6.
馬車の外から音がした。
吠える音。悲鳴。馬の。獣の。人の。泣いて。鳴いて。声が止まらない。音が鳴り止まない。揺れる。箱と箱の中の私と私の中と。音がする。喉が震えて鳴っている。悲鳴。鳴いて。泣いて。私の。
お爺様から使い方を教わっていたので、
馬車の扉を開いて。
銃弾を込めて、
動かなくなった馬と人間が居て。
構え、狙い、ひきがね、ゆび、めだま、
もぐもぐしている獣がもぐもぐしていたので。
心を渇いた氷にして、
引鉄は引くのではなく絞るのでした。
ひとつ当たった。
ひとつ外した。
にんげん。
自分の血は鉄臭くて、他人の血は生臭い。
どっちが好き。
何も動かなくなって、何も聞こえなくなって、
誰も吠えなくなった後で。
指の痺れを裾で拭って、雪が降っていた、遠くて、真っ赤なの。
雪を踏む音。
深く深く吸い込んでみると。
獣の匂いがした。
いたい。
いたい。いたい。いたい。なんで。
「お嬢様」
うるさい。くさい。けものくさい。
「お嬢様」
いやだ。ないの。どこに。
「大丈夫」
うるさい。あたたかい。うるさい。いたい。
「誰もあなたを傷付けないよ」
それはひきがねをひいたのがわたしだから。
「大丈夫だよ、バレット」
うるさい。
「だいじょうぶ」
いたい。
「大丈夫ですから」
なんで。
「大丈夫ですからね、お嬢様」
お爺様にも分からないの。
「ここに居ますからね、お嬢様」
わたしの。
「ねえ、いんぐりど」
いたいの。
「あしはどこ」
そこにないなら痛むわけがないだろう。
「ここにあるよ」
脚も、心も、死んだ人間も。
「ここにいるよ」
今もこんなに痛いんだから。
失くしてしまったわけがないのに。
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