無駄広くて狭すぎる世界

Leiren Storathijs

大冒険の始まり

 とある世界は何代にも及ぶ、また受け継がれてきた勇者と魔王が、繁栄と破壊と復活を繰り返してきた。

 今回もまた魔王は復活し、一つの王国にて勇者が選ばれた。


 それは、二六五代目英雄王の息子である。


「では我が息子、勇者よ。世界を救うために旅へ出るのだ。安心せよ。これからお前に付く仲間を用意してある」


 英雄王は勇者の旅立ちに三人の仲間を前に出す。


「よ、お前勇者になったんだな。予想はしていたけど、全くいつも通りだったぜ」


 彼は勇者の親友である。十年以上の付き合いで、陽気な性格といつでも楽観的な態度が勇者は気に入り、すぐに友達になったという。


「えっと……勇者になってもこれからよろしくね……?」


 彼女は勇者の幼馴染。どこかいつも気弱だが、他人とどうにか関わりを待とうと努力する姿が、勇者にはとても愛おしかった。


「おっと……こんなかじゃあ俺が一番年上か? これからもよろしくな! 勇者君」


 彼は勇者の親友の父親。息子と変わらず豪快な性格だが、大人であるだけに知識を豊富に持っていて、これからも頼れる仲間になってくれるだろう。


「親友……! 幼馴染も……! まさか親父さんも来るなんて! 僕、勇者になって不安ごといっぱいあったけど、もう吹き飛んだよ!」


「うむ。どうやら我が息子に心配は要らないようだな。だが、これはお前にとって最後のお小遣いになるだろう。大事に使いなさい」


 英雄王は勇者に資金を。息子なので小遣いと言ってそれなりに大きな金袋を渡す。


「こ、こんなに良いの父さん!? 僕、こんなにもらったの初めてだよ!」


「良いのだ。それは我が息子の安全を祈るためにもある。受け取れ」


「ありがとう! 大事に使うよ!」


 そうして勇者は英雄王に最後の別れを。ただ『行ってきます』と言い、英雄王は少しの間を置いてから『行ってらっしゃい』と見送った。


 ここからは勇者は魔王を倒すために、壮大な冒険が始まるのであった。かと思えたが……。


「さぁみんな行くぞ! 魔王城へ! もう悪いことはさっさとやめさせよう!」


「そうだな。早く魔王の顔が拝みたいぜ」


「うん……! 私、勇者君のためならどこまでも行くよ!」


「ったくお前ら早えな。まだ城から一歩目だぜ? ま、気持ちは俺も同じだがなァ!」


 魔王城は王都より北方向に真っ直ぐ。山を四つ超え、海を二つ横断した先の魔大陸にある。それはとても長く、壮絶な選択と決断が強いられる道のり。

 しかし勇者はまだ選ばれたばかりの身で、戦闘などしたことすら無い。そんな気軽に行ける道では無いことなど、この場にいる勇者とその仲間も誰一人知らなかった。


 勇者はまず祖父が経営と運転する馬車に乗り隣町へ。丁度隣町に出稼ぎに行っていた幼馴染の兄に出会う。

 そして兄と協力関係にある警備管轄の騎士によって、特別に遠征用の大型馬車に乗せてもらうことで、凡そ一週間で四つの山を超えた先にある港町にたどり着いた。


 これと言って特に魔物の襲撃は無く、襲撃された村々の報せもなかった。


 そこからは親友の親父の仕事仲間である商人のおかげで、お得意先になっていた貿易船の船長は、勇者が乗るという一言だけで、特別に船を出してくれた。

 これで一気に二つの海を超えた先の魔大陸に到着。船長によれば魔大陸もよく貿易で世話してやってるとのことで、特に警戒されることなく上陸できた。


 そうして王都から旅立って約一ヶ月で魔王城に辿り着き、特に襲撃もなく魔王の前に来る。

 魔王は今にも世界を滅ぼしそうな禍々しいオーラと、全身に黒い重厚な鎧を纏って、誰もが恐れ慄くような悪魔の兜をしていた。


「魔王!! もうこんなことは止めるんだ! いくら復活してもまた勇者に封印されるだけ。無駄なことはもうやめるんだ!」


「ククク……待ち侘びたぞ勇者。我が城に来て第一声がそれとは、もはや予想を通り越して典型的だな」


 そこで親友が叫ぶ。


「待ち侘びたのはこっちの方だぜ。さっさとその面見せな。俺はテメェのいつも隠してる顔が気になってしょうがねぇんだ!」


 幼馴染が叫ぶ。


「そ、そうですよ! いつも高そうな鎧を着込んで……暑くないんですか!? 兜だけでも……脱いだらきっと、か、快適ですよ……?」


 親友の親父が叫ぶ。


「は、顔見なくてもわかるぜ。お前、勇者と同じくらいのガキだな? そんな大層な玉座に座っておいて、床に足のつま先しか触れてねえって笑えるぜ」


 親父の言葉が癪に触ったのか。魔王は一瞬だけ怒りを露わにして、乱暴に兜を投げ捨てる。


「ガキだからなんだというのだ!! 我は貴様より数倍は強い。口に気を付けろよ? おっさん」


 その姿と声と見た目に勇者は目を見開く。


「魔王……嘘だろ? どうしてお前がここにいるんだよ」


「なんだぁ? 我は勇者の顔なんぞ……なんぞ……まさか。貴様は……!? あの時、英雄王の息子として養子に拾われた……?」


「お前……あの孤児院にいたんじゃなかったのかよ! いつか偉くなったらあそこの子供全部雇ってやるとか思ってたのに!」


 魔王と勇者は、勇者が貴族として迎えられる前の、孤児院の時の友であった。いや、大親友であった。


「だからなんだと言うのだ……。魔王になって何が悪い! 我……いや俺も拾われたんだよ!! お前より境遇は最悪だがな。でも俺は、この魔王になってから人は殺したことも、命令したこともない! 少しは不思議だとは思わなかったのか? お前はここまでくるまでに一切魔物に出会わなかっただろ」


「え……いや……、それは……。外出たこと無かったし、そういうもんかと……」


「勇者ってのは俺を倒すためにいるからな。歴代の魔王はなにきと破壊とかしていたようだが、今回は大人しく倒されるのも一興かと思ってなぁ? まさかその勇者がお前とは……世界はどんだけ狭いんだよぉ!!」


「そうだね……それじゃあ。僕は魔王を倒したらいいのか?」


「いーやもう興醒めだよこんなの。これにて魔王と勇者の永遠とも思われていた戦いは終幕だ。それともお前は俺を殺せるか? 無理なら早く帰ってくれ。奇跡の再会なんて興味はない」


「分かった! それじゃあな魔王! いつか暇があったらまた昔みたいに遊ぼう! またな!」


 こうして勇者と魔王の歴史は幕を閉じた。誰一人血を流すことなく、平和に、全てが終結した。


「…………。だっっっる……。勇者ァ……魔王ってのは大変な仕事が沢山あるんだよ……遊ぶったって、いつになることやら……」

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