第8話 足音
正直分かりづらい仕掛けだということは仕掛けを作った美冬も分かっていた。
だが、分かりづらく作らなければ博士や先生に万一にもバレた時対処のしようがなくなる
作った物語は、施設の内容や外の世界の内容は変えてあるものの、施設で行われている人体実験の内容はそのままだ。
博士や先生が見れば1発で怪しまれる。
だから最後のページにフィクションだと付けたのだ。
「それに、結衣が渡した方がフィクション
だと信じてもらえる気がしたから」
「え?なんで?」
「あぁ、結衣がバカだからじゃない?」
「そんな!!ひどい!」
「いや、まぁそう」
「美冬さん!?」
思わずツッコミを入れてしまった。
今日だけで何度バカと言われたのだろうか
一度数えてみようかと思いはじめた
「考えてもみなよ、結衣じゃなくて美冬が
あの本渡してたらどうなってたと思う?」
「え?」
「美冬は普段誰とも関わらないのに
いきなり本のプレゼント!何かあると
思わないほうが不思議だよ」
「なるほど!」
そう、それが結衣に本を渡す役目を託した理由の一つだ。別に雨でも問題はなかったのだが、それはまぁ結衣の単純さが理由だ。
雨では少し不安が残る。
「そういうこと、元気だしな〜結衣」
「雨ぇ⋯!」
雨は結衣の頭にポンと手を乗せた
そんな雨の対応に結衣は思わず感激した
先程からバカしか言われてなかったからか
こういう対応が身に染みる
「それに、美冬が渡してたらあの時
博士の目を欺けなかったよ。美冬は
頭もいいし、鋭いところがあるから
バレてるのかって怪しまれてた」
「なるほど⋯確かに昔から美冬は感が
鋭いよね〜」
「うん!ほら、結衣が美冬を笑わせようと
色んな仕掛け作ってた時も!」
「あ〜あったねぇ」
まだ10歳の頃、全くもって笑わない美冬をどうにかして笑わせようと結衣が施設内に様々な仕掛けを施したことがあった。
窓を開けた瞬間変顔した結衣が出てきたり
後ろから急に声をかけたり
いきなりくすぐってみたり⋯とまぁこんな感じで
だが、ことごとく失敗したのだ
窓を開ける前に気づかれていたのか窓を少しだけ開けて結衣の額にデコピンをされ
後ろから声をかけようの近寄ったら、声をかける前に気づかれていたのかすぐに振り向かれ
くすぐろうと近寄ったら、逆に自分がくすぐり返され⋯
結衣が笑わされて終わった。
「なぁんでバレちゃったかなぁ」
「杜撰すぎるのよ、窓には影が映ってたし
後ろから普通にキュって靴の音が鳴ってた
し、勢いよく来ても一日に何度もされたら
なんとなく分かるわ」
「感とかじゃないの!?」
「感を使うまでもないわよ」
「あーあ言われてやんの」
ここまで言われてしまうと、10の頃の自分がいかに杜撰な計画を練っていたのかよく分かる。
「でも、今回はそんな杜撰な計画じゃ
ダメなのよ?」
「!⋯うん、わかってる」
杜撰な計画を練ったりしてしまえば、自分だけでなく家族でさえもどうなるか分からない
慎重に誰も死なないように計画をねらなければならない。
「ちゃんとしっかりするよ」
「そうしてちょうだい」
「まぁ、結衣はバカだから俺達も協力
するよ。なぁ流衣」
「うん、結衣は少し頼りないからね」
「ちょっとぉ!?いい雰囲気だったのに!」
「あはは!!」
部屋の中が笑いに包まれた。
この平和がずっと続けばいいと、美冬は心の中で祈った。
だが
「やっぱり気づいていたのか、美冬⋯
残念だよ、君は伸びしろがあったのに」
現実とは残酷なもので
悪魔の足音はゆっくりと近づいてきていた
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