花人のミオ
その村に産まれた花人のミオという女の子は、兎に角歌と踊りが大好きで農作業や豊作を願う祭りの時以外でも、歌っては踊り村の至る所に草花を生やしていた。
その村は天候や土地に恵まれ村人の数も多く、中規模な大きさからかミオ以外にも数人花人が居た。1番年下のミオを妹のように可愛がりながらも、畑や田以外で歌と踊りは駄目だと言って聞かせようとしたが、花人では無い人間の女の子は所構わず歌っても許されていたし、まだ6歳に満たないミオは良く分からず、彼女は気が向いた時に歌っては踊っていた。
だが漸く草刈りを終えて整地を終えたばかりの土地に、ミオが歌って踊り草花を咲かした際は整地した年寄りに怒鳴り付ける様に怒られ、余りの恐ろしさにミオは目一杯走り、村はずれの土地で泣いていた。
「お前…こんな所で泣いてどうしたんだ?」
そこでミオは知らない子供に話し掛けられる。頭に角が生えて黒い硬い直毛の生えた鬼人は、ミオは話には聞いていたが見るのは初めてだった。
「ひっく…だえ?(誰?)」
「俺は…キョウ、君は?」
「あたし、ミオ」
「ミオか、何でミオはこんな所で泣いてるんだ?」
そこでミオは舌っ足らずながらも必死にキョウに説明した。ミオは歌って踊る事が好きで、他の子は歌って踊っても良いのに、ミオが決まった場所以外で歌って踊ると止められる事。そしてさっき怒鳴り付けられて怖くて逃げてしまった事。
話を一頻り聞いたキョウは首を捻り、何かを思い付いてからミオを抱き上げて、自分の家の近くへと足を運んだ。そこは村とキョウ一家の中間地点にある土地で、硬い土が平らに辺り一帯に広がっていた。
「ここ、新しく田を広げるつもりで木を倒して整地した土地だけど、下に石がありすぎて父さんが諦めた所。ここなら幾らでも歌って踊っても怒られないよ」
「ほんと?」
「本当、ほら好きなだけ歌って踊りなよ」
その言葉を聞いてミオは嬉しそうにキョウの懐から飛び降りると、蝶のように舞い鳥の様に歌いながら演舞を始める。小さすぎて歌詞を覚え切れず意味の無い言葉で、豊作を願う歌をハミングするだけだったがそれだけで下の硬い土から柔らかい芽が出て、草が伸びてくる。
キョウは生命の強さに驚くと共に、ミオの幼くも可愛い演舞に見とれていた。
一頻り歌い終わった後、ミオは満足そうに溜息を吐いたのを見届けてから、キョウは自分の腰にぶら下げていた瓢箪で作った水筒の中に入っていた水をミオに飲ませた。
「はぁ~おいし~」
「満足したか?」
「うん、でもちょっとうたいたりない」
「そうか、ここは誰の地でもないから好きなだけ歌いに来て良いぞ」
「ほんと?」
「本当、でも1人で来るのは危ないから俺と一緒にな?」
「うんわかった!やくそくね」
「ああ約束だ、満足するまで歌ったら村まで踊るよ」
「ありがとー!」
ミオは礼を言って再び歌い踊り始める。キョウはそれを満足そうに眺めながら、岩に座り片膝に頬杖を付いた。
ミオが満足するまで付き合っていたら、日が傾き始めて疲れてしまったのかキョウが村まで送る最中に、ミオは腕の中でうたた寝を始めてしまった。村の近くまで来て、そういえば自分1人で村まで来るのは初めてで、勝手に村の子を村の外に連れてきてはいけなかったのではないかと思い始める。
そう思っている内に、1人の老人がこっちに向かって歩いてきた。子供を連れ去ったと頭ごなしに怒鳴り付けられたら、どうしようと不安に思っていたが予想に反して老人はにっこりと笑顔で出迎えてくれた。
「君は村はずれの洞窟に住む鬼人の子だね?」
「えっその…はい」
「ほう、ミオが遊び疲れるまで付き合ってくれたのかね?」
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