【鬼柴田】の策謀劇~勝家は織田家を死守します~

信仙夜祭

第1話

「なに? 信長様が討たれただと? 明智光秀に? 本能寺で?」


 俺こと柴田勝家は、驚きのあまり、書状を奪い取った。書状を読むけど、間違いない。


「無念にも、本能寺で討ち取られたとのこと。ただし、遺体は見つかっておらず……」


 伝令が、涙を流しながら報告を行う。

 しかも、それだけじゃない。


「二条城で、長男の信忠様もだと!?」


 やっべぇじゃん。織田家を継ぐ人まで討たれてんじゃん。

 私は、目眩がしてしまった。

 そして……、倒れてしまった。


「「「殿ぉ~!?」」」


 もう歳かもしれない、長年の最前線生活で体もボロボロだよ。もう、五十歳過ぎてんだし。

 部下が、鎧を脱がしてくれる。

 そして、寝所に運ばれた……。医者が、何か騒いでいるな。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「川角太閤記……。信長公記……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。

 部屋を出て、庭に出る。黙って、護衛がついて来た。

 まだ、朝日が昇った時間なので、静かだな。


「儂……、柴田勝家なんだよな。部下だった羽柴秀吉に、【賤ケ岳の戦い】で負けて、全てを失い、北ノ庄城で自害する。ヤバくね?」


「殿……、ご無理をなさらずに、ご静養ください」


 護衛が、諫めて来る。


「うん、心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫よ」


「……殿?」


 さ~て、迷っている時間はないぞ。

 【本能寺の変】は天正10年6月2日。今日は、6月6日だ。

 この後、【中国大返し】からの【山崎の戦い】は、6月13日だ。その後、【清須会議】がある。秀吉と関係が悪化して、【賤ケ岳の戦い】に繋がっていく。

 初動で躓いたら、止められないことを、儂は転生知識で知っている。


「柴田殿! お目覚めでしたか」


 佐々成政・前田利家・佐久間盛政が来た。今回の戦の俺の副将達だ。

 のちの世で、府中三人衆って呼ばれるんだよね。

 特に前田利家は、徳川家康と対等に渡り合えた数少ない人物だ。


「心配かけてゴメンね。でも、もう大丈夫よ~」


「……勝家殿?」


「現状の報告をお願い」


「あ……。はい。魚津城は、陥落させて今は掃除中です」


 考える……。【山崎の戦い】まで、後十日もない。

 魚津城は、落城させた。上杉方の守将十三人が自刃したんだ。開城要求に応じてくれたので、今は制圧のために城を調べている状況だ。

 まだ上杉家は健在だけど、前線基地ができたので、反撃はないはずだ。


「お三方。信長様の報告は受けているよね?」


「「「もちろんです。上杉家との和睦が成立したら、京へ向かいましょう!」」」


「それじゃ、遅いんだよね。千の騎兵で儂だけ向かうね。三人は、ここで防衛線をお願い」


「「「えええ!? 何が遅いの!?」」」


 食料を用意させて、精鋭千騎で京へ向かう。

 途中で馬を変えて、夜道を強行軍した。

 部下は……、脱落者がいなかったよ。流石最精鋭だ。

 食事も馬上でとる。とにかく急いだ。



 三日で京へ到着した。


「柴田殿! 良く戻って来てくれた」


「おお! 細川殿! 京で踏みとどまってくれていたか!」


 出迎えてくれたのは、細川藤孝だ。明智光秀と子供同士を結婚させたけど、光秀に協力しなかった大名だ。

 この人ほど、織田家に忠誠を誓っている人もいない。丹後にいたみたいだけど、こっそり京まできたみたいだな。


「光秀は、何処にいるか分かる?」


「安土城で、兵を集めているみたいですが、芳しくないみたいです」


 よしよし、歴史通りだな。

 明智光秀は、京から坂本城、そして安土城へ動くと思っていた。そして、安土城で信長様の秘蔵品を部下に与えるはずだ。


 そう……歴史を変えられるのであれば、まだ間に合うはずだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る