第7話
「春明君……!?」
ラシオンは目を見開いて驚愕した。そして即座に絶望へと変わる。
春明は魔法なんてものは使えない一般人。
魔王軍の道化師に勝てる訳がない。
「きひっ!」
道化師は察した。
この男は憎き王女にとって大事な存在であると。
ならばそれを残酷に殺せば、深い絶望を刻みこむことが出来る。
「笑ってんな、気持ち悪ぃ」
「ええ、失礼っ!」
刃を生成し、首目掛けて突き刺す。
鋭いそれは春明の肉を容易く切り裂き、赤黒い血を放出する。
はずだった。
「うぶっ!?」
避けられた。そして殴られた。
拳が顔面にめり込み、道化師の鼻から灰色の血が滴り落ちる。
「……いって」
春明も避けきれなかった攻撃を受けた首筋を抑えている。
「……何故、避けれた?」
「そういうことしてくると思ったから」
「は?」
春明の発言の意味がわからず、道化師が首を傾げる。
それを見た彼は不快そうに顔を顰めた。
「……覚えてないか? お前が殺した七光りの馬鹿息子の顔は?」
その顔を見て、ラシオンと道化師は同時に驚く。
七光りの馬鹿息子。
その言葉は二人の耳には馴染んだものだった。
「はっ! 驚いた、確かに覚えてますよ。高貴なる血筋に生まれながら、その力を全く受け継がなかった落ちこぼれのことはね!」
再び多数も刃物が出現した。
それらは狂いなく、春明へと襲い掛かる。
今度こそ、彼の全身に深く突き刺さった。
「……ヴァルア!」
咄嗟にラシオンは『彼』の名前を呼ぶ。
そして駆け寄り、涙を流す。
「馬鹿! ……どうして!」
「……初恋、だったからな」
ずっと、気になってはいた。
大勢が似て見ぬふりをした中で、彼だけは手を差し伸べてくれた。
酒を飲み、無気力に生きる自分に何も言わず、家に置いてくれた。
ただの優しい良い人というだけじゃ説明がつかないということは、薄々感じてはいたのだ。
「……驚いたよ。お前がお前のままでこっちに来てたと知った時は」
「喋らないで! 傷が、ああ、血が……っ!」
「あの時とは違って、今度こそ守りたいと思ったんだけどなぁ。カッコつかねぇもんだな……」
血を吐き出しながら、『彼』は苦笑する。
ラシオンは泣きながら傷を抑える。
しかし如何せん傷が多すぎる。
「ヒャひゃひゃひゃ! こりゃ良い、ケッサクだ!」
道化師は手を叩いて嘲笑う。
それを聞いて、ラシオンの堪忍袋は途切れた。
「……さない」
「あん?」
「あなただけは! 許さない!」
ラシオンの全身から光が放たれる。
それは誇り高き王家の証。勇者の代から伝わる癒しの力だ。
春明の傷が段々と癒えていく。
「んなっ!?」
服装が変わる。
血で汚れた不格好な寝間着から、美貌を際立てる美しい姫騎士の姿へと。
手には聖剣を持ち、凛とした振る舞いでその場に立つ。
「……はっ! 今更力を取り戻したから何だってんだ! こっちには魔王軍の力が入ってんだよ!」
だからどうした。
ラシオンは道化師の叫びを一蹴する。
そして剣を振るう。
それは言わされた理想によるものではない。
他ならぬ、彼女自身の意志で振るわれた剣。
その光は骸の体を裂き、亡霊の恩讐を浄化する。
「ぎゃあああああああああああああああああ!?」
道化師は悲鳴を上げ、そして消えた。
残されたのは二人だけの玄関。
半開きのドアから聞こえる鐘の音が、終わりが来たことを示していた。
◆
「「いただきます」」
春明とラシオンは隣同士で食卓に着いている。
照れくさくて、互いの顔は見られない。
しかしその肩はしっかりとくっついていて。
確かな熱を伝えあっている。
「そろそろ年明けるな」
春明が呟く。
温かな蕎麦を味わいながら、二人は新たなる時間の幕開けを迎えるのだった。
ワンルーム・プリンセス 中二階 @amatougarasi
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