転生特典【全ロス】しました。
ななつき
第1話 喪失
「馬鹿な男ね。ベルノート、貴方は。あんな馬鹿なことをしでかして死ななかった、なんて逆に情けないわ」
「そうですね、ベル君。あんな自殺行為をして───ッ、よく考えて行動しないからそんな事になってしまったのです」
「もういいわ。フン、どうせ起きてきても何も出来やしない。行きましょうリリウム。───さようなら、哀れなベルノート」
「えぇ、そうですね。リファシーラ。…さよならベル君。…もう二度と会うことは無いでしょう……」
暗闇の中、意識だけある俺はずっと罵倒されていた。
ヒロインだと思っていた二人に罵倒されるなんて俺は────あれ?今の俺は……どうして眠って居るんだ?
どうにも思い出せない。なんだ?
「アウリーサ・ベルノート。君はあまりに愚かな事をした。全く救いが無いよ。知っているかい?君の評判は貴族の間で地に落ちているんだぞ?」
「ですです。アウリーサ家はバカ息子を育てたろくでなし。取り潰した方が良い!とすら言われてるんですよ」
「───これも君が起こしたあんな行動の末路だ。恥を知れベルノート!!………だから今ここで俺は宣言しておく。ガイウス・アンドレアはアウリーサ・ベルノートとの友情を破棄する!!───さようならだ我が友情」
「じゃ、私も。ジルファニス・ローリエも同じくアウリーサ・ベルノートとの友情を破棄する。───じゃあね、優しかったトモダチ……」
……そういう宣言はさ、面と向かって言って欲しかったな。ジルファニス、ガイウス……。
二人は確かに俺の友達だった。異世界転生して若干浮かれていた俺の数少ない友だった。
そんな二人にこうまで───あぁ、こうも苦しそうな言葉を言わせるなんて、本当に本当に───俺は何をしたのだ!!?
「アウリーサ・ベルノート。お前を我が王都魔法学院カンタレラは追放処分とする。除籍しないだけ有難いことと思いたまえよ。────はー、ほんっとにさぁ。何してんだてめぇ!!」
「コルダ先生、ここは病室です。気持ちは分かるのですがお静かに」
「───クソッ、いいかベルノート。お前はしばらく学校に戻ってくるな。お前は途方も無く恥ずべき行為をした、そのほとぼりはしばらく冷めないだろう」
「それは同意見。しばらく上層階の離屋敷辺りで三年ほど過ごしていただくのがベストでしょうね」
「そうだな。私もキャルスのその案がいいと思う。まぁアウリーサは名門だ。何人かメイドでもつけてくれる───多分な」
「ま、勘当されていなければの話ですが」
「キャルス」
「おっと。────ま、次に学院に戻って来れた時はしっかりと先生として手助けしてあげます。だから今は静かに過ごしなさい───それでは失礼します」
「じゃあな、ベルノート。お前は良い生徒だと……思ったんだけどな……はぁ。私の目も随分狂ってしまったな」
粗暴だけど根は優しかったコルダ先生、お茶目なキャルス先生。
その二人にすら見放されるなんて俺は……本当に……何をしたんだ。
それでも意識だけの俺に出来ることなんて無かった。
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その声を聞いた瞬間、俺の顔に衝撃が走った。きっと平手打ちでもされたのだ。
「この───馬鹿息子っ!!あんたなんて……もう、この家の人間じゃない!!」
「落ち着けアウロリア。ベルノートは起きていないんだぞ、今話をしても何も答えてやくれない」
「────ッ、それでもっ!!」
再び顔に衝撃が走る。
二回、三回、四回─────重ねる程に弱まっていく。
「はぁ、はぁ、はぁッ…………アンタなんかもう、この家から出ていけ!!」
「アウロリア。もう、もう分かったから少し風を浴びてきなさい」
父親であるアウリーサ・トゥーサが静かにそう促す。
「……行ったか。……なぁ、ベル。俺はお前の育て方を間違ったとは思っていないんだ。……あぁ、そう思いたいだけなのかもしれないけどな。それでも、さ。────くそ、言葉が出てこない……」
不器用な父親、名門アウリーサの当主でありながら優しかった父親が震える声を見せたのは初めてだった。
「お前のことはとっても大切に思っている。だからこそ、あぁなんて言うんだろうな───お前を許すことはできない。神聖な儀式のさなかに、あんな行為をしたお前を」
……儀式。
あぁ、そうだった。
俺は頭の中に無数の記憶がフラッシュバックしていた。
「だから、な。ベル。お前を俺は追放処分にする。……ほとぼりが冷めるまで戻ってくるな。……三年、三年あればきっと皆忘れてくれるだろうから───だから……あぁ、すまない」
一度も謝らなかった父親の、謝罪の言葉を俺は初めて聞いた。ちっとも嬉しくはなかったけども。
「じゃあな、ベル。メイドも……一人だけつけてやる。家にご飯を届けさせたりはしてやれるが、それ以上は無理だ。───もう、次会うときは反省していることを願うぞ」
声がゆっくりと遠のいて行く。
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悪い夢だと思った。
でも時間の流れがリアルにねちっこく絡みついてくる度に、これが夢でない事を突きつけてくる。
───儀式。
何故か引っかかったワード、そしてほんのり思い出した記憶の断片。
俺がしでかした過ち。許されない行為。
少しずつ、嫌な記憶が蘇り始めた。
だがそれが完全に蘇る直前、俺は真っ黒な闇の中から弾き飛ばされてしまったのであった。
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「目を覚ましたか、ベルノートよ」
そこは病室のベッドの上。声の主は若干ロリババアちっくな喋り口調で俺の右隣に座っていた模様だ。
ただ、視界がぼやけてまだ何も見えていない。
「……俺、……は……」
喋ろうとしても、何故だか痛みが酷くて喋れない。
それどころか体をよく見れば包帯でぐるぐる巻きにされていて、ジェスチャーですらおこせそうに無かった。
「はぁ。お主の師匠として言わせてもらうがの、お主はもうお終いじゃ」
師匠である大魔女ダルクシアは静かにそう告げた。
「お、お終い……って……」
「お主の全てが、じゃ。お主立派な転生特典を持っておったろ?───アレ全部消えたぞ。それだけでわかるじゃろ?」
…………は?
転生特典が……消え、え?
待ってくれ待て待て
「嘘だ。俺を……騙そうとしている。師匠、冗談きつ───」
「すまぬ。我の力を持ってしても、お主の失った力を取り戻すすべはあらぬのだ。───そしてお主との契約もこれでお終いなわけなのじゃ」
普段からからからと笑い飛ばす師匠が、静かに悔しそうにそう告げた時、俺は自分が本当にお終いであるといやでも理解させられてしまった。
「『
ははは……いや、夢だ。これは夢だよ。
……悪い夢であってくれよ……
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