第269話

「葉崎ですか。

確かに俺の後を任すのには適任。」


「季里乃さん?」


話始めた季里乃に首をかしげる真治。


「俺もガキが生まれてこっちに回された口だからな。」


「へ?季里乃さんもですか。」


「俺はずっと安生亮の弟分だった。

松江組の一線から引くのには随分躊躇ったよ。」


「…初耳です。」


充が思わず溢した声に俺も頷いた。


「まあ、派手な過去の栄光さ。」


はははっと豪快に笑う季里乃。


「俺の嫁はあまり体が丈夫じゃねえんだ。

孤児だから親に頼れないし内気だから友達にも頼れない。」


子育てに随分悩んでたと季里乃は言った。


「亮さんに言われたよ。『好きな女と一緒になれたんだ。自分ができる目一杯の幸せを与えてやれ。』ってな。」


「安生さんが、すか?」


真治は目を見張る。


「亮さんの好きな人は、まあ…、雲の上の人だったからな。」


チラリと俺を見た季里乃に苦笑した。

安生亮の想い人は松江みちる。

つまり俺のお袋。知る人ぞ知る秘密の恋だった。


「けど、葉崎には葉崎の考えもあるだろ。

よく考えて決めりゃいい。」


季里乃は食後の煎茶をすすると席を立った。

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