産プレイヤーよ。腕の良い生産職ほど、こうやって護衛を雇って採掘や採集をするわ。その方が安全で効率もいいし、ミッションポイントも貯まるからね」
どうやら所属先で発注されるミッションを熟すと、ポイントが得られるようなシステムがあるらしい。
なるほど、その中に『護衛依頼を出す』的なミッションがある訳か。護衛を雇えばその分、護衛役に報酬を払う必要があるが、それで安全が確保できる上に、ミッションポイントも手に入る。
色んな意味でメリットしかなかった。
「だからアナタも、背伸びしないで、まずは護衛を雇えるようにファースで頑張りなさい」
「ご忠告痛み入ります」
「そう。だったら・・・」
「ですが、自分にも予定がありまして。失礼ながら、先に進もうと思います」
「はぁ?!ちょっとアナタ、私の話聞いてた?!」
「聞イテタ、聞イテタ」
でも、俺にだってやりたい事があるのだ。それに、今更正攻法で進めるのもなんである。
「もちろん、忠告は素直に受け取りまして、迂闊に進むような事はしませんから。じゃあ、そういう事で」
「待ちなさい!ならせめて、MPをちゃんと回復してから行きなさい!MPがなきゃ、【ハインディング】も【エスケープ】も使えないわよ!?」
「ん?・・・ああ、俺のMPが見えるのか」
普通は見えないはずのパーティメンバー以外のステータスが見えるとは。
この人、やっぱレベルが高いんだな。明らかに初期スキルにない能力を持っている。
正直よく分からなかったが、彼女は、俺が何かMP消費するアーツを使って『群獣の原】を抜けてきたと思っていたらしい。だから、余計に心配してくれた訳だ。
だが、それは見当違いである。
「いや、それは仕様なんで大丈夫です」
「は?・・・仕様?!」
「俺、MPがずっとこのままなんですよ。だから、気にしないで下さい」
「はあぁ?!何それどういう・・・」
「ミーちゃ~ん、そろそろ行くよ~」
「く・・・?!」
当然の疑問を、護衛対象のパーティメンバーの声が遮った。彼女はその声に一瞬だけ迷う。
しかし、さすがに見ず知らずの俺の相手を続ける気にはならなかったようで、「今行く」と返事を返した。
それでもこのまま俺を放っておくのも気が引けたようで、最後に振り返って一言。
「忠告はしたからね!」
「ええ、ありがとうございます」
地味に貴重な情報だった。俺は嘘偽りない気持ちで頭を下げる。
そしてこちらを気にしながらも、彼女はメンバーと合流して洞窟の中へと消えていった。
それを見送って、小さく嘆息。
「・・・おせっかいだなぁ。俺みたいな奴なんて放っとけば良いのに」
もちろん良い意味で、だ。
ハードオックスの所でも思ったが、案外このゲーム、既存プレイヤーの初心者への支援が手厚い。民度の高いゲームの証拠だ。
初っ端から前線プレイヤーに喧嘩を吹っ掛けられたりしたから少し心配してたのだが、杞憂だったかもしれねえな。
そんな事を思いながら、俺も改めて洞窟の中へと降りていくのだった。
「あったまテカテーカ♪冴~えてピッカピ~カ♪~~~」
俺は適当に唄を口ずさみながら、硬い岩肌にピッケルを叩きつける。
上段に振り上げたピッケルを、その重さを使って落とすように振るう。
ここで注意する事は、とにかくテンポと命中率だ。
採掘ポイントを示すマーカーに、出来るだけ正確に一定の間隔でピッケルの先端を落とし込む。
こうする事で、クリティカルとチェーンダメージを維持出来るのだ。
色々試してみた結果、採掘作業にはコレが一番良いらしい。
さっきから唄を歌っているのも、この為だ。タイミングが命の作業なので、歌でテンポを取るのが一番簡単なのである。
昔の炭鉱夫もこうやって仕事をしていたというし、まさに由緒正しき作法という奴だ。
(・・・だからって、ドラ◯もんはどうなんですかね?)
良いんだよ、なんでも。要はちょうど良いテンポの曲ならなんでも良いんだから。
そうやって岩に傷を入れていると、不意にどこからともなく拳大の石が落ちる。
すると、脳内でインフォメーションが聞こえた。
〈カードを入手しました。〉
〈カードのレベルが上がりました。〉
お、またカードのレベルが上がったな。俺はそれを聞いて、ピッケルを振る手を止めた。
腰のベルトからスマホを取り出してステータスとショートカットのバインダーをチェックする。
ステータス
名前;ユーフラット
性別;男性
レベル;9
HP;635/1000 MP;1/30 SP;48/62
職業;【侍LV7】【鍛治士LV1】
称号;【ルーキー】
ジューカー;【カース・オブ・ブラック】
装備;【数打ちの刀】【粗末な革の胸当て】【粗末な革籠手】【革のブーツ】【ピッケル(大)】【カンテラ】
スキル;【剣術LV7】【生産の基本LV1】【クリティカルLV9】【発見LV8】【採掘LV7】
ショートカット;【初心者ポーション】【バインダー(採掘用)】
バインダー(採掘用)
収録数;92
石×34
銅鉱石×12
錫鉱石×10
鉄鉱石×36
「おー、思ってたより上がってんなー!」
洞窟の入り口から10分くらい進んだこの行き止まりで、ひたすら掘ってただけなのだが。
まあ、掘っている音でゴブリンやらデカいトカゲっぽいのやらが襲ってくるので、採掘だけやってた訳でもないけどな。
だから【採掘】だけじゃなく【剣術】や【侍】のレベルも上がった。
だが、それ以上に【発見】と【クリティカル】の上がりが素晴らしい。
まあ、戦闘も採掘でも大活躍だったから当然だが。
【発見】は、暗闇の中で敵や採掘ポイントを見つけてくれるし、【クリティカル】はレベルの低い俺のステータスを常に補ってくれてる。
この2つがなかったら、多分ここまで上手くはいかなかっただろう。
さすが文香。やはりこういう時、アイツのチョイスに間違いはない。
「バインダーもそろそろ一杯だし、一度引き上げるか」
まだ少し入るし、なんならボックスに入れても良いのだが、なんだかんだで、もう良い時間だ。
何度か入り口のポータルに戻って、トイレ休憩を挟んだとはいえ、ドリマが届いてからもう6時間はログインしている。
昼飯抜きくらい仕事柄、屁でもないが、流石に夕飯は食べないとぶっ倒れる。
VRゲームは脳を酷使するので、栄養補給は案外重要なのだ。
「・・・ゼリーはさっきの休憩で飲んじまったし・・・夕飯はカップ麺かなぁ」
(・・・ダメに決まってんでしょうが)
「うぐっ・・・」
食事の準備が面倒で横着しようかと思ったのだが、ドスのきいたフェニスの声が、その考えに容赦なく釘を刺した。
普段は大人しいフェニスだが、こと、生活習慣に関しては、なかなか厳しい一面を持つ。
特に食生活に関しては、不必要にインスタント食品を使うと苦言を呈すし、栄養バランスなどにも細かく口を出す。
しかも面倒な事に、コイツは母さんとも普通に繋がっているので、無視していると容赦なくそちらに通報するのだ。
今の俺は、無職。しかも、母さん自身が文香の『配信者』という仕事に否定的なので、ここで通報されると面倒事になるのは確実だ。
「・・・お前さぁ、俺が無視出来ねえの分かってて言ってんだろ?」
(なんの事でしょうか?私は、お兄さんに、お母さんに心配かけないようにご飯をしっかり食べて貰いたいだけですので♪)
「・・・ったくよぉ」
まあ、昼飯はゼリーで勘弁して貰ったしな。夕飯は、それなりにしっかりした物にするか。
東京に一人で出てきて以来、俺もフェニスのおかげでそれなり以上に料理が出来るようになった。
なので、冷蔵庫にはちゃんとそれなりの野菜などの食材が常備されているし、その気になれば台所に行くだけで結構色々作れる。
ただ、今は、ゲームのスタートダッシュの真っ最中だ。
俺のEOJでの今後を占う大事な時期なので、もう2~3日くらい多めに見て貰いたいんだがなぁ。
(・・・そういえば最近、私、お母さんとあんまりお喋りしてないんですよね~。久しぶりにお母さんに色々聞いて貰っちゃおっかなぁ~)
・・・ダメみたいですね。
俺は、重々しいため息を吐くしかなかった。
まあ、こうなったらサクッと夕飯とか諸々済ませて、ログインし直すしかねえか。
ちゃんとやる事やっとけば、多少の夜更かしくらいは多めに見てくれるだろ。明日はアヤとの約束もある訳だし。
という訳で、俺はさっさと洞窟の入り口へ戻る事にした。
洞窟の中は、3mくらいの幅の道で小さな広場をいくつも繋いだような構造をしている。
一部屋に3~4の通路が繋がっていて、結構複雑に奥へと続いているそうだ。
まあ、俺は、フェニスの案内で採掘ポイントのある行き止まりに直行してしまったので、詳しい事は全く知らないが。カンテラの灯りとマップを頼りに俺は元来た道をさっさと戻った。
そして2つ目の部屋に辿り着いた所で、俺はふと違和感に眉根を寄せた。
「・・・?」
(・・・どうかしましたか?)
「モンスターがいねえ」
そう。さっき通った部屋でも思ったのだが、モンスターが1匹もいないのだ。
部屋と通路を繋いだ構造は、メタ的なことを言えば、プレイヤーがモンスターと戦いやすくする為のものだ。
なので、各部屋にはモンスターが待ち構えているとみてほぼ間違いない。
なのに、なぜか2回連続で、部屋でモンスターに遭遇しなかった。
偶然、他のプレイヤーに倒された後だったのか?・・・いや、でもなんか変だ。
胸の奥がザワザワして落ち着かない。
「・・・なんか嫌な感じだな」
(そうですか?襲われずに入り口に戻れるなら、良い事じゃないですか?)
「・・・・・・」
まあ、フェニスの言い分は確かにそうなのだが、俺は嫌な予感を拭えず先を急ぐ。
そして、次の部屋に向かう最中、俺はその予感が正しかった事に気づいた。
「ッ?!・・・」
なんと通路の向こうから、爆発、怒号、そして悲鳴が聞こえてきたのだ。
しかも、それらを塗りつぶすくらいの勢いの尋常じゃない数の獣の咆哮と共に。
俺は、咄嗟に通路を駆け出していた。
全速力で通路を抜け、明るく照らされた部屋へと駆け込む。
そして俺は、そこに広がっていた地獄のような光景に思わず戦慄してしまった。
「ッ・・・このぉ!離れ・・・ろ!!」
「きゃああ!待って待って!死んじゃう!死んじゃうから~!!」
「ああ!もうMPが・・・!ねえ、早く回復して!!」
「くっ!・・・おい、ミーティ!まずいぞ、どうする?!」
「そ、そんなこと言われたって・・・!!」
「「「「「「GYA GYA GYA GYA GYA GYA GYA GYA~!」」」」」」
部屋の奥では、頭上に光の玉を浮かべたパーティが、大量のモンスターに取り囲まれていた。
その数は、どう考えても尋常じゃない。
ゴブリン、ロックリザード、キバコウモリ、それにまだ見た事のないデカいネズミとスケルトンらしきモンスターもいる。
俺は、そのあり得ない光景に息を呑んだ。
なるほど、道中、モンスターに出会わなかった訳だ。
おそらくこの階層にいる全てのモンスターが、今この部屋に集結しているのだ。
「くそ、ヤバすぎんだろ!!」
いくらなんでも、数が多すぎだ。このままだと、襲われているパーティは全滅する。
俺は、反射的に腰の刀を抜いた。しかし、そのまま飛び出す寸前、脳裏でフェニスが声を上げた。
(お兄さん!ストップ!ストップ!!)
「あ?・・・なんだよ、早く助けねえと!」
(ダメです!今、お兄さんが横槍を入れたら、共闘ペナルティが発生しちゃいます!」
「くッ・・・!」
そうだ。EOJはMMOだ。
大勢のプレイヤーが同じフィールドでプレイするシステム上、パーティメンバーでもないプレイヤーが獲物を横取りしたり、ボスを規定以上の人数で倒すような不正が出来ないように、システム的な制限があるのだ。
だから、ここに俺が考えなしに飛び込んでしまうと、俺も、襲われているパーティにもペナルティがかかってしまう。
(簡易メニューのパーティ欄から、チームアップ申請を!・・・早く!!)
「えっと・・・これか?!」
視界の端にある簡易メニューアイコンを視線入力で起動。
呼び出したメニューウィンドウを素早く叩いて、申請を襲われているパーティに送りつける。
「!・・・こいつは?!」
「おい、助けるから、受理しろ!」
「あ、アナタ、さっきの・・・!」
「ん?・・・あ!」
なんと襲われていたのは、洞窟の入り口で声をかけてくれた女性プレイヤーとその仲間達だった。
俺の存在に気づいた金髪の女性プレイヤーが、構えた盾の向こう側で目を見開く。
しかし、それも束の間、彼女は鋭い声音で叫び返してくる。
「何やってるの!早く逃げなさい!!」
「は?・・・いや、手伝うから、さっさと申請を・・・!」
「やめなさい!アナタみたいな初心者じゃ、無駄死にするだけよ!いいから、さっさと逃げなさい!!」
いやいや、どう考えても大ピンチなのに、何、こっちに気遣ってんだ!?
そんな事言われたら、余計に引き下がれねえだろうが!
「うるせえ!さっさと受理しねえと、このまま突っ込むぞ!?」
俺は抜いた刀を振り翳し、俺は宣言する。
「行くぞ!!」
「ちょっ?!」
「ええ~?!」
「おおい?!」
そして、ギョッとする一同を無視して、俺は敵集団目掛けて地を蹴るのだった。
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