恋文。 ~20年の時を超えて~

水嶋 穂太郎

第1話

鈴木盛人。

41歳、男性。

年齢と彼女いない歴はいっしょで、とうぜんながら女性経験なし。

社会人は1年ちょっとでリタイア。ずっと無職。


高校の同窓会に顔を出すのも気が乗らならないので欠席したし、会社の同期で集まろうとなんども誘われたがいちどだけ参加して以来は疎遠になった。


外出することが、すでにまれだったりする。

おまけに精神疾患にかかっており、障がい者年金を命綱としている。

そんなやつではあるが、成し遂げたことはあった。

現在で言うところのeスポーツで、日本一になったことがある。

誇りとまではいわない。

けれど、ほかのひととは違った経験をした、くらいは思ってもいいだろう。



あれは、西暦2000年の夏だった。


幕張メッセのステージに立ち、とあるテレビ番組の代表選手として地区大会を勝ち抜いてきた猛者たちと肩を並べた。


ステージ上は、もくもくと焚かれた二酸化炭素の白いけむりや、ステージを囲むおおぜいの観客たちによって、とても息苦しく――はじめての環境だった。ほとんど、とあるテレビ番組を主戦場としてきた俺は、しんと静まりかえっていて換気のゆきとどいたスタジオのほうが慣れていたので、びっくりしたものだ。


緊張は、していなかった。

なぜか負ける気はしなかった。


なので、撮影スタッフから「どのくらいまで勝ち上がれそう?」といった待機室での問いかけに、「優勝に決まってるじゃないですか」と返した。へらへらと笑いながら。地区大会優勝の猛者たちもその部屋にあつめられていたんだから、ちょっとした阿呆に見られてもしかたがない。「あたまおかしくなった?」と思われても「ちょっとなめてない?」といらつかれても文句はいえない。


でもさ。

獲るとき、ってたぶんそんなもんだよ。



さて、と。

じつはこのお話は、俺が俺に向けて語っているわけじゃない。不特定多数の読者に向けてでもない。たったひとり……『あなたに向けて』つづりたいものなのだ。

おはよう、澤快枝さん。

俺をどんぞこから引っ張り上げてくれた恩人。

俺の彼女。

俺がせかいでいちばん、たいせつにしているひと。


自己紹介をすこし訂正しよう。彼女いない歴と年齢は一致していない。まだ数ヶ月だけど。彼女はいる。気は早いかもしれないけれど……人生のパートナーとしていっしょになりたいとも考えている。



あなたに向けてつづりたい、と言ってすぐに。できればほかのひとが読んでもたのしめる書き物にしたいし、なりそうなのは。もう創作者のジレンマかもしれない。


彼女との出会い……いや、再会は現在ならではのものだった。


彼女と再会する半年くらいまえのこと。俺は、著作権が自分にない動画を、YouTubeにアップした。迷惑がかかるといけないので、名前はかかないけれど、お世話になっている小説の先生からは、「それ完全にアウトだからやめなさい」と言われている。けれど、動画はアップしたままだし、いまのところ消すつもりはない。あの動画は、かつて戦いあった同士たちが再集結するための『道しるべ』として役立ってほしいのだ。もっとも、著作権をもっているテレビ東京さんや、任天堂さんに消すよう要請されたら消す。それまでは、ゆるしてもらいたい。


そして、その『道しるべ』は、彼女との再会をもたらしてくれた。


俺は、現X(旧Twitter)を利用しているのだが。ある日、そこにコメントをもらった。ひょっとして、自分のしっている方かなと思ってコメントさせてもらった、と。コメントのやりとりをしていくうちに、これは俺のことを言っているのでは、と察知した俺は、ダイレクトメッセージに切り替えて確認をとった。


「俺が鈴木盛人だよ」

「やっぱり盛人さんだ! わたしです、澤快枝です!」


彼女との再会は、SNSで。

じつに20年ぶりの再会だった。

彼女もまた、とあるテレビ番組を愛した出演者。俺と志をおなじくした者である。


彼女は、大乱闘スマッシュブラザーズという対戦型ゲームで、番組出演をはたした猛者だ。俺は、このゲームにおいて番組出演までいったことはない。ちょっとしらないひとのために解説すると。番組で行われるのは、いわゆる優勝決定戦なのだ。そこまでに、すくなくとも1回は予選会がある。予選を勝ち抜かなければ、決勝の舞台にあがることすらできない。


なかなか、きびしい世界だろう?

でも俺は、獲った。


自信にしていいかはわからなかった。自信にしていいんだよ、と教えてくれたのは彼女。彼女にとっては、いまでも俺はマリオテニス64というテレビゲームで日本一を獲った覇者であり、ポケットモンスターで番組の対戦会に出演をはたした猛者であり、彼女を導いたやさしいお兄さんなのだ。


彼女を裏切りたくはない俺は、日本一としての自分を再確認し、取り戻した。

からだに一本の芯がとおったようだった。



いまなら、当時の俺を書ける気がする。



書くための技量も、記憶も足りないかもしれない。

けれど、気力だけは充実している。

彼女に語り聞いてもらうために、書こう。

いかにして、どこにでもいそうなゲーマー男子高校生が、日本でもっとも優れたプレイヤーとして賞賛されるようになったかを。


できるなら、このお話が、彼女だけではなくほかの……とくに「自分にはなんのとりえもない、と学校の机にふせっているような高校生」にも伝わりますように。俺は全力で応援する。

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恋文。 ~20年の時を超えて~ 水嶋 穂太郎 @MizushimaHotaro

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