Stay Alive Say.2. 病気.(1)

Stay Alive Say.2. 病気.(1)


きっと君は知らないと思う。

私がどれほどこの時を待っていたのか、どれだけ伝えたいことが多かったのか……

きっと、今からそれを聞く君は驚くだろう。

十年以上口を閉ざしてきた私が語る、数多の旅と抱いてきた物語たちに。


「でも変だね。あんなに望んでいたことなのに、いざこうして目の前にすると、胸が痛くて、喉が詰まって、言葉がうまく出てこないよ。」


あまりにも言いたいことが、伝えたいことが多かったのにも、今になってようやく伝えられるようになったのにもかかわらず、私にはそれを声にすることが、あまりにも難しく伝わってきた。

まるで今まで積み上げてきたすべてのものが、誰と言うこともなく自分が先だと言いながら、ただ一つの小さな首を譲らないため、飛び込み、ぶつかり、絡み合った。

誰一人、自分より先に飛び込むことを許さない勢いで、お互いがお互いを強く握りつけているかのような、そんなもどかしく漠然とした気分がしてきた。

それをどうにかしたくて必死で頭を回してみたが、それでもどこから話を始めればいいのか、何から伝えればいいのか、そう簡単には決められなかった。


「やはり話すのは慣れないな、おかしいだろ?うるさい奴らといっぱい練習したのにな……」


だけど、きっとそういうぎこちなさも含めて、私たちらしいものだろう。

だって、私たちはずっとそういう形でいたから

私たちに、いや、私には声なんて必要なかった。

そう思うと、やはり運命というものは不思議に感じられる。

巡り巡って、今回は私がこうやって声を出す立場で、君に話しかけているから。

そして、きっと今の君はあの時の私の真逆の立場にいる。

だから、私はつらくても話をすすけなくちゃならない。

君のために、そして私のために。

私たちの物語を……


「だから、そろそろこの物語をどこから始めればいいのか決めなければならない、伝えたいたくさんのことを正しく伝えるために」


それを決めた瞬間、真っ白な空間に桜の花びらが舞い始めた。


「そうだね、きっとこの物語はあの日から始まったと思う、今もでも変わらず夢に出るあの日の桜の庭で……」


蘇る思い出とともに、誰かが輝きの中で私の手を掴み、その温かい引力で私を物語の中へ引き寄せた。

その手に引き寄せられるまま歩いていると、ふと気づいた時には幼いあの頃に戻り、満開の桜の日々の中で桜に服を濡らしながら君を追いかけていた。

君は優しく疲れた私の手を離して、桜の丘へ向かって走った。

君が手を離すと、すぐに体中の力が抜け、視線はそのまま地に落ちた。

荒い息を整えながら、かろうじて岡の上に視線をのせると、桜の丘で君が手を振っていた。

そう、君はいつもそんな温かい雪が降る眩しい季節の中にいた。

あの日に限って眩しい日差しが君の顔を隠していたけれど、君はいつもその明るい笑顔で私の名前を呼んでくれる人だったことを覚えている。


「昭真(そうま)、早く!」


「待ってよ、明芽(あやめ)!息が…はぁ、はぁ……」


君は幼い頃からずっと明るく賑やかな子で、そういう君を追いかけることが簡単なことではなかったけど、それでも私は、そんな君の手に導かれて、どこまでも広がるその眩しさを追いかけていくのが本当に好きだった。

あの春の日。

陽射しとともに花びらの中を駆け抜ける君を忘れられないだろう。

忘れるはずがない。

君を追いかけ降る桜の雨に濡れ、花びらで服を染めたこの日は、今でもこの胸に染み込み、君の笑顔を夢見させる。


「明芽…」


私はいつも君を追いかけていたよ。

いつまでも追いかけていたかった……。

あれからあまりにも多くのものが変わり、数え切れないほどの日々が過ぎていたけれど、私は今でもまだそういう夢を見ている。

君と一緒に走っていた春の日の夢を……。

私の人生、君と共に歩めた最後の日を忘れられないまま、私はいつもその夢の中にいた。

苦しい時も悲しい時も…

君はいつもそこにいた。

私のそばにいてくれた。

いつもそばにいたかった。

君と一緒なら、きっと明日も楽しいと思う。

辛いことも悲しいことも忘れられるようになるよ。

何があっても強く生きられるような気がする。

だから私は今日も君を追いかける夢を見るんだよ。

追いかけて手を伸ばすんだ。

もう二度と触れられない、あの日の私たちに向けて。


その時、伸ばした手とともに、突然体が揺れ、崩れるように視界がぼやけた。

その瞬間、まるで命そのものが抜け出すような不気味な感覚に、本能的に悪寒が押し寄せた。

直後、全身から抜け出る力は血として鼻から静かに流れ落ちた。


その時にはまだ知らなかった。

もう二度とその笑顔を見ることができなくなるとは……。

二度と君を追いかけて走れなくなるとは……。

明芽....。

明芽。

ずっと君に言いたいことがあったよ。

あの時はまだあまりにも幼くて、とても言い出せなかった言葉だけど。

今ならわかる。

だから、明芽。

私の話を聞いてくれる?

ずっと君がそうしてくれたように。

今度は私が君に私の物語を聞かせてあげる。


■□■



☆☆☆

後記.

☆☆☆

今週もお疲れ様でした、無事に帰ってゆっくり休んで楽しい週末をお過ごしください。

♡⸜( ^ ᵕ ^ )⸝♡


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