Stay Alive Say.3. 病気.(2)

Stay Alive Say.3. 病気.(2)




影に覆われ、一筋の光も差し込まない真っ黒な部屋、その女性は厚いカーテンを取り払い、窓を思い切り開け放った。

すると、待っていたかのように陽射しを乗せたそよ風が流れ込み、彼女の髪を心地よく撫でながら過ぎていった。

風の音はしなかったが、かすかな桜の香りがそこに風がいることを感じさせてくれた。

私はそれがあまりにも心地よくって、思わずその風に酔って、懐かしい夢を見たような気がした。

まだ夢を見ているような朦朧とした気分だったが、

突然、枕元からスピーカーを焼きちぎるかのような不快なノイズが飛び込んで、私の意識を強制的に夢のから引き下ろした。

最近、ラジオの状態が良くないのか、しばしばノイズが聞こえてくる時があった。

しかし、そうと言っても、この狭い一人病室には他に楽しむものもなかったので、

私は仕方なく、その旧式ラジオの放送に耳を貸すしかなかった。

ちょうどニュースの時間だったのか、ラジオからは穏やかなニュースチャンネルのBGMが流れていた。

BGMが徐々に小さくなるとともに、ラジオ越しのアナウンサーは大きく息を吸い込み、放送人特有の正確な発音で放送を始めた。


「皆さま、こんにちは。本日の朝、全世界が一つの神秘のもとに目を覚ましました。

昨夜、地球各地で同時多発的に出現したオーロラ現象によるものです。」


アナウンサーは呼吸を整えるように少し間を置いて、話を続けた。


「オーロラは、北半球はもちろん、普段ほとんど現れない日本、南ヨーロッパ、そしてさらにはオーストラリアの一部地域にまで、まるで世界を包み込むかのように例外なく夜空を彩りました。

それに伴い、SNSや各国のメディアはこれを『空の祝福』『世紀末の奇跡』と呼び、一斉に報道しております。」


アナウンサーが紙をめくる音がして、しばらく口を閉じた。

テレビニュースならこの時資料映像が映っただろうが、ラジオの特性上、静寂だけがしばらく流れた。

しばらくの沈黙が流れるとアナウンサーはわずかな不安げな様子を含ませ、聴取者の不安を誘うかのような口調で話を続けた。


「しかし、科学界はこの現象をただの『感嘆』として受け止めているわけではありません。

国際宇宙機構や気象庁、NASAをはじめとする各機関は現在、この現象の原因究明に着手しておりますが、いまだ明確な説明は出ておりません。

科学者たちは今回の現象が、太陽の大規模なコロナ質量放出(CME)によってもたらされた強力な太陽風による可能性を指摘しております。

しかし、正確な原因は確認できておらず、その影響範囲が予想をはるかに上回るほど広大であることから、従来のモデルでは説明できない変数が存在する可能性があると発表しました。」


その瞬間、ラジオから電流が弾けるようなノイズが発生したが、アナウンサーが息を整えて再び口を開ける頃には再び安定した。


「ただし、一部の学者たちは、前例のない電磁変動やネットワーク障害に鑑み、単なる太陽風による現象ではなく、未確認の宇宙活動、あるいは太陽系外部からの干渉の可能性にまで言及しており、今回の現象が単なる自然現象以上の意味を持つ可能性があるとの推測も出ております。

これを受け、政府は気象庁と宇宙監視機関を中心に緊急対応体制を稼働しており、市民の皆さまには、当面の間、空の観測に関する写真や映像資料を政府のポータルに共有していただきたいとの協力要請も発表されました。」


アナウンサーが話を終え、現場の記者につなごうとすると、今度はかなりひどいノイズが発生した。

そしてそのノイズはラジオの声を聞き取れないほど歪ませた。


「現場取材記者チチチッ!現場の反応……チジッ!!

とてもきれい……チジジッ!」


しかし、それもすぐに聞き取れるほどに落ち着いたが、それでもラジオは時折スパーク音とともにノイズを発生させていた。


「アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビアなど、現在もオーロラは観測され続けており、オーロラの撮影映像がSNSに次々とアップロードされ、話題を集めております……チジッ!

専門家たちは、今後数日間オーロラ現象が続く可能性があるとし、世界各地で観測の機会となる一方で、航空・通信・衛星分野の従事者は関連する異常の有無に十分な注意を払う必要があると……チジジッ!! チジジジジジジジッ!!」


絶えず神経をかき立てるノイズは、結局ニュースの終わりが近づくにつれて、完全に放送を飲み込んでしまった。

焼きちぎるかのようなノイズに耳が痛くなりかけた頃、

窓辺で光を浴びていた女性が近づき、静かにラジオの電源を下ろした。

耳障りな騒音が消えると、ようやく私はニュースの内容を振り返ることができた。


オーロラか?

そういえば、一度も見たことがなかった。

まあ、別に極地に生まれたわけでもないので、そう珍しいことでもないと思うが、どうやら昨日を基準に、その認識が相当変わったらしい。

昨夜、全世界を包み込み、そして今この瞬間もなお世界を追い隠しているというオーロラ。

今でも窓から見上げれば、かすかに見えるかもしれない。

それでも、私にはオーロラを見ることはできない。

どれだけ世界が変わり、その認識が変わるとしても、私以外のすべての人がオーロラを見た世界になるとしても、この目にオーロラが届くことはない。

だから、ただひたすら想像するしかない。

それだけが許された。

昨夜、世界を包んだというオーロラ、それは一体どんな色だったのだろうか?

どんな色で、どんな形を持ち、

それを見た人たちに、どんな感情、気持ちを感じさせたのだろうか?

それに共感し、またその感情を分かち合ってみたかったけれど、きっとあの開いた窓の向こう…いや、その内側にある小さな世界さえも知らずに生きている私には、身に余る願いだろう。

だから、これからも私がオーロラを見ることはないと思う。

どれだけ知りたくても、知ろうとしても、この世界は私にそれを見せてはくれないだろう。

世界は私にそういう形を与えた。


知らず知らずのうちに否定的な思考に浸っていたその時、ラジオの方から気配を感じた。

枕元で感じる気配に意識が突然別の方向へと飛んだが、それでもおかげで悲観的な思考からは抜け出すことができた。


いつからこうなってしまったのだろう?


否定的な思考についての省察を積み重ねているうちに、ふとそんな疑問が湧いてきた。

こうしてふっと振り返ってみたら、こうなってからもう10年以上が経っているということに気付いた。


そう、こうなったのは10年前、あの誕生日とともにふと訪れたある病気にかかってからだった。






☆☆☆

後記.

☆☆☆

みなさん、今週も見に来てくださってありがとうございました。 一週間、つらい事もつらい事もあったと思います。 しかし、そのすべてを乗り越えて帰ってきてくださった皆さんを優しく慰めたいです。 私の文が一週間の最後の部分で皆さんに少しでも慰めになって笑顔を与えられることを心から願います。 もう一度、今週もお疲れ様でした。 楽しい週末をお過ごしください!

♡⸜(๑´͈ ꒫ `͈๑)⸝♡

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