【日給¥10,000!?】無口可憐な《サイレント・プリンセス》が実はめっっっちゃ毒舌性悪美少女であることを、家政夫の俺だけが知っている

水瓶シロン

第01話 《サイレント・プリンセス》の素顔

 一月中旬。

 私立星輪館高等学校では、冬休みが開けてから早くも数日が経過していた――――



 教壇に立つ女性担任教師が終礼を取り行っている最中、俺こと葉室はむろ悠太ゆうたは、一年一組教室の窓際最後列の席に座って話を適当に聞き流しながら窓の外へと視線を投じていた。


 今日はこの季節には珍しく朝から雨。

 土砂降りではないが、教室の窓に涙を流させる程度ではある。


 そんな様子を呆然と見詰めながら考えるのは、新しいバイトをどうしようかということ。


 前の飲食店のバイトは職場環境が最悪だった。

 あとから入った俺が先に昇給したことを良く思わなかった人達から、陰湿な嫌がらせをされるようになってしまったのだ。


 次はもっとまともな環境で働きたい…………


 高校入学に際して始めた一人暮らし。

 実家から仕送りがあるとはいえ、お小遣いも稼ぎたい。


 自分で言うのも何だが、俺は基本何でもそつなくこなせる。

 その代わり、一流の働きは出来ない。


 器用貧乏と言う奴だ。


 だが、店がバイトに求めているのはそこそこ動けて、そこそこ機転が利いて、そこそこの結果を出すことの出来る労働力。


 つまりは二流で充分。

 高い賃金を払って一流を雇う必要はない。


「――それじゃあ皆、気を付けて帰るのよ~」


 バイトについてあれこれ考えているうちに、どうやら終礼が終わったようだ。


 クラスメイト達が好き好きに立ち上がっていく。


 俺もその流れに従って席を立った。

 机の横に掛けてあった学校指定のカバンを肩に担ぎ、すれ違う友人らに「またな~」短く別れを言って教室を出る。


 向かうのは玄関ではなく図書室。

 返却しなければならない小説がある。


 各学年の教室が収まった本校舎から、渡り廊下で特別棟へ足を運び、一階にある図書室に入る。


 そこで小一時間本棚を見て回っていると、目に付いた小説が四、五冊あったので返却ついでに借りることにした。


 もう学校での用事は済んだ。


 再び渡り廊下を通って本校舎一階にある玄関へ向かい、靴を履き替える。


「ってか、バイト探さないといけないのに返却期限内に借りた小説読み切れるか……?」


 あれほどバイトのことを考えていたのに、そこに気付かなかった。


 俺は自嘲気味に小笑いしながら、傘立てを見る。


 図書室でしばらく時間を潰している間にほとんどの生徒が既に帰宅しており、傘立てがスカスカだったお陰で自分の傘をすぐに発見出来た。


 刺してあった自分の傘へ手を伸ばし、いつでも開ける状態に持って玄関を出る。


 少しの間は屋根で雨が防げるが、その先からは、まるで雨のカーテンが下りているかのよう。


 普段ならこの辺りでバッと傘を開いてカーテンの中を歩いていくだろうが、今日は違う。


 俺の足は、玄関を一歩出たところでふと止まってしまった。


 無意識というやつ。


 大抵のことに関心の薄い俺の視線を向けさせるには充分すぎる存在が、そこに立っていたせいだ。


 学校では誰もが知っている有名人――――


 一年二組、音無おとなし詩乃しの

 通称――《サイレント・プリンセス》。


 品行方正、学業優秀。

 加えて、見れば思わず呼吸を忘れてしまうほどの美少女だ。


 背は小柄で身体の線も細い。

 膝上で揺れるプリーツスカートの下から伸びるおみ足はしなやかで、肌色はまるで新雪。

 セミロングに伸ばされた亜麻色の髪は、雨の中湿気を感じさせない、ふわりと風になびく軽やかさ。


 琥珀色の瞳はいつも物憂げで、儚く、どことなく神秘的な雰囲気を纏っている。


 それらすべて彼女の魅力の一部であり、人の目を引き付けるには充分な要素。


 しかし、これを語らずして他の特徴を挙げられないというものがある。


 異名の由来――とにかく無口。


 もう高校入学から半年をとうに過ぎているが、彼女と直接言葉を交わしたものはほとんどいないという。


 そのため国語の授業で音読がある際は、彼女の生声が聞ける貴重な時間として、一部生徒らは敬意を払い『祝詞のりと』や『独唱アリア』などと呼んで神聖視している。


 ちょっとこの高校には中二病を拗らせた生徒が多いようだ…………


 とまぁ、そんな《サイレント・プリンセス》の姿があれば、思わず目を止めてしまうのは自然なことだが、当の本人は雨のカーテンが垂れ下がっている様子を見上げたまま佇み、微動だにしない。


 それにしても、どうしたんだ?

 早く帰ればいいのに……って、あぁ……なるほどな。


 ……見ているこっちの気分が悪くなる。


 折角、かの有名な《サイレント・プリンセス》のご尊顔を拝謁出来て、心が浄化されていたというのに。


 彼女の右手には一本の傘。

 骨の本数が多い、お高いヤツだ。


 しかし、残念なことに、そのほとんどの骨が折れてしまっている。


 ――いや、


 音無はモテるが、それを鼻に掛けたりしない。

 その態度をスカしていると受け取った一部女子に嫌がらせをされているという話を、小耳に挟んだことがある。


 本当に女子の嫉妬は怖いな。


 だが、所詮は他人事。

 俺は一組で、音無は二組。

 友達ではない。

 言葉を交わしたことはおろか、挨拶すらしたこともない。


 だから、下手に音無の問題に首を突っ込んだりはしない。


 俺は基本無駄なことをしない主義。

 最低限の労力で、そこそこまぁまぁの成果を得られる日々であれば良い。


 ……とはいえ、だ。

 見てしまった以上、素通りするわけにもいかないだろう。


 俺は面倒臭がりだが、薄情ではいたくない。


 さて、身の程を弁えず大変失礼しますが、ここは相合傘の提案を――――


「――ちっ、クソがッ……!」


 …………え?


 踏み出しかけていた俺の足が、止まる。

 頭も真っ白になる。


「ほんっとウザい……!」


 わぁ、《サイレント・プリンセス》の貴重な生声を聞けて嬉しいなぁ~、なんていう感情は沸き起こる余地もなかった。


 あるのは、圧倒的衝撃。

 後頭部を鈍器で強打されたかのような。


 だから、俺の口から思わず…………


「ま、マジかよ…………」

「――誰っ!?」

「っ、しまっ……!!」


 やってしまった。

 驚きすぎて、無意識のうちに言葉が漏れた。


 傘を持っていない方の手で口を塞いだときには、もう遅い。


 焦ったように振り返った音無が、いっぱいに開いた栗色の瞳で見詰めてくる。


「……今の、見――」

「――てないですっ!!」

「んなワケないだろっ!?」


 ゴメン、みんな。

 俺、ここで死んだかも。


 多分、いや間違いなく、知ってはいけない秘密を知ってしまったから。


 そう――――


 品行方正、学業優秀。清楚可憐で物静かな《サイレント・プリンセス》が、実はめっちゃ口が悪いという秘密を――――






――――あとがき――――


本作を手に取っていただきありがとうございます!


一切の書き貯めがない状態でゲリラ投稿してしまったので、どれだけ連載するかは読者様方の反応を見て決めようと思いますw


なので、面白そうだなと思ったら、☆☆☆評価やコメントで遠慮せずお声掛けください!


皆様の応援が、多分皆様の想像する100倍は作者のモチベーションに繋がりますので!


ではっ!!

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