第55話 アーネストに逆らうアリシア 前編

ジェラルド・ハミルトンを倒してアーネストのもとに戻ってそのまま王宮へと連れ帰られ湯あみさせられそのまま・・・



体のあちこちを隅々まで愛撫され、そして、一番敏感なところをむき出しにされ、触れられくすぐられ摘まれ吸われ、そのすべてが快感となって私を苛む

何も隠せない

「ん・・・あっ、あっ、あ・・・んんんっっ!!」

「・・・いい声だ、もっと鳴け、アリシア」

ご主人様はそう言って私をまるでおもちゃのように楽しんでいる

私ははしたない女であることを幾度となく暴かれる


私は姉で

ご主人様は弟で

二年前まで、私を『姉上』と呼んで敬語で私に接してくれていたご主人様

時々ご主人様が怖くて、でも、姉として認められていると信じていた私


でも今の私は奴隷で、ご主人様は私の主


それが現実で、真実であることを私は突きつけられる、幾度も


「あっあっ・・・」

来る

また来る

もう嫌

私は手で口を押える

もう声を聞かれたくない

「・・・声を我慢するな、しっかり鳴けアリシア、俺を怒らせるな」

容赦なくご主人様が言う

目と目が合う

タンザナイトの瞳

ご主人様の瞳が私を、私だけを見つめ、私の心を射抜く

私は口から手を放す

でももう嫌

もうこれ以上暴かれるのは

「あああ!!」

私の中に、指が入ってくる・・・たぶん、二本

逃れようとしてはいけない、だけど、私は逃れようともがく

でも、私の腰はしっかりとご主人様の左手で押さえられている

その口は私の乳房を、その先端をもてあそび

その右手は、私の中と・・・一番敏感な部分を、相変わらずもてあそんでいる

「ああっ・・あ・・・あ・・・」

「さあ、いけ、アリシア」

ご主人様に私がどうして逆らえるだろう

私の体も心も、その所有物なのに

そう思う私をさらに戒めるようにご主人様の指がさらに深く押し込まれた

「ひい・・・」

同時に、そのすぐそばの実を別の指で、潰すように・・・

「あああああ!!!」

私は、イった

「いい声だ・・・いい子だ、アリシア」

ご主人様が満足げに笑っている

私を完全に支配し所有し愉しんでいる

なのに私は、私の体は、私の一番深い場所はもっとご主人様を欲しがっている

ご主人様を逃したくないと思っている

もっともっともっともっともっともっともっと

そして今度は指じゃなくて、本当に私の中に入ってくるはずのものを、私に、どうか

でないと、私は狂ってしまうかもしれない

切なくて、切なくて

「・・・」

私はご主人様をじっと見つめる

タンザナイト瞳が私を見つめ返す

その目は、私を戒めつつ、優しい光を戻しつつある

「・・・待っていろアリシア」

そう言ってご主人様は私から離れ、ベッドから降りた

そして、着ている服を脱ぎ始めた

私は思わず、目を逸らす

「目を逸らすなアリシア、しっかり見ていろ、俺を、これからお前を抱く男を、しっかりと見ろ、アリシア、お前を抱く唯一の男を、この体を、見ていろ」

ご主人様が私に命令する

私は逆らえない


ご主人様の体があらわになる

美しい、それでいて、たくましい体が

私は今、この彫刻のような、いいえ、彫刻なんかよりはるかにご主人様の体を、独占している

私はその体を直視しなければいけない

それがご主人様の命令だから

私は奴隷だけど、ご主人様の裸を、唯一独占していい女なのだから


・・・だけど、だんだんと、怖くなった

世界で一番美しいご主人様の体

その体の中心に、天へ向けて突き立った男性のそれがあって、それが・・・本当に大きくて、それが・・・私の中へ入ってくる、今から



「やめて・・・やめて・・・」

気づくとそう言っていた

私は今ご主人様に逆らっているの?

逆らっていることに私自身驚く

ご主人様もすこし驚いている様子だけど、私はかまわずまた

「やめて・・・お願い・・・」

そう言ってご主人様に逆らった

「・・・アリシア、何を言っている?

やめて、と今言ったのか?

・・・俺の聞き間違いか?」

ご主人様が怒りかけている

でも私は止まらない

「やめて、お願い、やめて」

「・・・アリシア」

「私たちは、血がつながっている、姉弟なのよ、アーネスト」

「・・・」

「・・・」

ご主人様が、驚いている

私も驚いている

今私は何を言ったのだろう

姉弟、そう言った

何度もご主人様から怒られた言葉を、私は今言った

しかもご主人様の名前を呼び捨てにした

なんで?

なんで私、間違えたんだろう

こんな時に、どうして

「・・・いいかげんにしろアリシア」

ご主人様が怒っている

私は震える

「・・・ごめんなさい」

「・・・黙れ」

静かに

地を這うような声でご主人様が私に言った

・・・その名前を呼び捨てにし『姉弟』と私は言ったことを、怒っている

「あの・・・」

「・・・俺は何度もお前に言った

何度もお前を叱った

『お前は俺の姉ではない』と

覚えてるなアリシア?」

「・・・はい、覚えています」

「ではなぜ今それを俺に言った?」

「・・・」

「アリシア、答えろ」

「申し訳ありませんでした」

「答えろと俺は言ったんだ、アリシア」

「・・・」

「アリシア、お前はまだ本気で、自分を姉だと思っているのか?」

「・・・いいえ」

「じゃあなぜ、自分を姉だと言ったんだ?」

「・・・」

「・・・だんまりか?黙ってれば俺が許すから、そう思ってるのか?」

「・・・いえ」

「・・・」

ご主人様も私も裸で、何も着てない

でも私はやっぱりご主人様の奴隷で

ご主人様は私の主で

お互い全裸だけどそれは、主従ははっきりしている

ご主人様は私の絶対の主

そしてご主人様は今私を怒っている

「アリシア、俺は今からお前を抱こうとした、それはわかるな?」

「・・・はい」

「お前には俺を拒む権利があるのか?」

「・・・いいえ」

「そうだよな、お前は俺の物だ、俺はお前を抱く権利があるし、お前は俺に抱かれる義務がある、

そうだな?アリシア」

「・・・」

「アリシア!!」

「は、はい!」

「答えろ!」

「は、はい・・・そうです」

「・・・俺はお前を抱く権利がある、で、お前の義務はなんだ?

さっき俺は言ったな?

お前の義務を言ってみろ、アリシア」

「・・・私は、ご主人様に抱かれる義務があります」

「そうだアリシア、お前は今から俺に抱かれる、そのために、俺は今さっきまでお前を、お前の体を隅々まで、愛撫し続けた

お前の体は悦び、幾度も体を震わせ、蜜を溢れさせた

俺がそうさせた

・・・お前の体に俺自身を受け入れさせるためにな」

「・・・はい・・・」

「初めてお前を抱く時になって、なぜお前は、俺を拒む?」

「・・・」

「お前には俺を拒む権利などないのに、お前は俺の所有物なのに」


所有物

そうだ、私はこの人の奴隷だ

・・・所有物なのだ


「お前は俺に抱かれる義務がある

お前に拒否権などない

お前は俺に抱かれるために生まれてきた女だ、アリシア」


ご主人様に抱かれるために生まれてきた

ご主人様にそう言われて、私の体は切なくなる

嬉しくて、切なくなる

欲しい

ご主人様が欲しい

・・・こんな私がどうして姉なんて名乗れるのだろうか

ご主人様は正しい


でも

怖い


「俺は、お前を抱くタイミングを見計らっていた

いつにしようかと

その時が来たら、お前がどんなに泣こうと有無を言わさないと決めていた

だけど、その時が来たら、お前が初めて俺に抱かれる時が来たなら、優しくしようと決めていた

俺の腕から逃げることは絶対に許さないが、優しくしようと、優しく抱こうと、お前が怖がらないように、痛くないように、優しく抱こうと決めていた

・・・伯爵邸に戻ってきたお前を抱きしめてキスしたとき、俺はその時が来たと思った

もうお前は俺に抱かれることができると

俺を受け容れることができると

そう思った

城にお前を先に帰らせ、俺もすぐ城に戻って、そしたら、すぐにお前を抱こうとそう決めた

なのに・・・お前は逃げた

俺にお前を信じさせておきながら、あんなに俺を求めるキスをしておきながら、俺から逃げた」

違う

私は逃げたんじゃない

私じゃないと伯父様を止められないと思ったから、だから

・・・言えない

剣士に戻ったこと、一時的とはいえ剣士に戻って戦ってきたこと、ご主人様が知ったら・・・

「アリシア」

「は、はい、ご主人様」

「・・・俺は怒っていた、お前を躾けしなおさないといけない、そう思った

お前が俺の物であること、俺の所有物であることをお前にしっかり教えて、躾けしなおさないとどうにもならない

でないとお前はまた平気で俺を裏切る」

「・・・」

「そしたら、案の定、お前は平気で俺を裏切ることを言った

姉だと?

お前のどこが姉だアリシア?

まだ本気でお前は俺の姉だと思っているのか?」

「・・・思っていません、でも」

「でも?なんだ言ってみろ」

「・・・でも、それなら、あなただって私を騙していました、そうでしょうご主人様?」

「・・・」

「あなたは本当に私を姉だなんて思ってはくれなかった

あなたの奴隷になってから私にはそれがわかった

あなたは本当に私を姉だと思ってなんかくれなかった

どうして時々あなたが怖かったのかも、その理由がわかった

あなたはずっと私の弟を演じて、私を騙していた

16年もずっと

あなたは私を騙していた

そうでしょう?ご主人様」


思い出す

生まれて間もないあなたが、まだ見えないはずの目を開け、私を見つめた

私はじっと見つめられ、怖いと思った

なんで生まれたばかりの弟を怖がるのか意味がわからなかった

でも怖かった

でも、怖いけどでも、小さなあなたが愛しくて、愛しくて、誰にも渡したくなかった

だから、あなたの目が時々怖いことも、気づかないふりをしていた


「あなたはずっと私を騙していた

16年もずっと騙していた

もっと早く言ってくれたら良かったのに

『お前は姉じゃない』ともっと早く私に言ってくれたら、それなら、それなら、私はこんなに苦しくなかった」


「・・・」


「私は姉じゃなくなるだけじゃないのよ

私は姉じゃない、あなたの言う通り私は姉じゃない

血のつながりがなんの意味もないことを私も分かっている

でも、それを認めたら、私は、私はあなたを失う

小さいころのあなたを、私の弟を演じてきたあなたを、私は永遠に失ってしまう

あなたはそれでいいかもしれないけれど、私は、私は失いたくない

私の弟を、私の小さな弟を、アーネストを、私は失いたくない」


言った

言ってやった

とうとう言ってやった


ご主人様はじっと私と見つめている

私もご主人様を見つめ返している


「私はあなたを失いたくない、アーネスト」

「・・・お前が思い描いているかわいい弟は、どこにもいない、アリシア

お前が弟だと思っていたのは、弟ではない、ただの男だ

お前が姉ではなくただの女であるようにな

お前は俺を望んでいた

俺がお前を望み続けてきたように

お前は俺をずっと望み続けてきた」


アーネストは全部わかっている

私の気持ちを、すべて、わかっている


アーネストは正しい

でも・・・


「あなたの奴隷になってから、あなたが今まで一度も私を姉だと思ってくれなかったことが私にもわかったわ

だって、あなた、私を呼び捨てにしたり、お前呼ばわりしたり・・・私を叱ったり、全部自然なんだもの

納得できちゃった

ああ、全部嘘だったんだって

あなたが私を姉として認めていたのは全部、嘘だったんだって

奴隷になってから、それがわかったの、私も

でも・・・

私は、あなたを守りたいと願った

あなたが私を姉として認めなくても、私はあなたのことを守りたいと思った

ねえアーネスト

一回、一回でいいから、私を、姉として認めてくれても、いいじゃない

一回でいいから」


「なぜそんなに、姉として認めてほしいとお前は思うんだ?アリシア」


「なぜって、だって

だって

だって、そうしないと、あなたと私の時間、姉と弟として過ごした時間が全部、嘘になってしまう

そんなのは嫌だわ、私は

だから、一回でいいから、私を姉として」


「全部が嘘だったんだよ、アリシア

お前が姉で、俺が弟だった時間は、全部が嘘だった」


「・・・」


「お前が俺の姉だったことなど」


「一回ぐらい認めてくれてもいいじゃない!」


こんな大きな声でアーネストに逆らうのは初めてだと思う

アーネストが怖いのに、私は今アーネストに逆らっている


「私たち血がつながっているのよ?

本当に姉と弟なのよ?

でも一度だってあなたは私を姉として認めてくれなかった

全部嘘だった

今の私にはそれがわかる

理解できる

あなたはそれでいいでしょうね

でも私は?

血がつながってる

七つも年上

なのに姉ではなくただの女だと言われた私の気持ちは?

ねえアーネスト

少しは私の気持ちも考えてよ

一回ぐらい、私を、認めてくれてもいいじゃない

一回ぐらい、姉として、私を」



「お前は俺にずっと怯えていた

俺が弟ではなく、ただの男だから、お前にはそれがわかっていた

だからお前は俺に怯えていた」

小さいころ、時々、私を姉上と呼ばずじっと見つめていたアーネストを思い出す

彼はときどきそうしていた

そのたびに私はほんの一瞬、弟に逆らえなくなった

「俺はずっと、俺とお前があるべき形になるときを待っていた」

「・・・あるべき、形?」

「あるべき本来の形だ、アリシア・・・俺がお前を抱く男で、お前が俺に抱かれる女だということだよ、アリシア

俺に抱かれる女であるお前と、お前を抱く男である俺

俺とお前のあるべき姿はそれ以外にはない

・・・お前が俺の奴隷になったときから、ようやく、俺とお前はあるべき形に戻った」


・・・アーネストは、じっと私を見つめている

端正な顔立ち

美しく、たくましい体

落ち着き払った心

たくさんの人から王として認められているその器

生まれついての、王

・・・なのに、この人は、実の姉である私を、望んでいる、ずっと


「・・・私は、初めから、あなたの奴隷だった、の?」

「・・・お前は俺の所有物だ、アリシア、初めから」

「・・・私は、あなたが生まれてすぐのころから知っているわ、あなたは小さかった、とても小さかった

私はあなたを抱いた

あなたは本当に、小さかった

私は」

「・・・」

アーネストはじっと私を見つめる

「私は」

「今お前は俺に対抗しようとしている」

「・・・」

「俺が小さい体だったころを持ち出すのは、それしか俺に対抗する方法がお前にはないからだ、アリシア

お前は今必至に俺に抵抗している

俺と対等になろうとしている

・・・お前はずっとそうしてきた

そして俺はずっと、そんなお前を見逃して来た」

「・・・だって、あなたは、あなたは本当に小さくて、それに、ねえアーネスト」

アーネスト、と呼んではいけない

私は奴隷なのだから

ちゃんとご主人様と呼ばないといけない

でも、今こうしないと、私は、姉ではなくなるだろう、今度こそ


私は私が全裸であること

さんざんアーネストに愛撫されたこと

そして私を愛撫したアーネストもまた全裸であること

それらを平気なふりをしようとしている


だからアーネストの顔だけを見つめた


アーネストはただ、じっと私を見つめている

アーネストは私の顔だけでなく全身をその目でとらえている

私がアーネストの顔だけを見て他の部分から目を逸らしてるのと違って、アーネストは私のすべてから何一つ目を逸らさない


「ねえアーネスト、お義母様が亡くなられたとき、私はあなたを抱っこしていたのよ

あなたはお義母様の死を何も知らずただ、私の腕に抱かれることしかできない赤ちゃんだったのよ」

「・・・」

アーネストはじっと私を見つめている

私は、なんだか自分がとてもみじめに思えた

小さいころを持ち出すことでしか、アーネストに対抗することができない

アーネストの言う通り、私にはそれしか方法がない


「・・・」


アーネストは、黙って・・・あきれたようにため息を一つついた


「アーネスト?」

「・・・待て」

「待てって何を?」

「いいから待て」

少しイラついた声でアーネストが言った

「はい」

私は素直に返事をしてしまった


アーネストはベッドから降りた

そして、ガウンをまとった


私もガウンを着たい


と言ったら、怒るだろう、とても

だから私は何も言わない


私一人が、全裸のまま

アーネストは、着衣

私はそのことに何も言えない


自分が所有物であることを私は実感する

どうあがいても、そう実感している私がいる


「来い、アリシア」

アーネストが言った


喧嘩相手にさえなれない

相手にされてない


「・・・はい」


でも私は、言われた通りにするしかない


ベッドから降り、アーネストのそばに行く

アーネストは、ソファへと移る、私も後をついて行く


私一人が全裸で、でも、体を隠してはいけないことはわかっていた


アーネストがソファに座る

その二メートルぐらい前に私は立ち止まる


アーネストは、私をじっと見つめる・・・座っていいとは言わない


だから、私は、何も隠せない


アーネストの視線がまっすぐに私の体に、まるで実体があるみたいに、触れる


手で隠したい衝動を我慢する


私がこの人の物であることを私は知っている・・・強く、そう感じる


私はこの人には勝てない、やっぱり、どうしても


「アリシア」


「はい」


「お前は何が望みだ?」


「・・・私は・・・」


私が望むこと

そんなの決まってる


「私は、あなたと一緒にいたい、アーネスト」


そろそろ呼び方を戻さないと

ご主人様と呼ばないといけない


・・・奴隷になってから、毎日毎日が、幸せ

信じられないぐらい幸せ

ずっとアーネストの・・・ご主人様のそばにいられて

なのに・・・私は望んでしまう


もっともっとそばにいたい

もっともっともっと緒にいたい

もっともっと・・・


「・・・では、来い、アリシア」

ご主人様が両手を広げた

「はい・・・」

私はご主人様の方へと歩く

私の体が、今から起こることを予感している

・・・期待している


ソファまで来ると、抱き寄せられた

「・・・」

「・・・」

お互い無言で、でも、ご主人様の腕は私を逃がさず、私も、その腕から逃れるつもりなんか毛頭なく

すこしみつめあって、それから、私は唇を奪われた

それから、むさぼられた

「は・・・ん・・・」

くぐもった私の声と、水の音

崩れ落ちそうな気持に私はなる

だけど

私は体に力を入れるまでもなくしっかりとと抱き止められている

背中、腰、首、後頭部、それから、お尻、と私の体をご主人様の手があちこち動き、私を逃がさない

私を逃がさないでいてくれることがうれしい、すごく、うれしい

「ん・・・んん・・・ふ」

でも、寂しい

抱きしめられてキスされてむさぼられて、でも、ご主人様の両手はずっと私を抱き止めるだけ

ベッドの上だともっともっといろいろとされた

なのに、今は、キスだけ

キスだけじゃなくてもっと、してくれたのに

「ふ・・」

「・・・」

唇を離し、ご主人様はじっと私を見つめる

私は今真っ赤なのが自分でもわかる

ご主人様が落ち着いているのと対照的に

「・・・もっとしてほしいか?」

聞かないでほしい

「・・・どうしたアリシア?もっとしてほしいか?」

答えないとダメだ、でないとご主人様が怒る

「・・・はい」

「ではもっとキスしてやろう

キスだけは、してやろう」

「え?」

思わず、声が出た

「キス、だけ?」

なんてことを私は言っているのだろう

でも、キスだけなんて・・・

「どうした?ほかにも、してほしいことがあるか?・・・さわってほしい場所が、あるか?」

聞かないでほしい

でも、私はアーネストの意図がわかった

私に言わせようとしている

「どうなんだアリシア?たとえばここ」

「ん!」

ご主人様が指で、乳房に、私の乳房の先端に、触れた

「・・・触れてほしいか?」

「・・・」

「アリシア、答えるんだ、お前はここを触れてほしいのか?」

「・・・はい」

「・・・わかった」


それから、ご主人様は私の乳房を、乳首を、手で、指で、触れた

「ん・・・は、ん・・・んんん・・・あ」

「・・・」

ご主人様は何も言わない

ただ優しく、かと思うといきなり強く指先でつまんで引っ張ったり、赤ちゃんみたいに口に含んで吸いながらもう片方を弄り・・・

私に対して少しも遠慮がない

でも、私はそのすべてがひとつも嫌じゃない

嬉しい

気持ちいい

痛みさえもうれしく感じてしまう

「んん・・・」

「声を我慢するなアリシア、鳴け、もっとその声を俺に聞かせろ」

「は・・」

はい、と言おうとした瞬間

胸よりずっと下の方から、何か、無造作に

「んあ!」

指が、入ってきたとわかる

「よく濡れているなアリシア、すんなりと俺の指を飲み込んだぞ?お前のここは」

「はぁ・・はぁ・・・あっ!」

私の中で、ご主人様の指が、少し曲げられ、そして、ゆっくりと引き抜かれた

「んんん・・・あっああ」

「どうだアリシア?気持ちいいか?」

「・・・」

楽しそうにご主人様が私に聞く

私は答えたくないのに

「・・・答えないなら、もうしてやらないぞ?ん?気持ち良かったか?」

「・・・はい、気持ちいいです・・・」

「もっとしてほしいか?」

「・・・」

「アリシア、答えない権利はお前にはない、わかってるはずだ

もっとしてほしいか?どうなんだ、アリシア」

「・・・はい、もっとしてほしいです」

「そうか、よく言えたな、いい子だ、だが最初は返事をしなかったな

俺に逆らった」

「・・・ごめんなさい」

「黙れ、まずお仕置きが先だ」

「え・・・あ・・・あああっ!」

私の中に、指が、また、いきなり

「鳴け、アリシア、思いっきり鳴け

お前の声は俺に聞かせるためにあるのだから」

「ああっ!んんっ!!」

「ほら、いいぞ、いい声だ・・・もっと良くしてやろう」

「ああっ!んんんあああっ!!」

ご主人様の口が、私の乳房をまた

「・・・」

無言で私の乳房を口に含み、その指で私の中をかき回すご主人様

私はその所有物

楽しまれている

容赦のない

なんて容赦のない

なのに

愛しい

愛しい気持ちが次から次へと溢れて来る

ご主人様のことが愛しくて愛しくて、私はこのままだときっと正気を無くしてしまう

本当に本当に私はきっと狂ってしまう

なのに

もっと

もっと欲しい

もっともっと、もっと・・・

「い・・・」

「・・・」

乳房を、乳首を、無造作に噛まれた

そんな認識が一瞬よぎった

「・・・・・・・・・!!!!」

「・・・」

ご主人様と目があった

まっすぐに私を射抜くその目

私はその目を知っている

ずっと昔から知っている

『お前は俺の物だ』

どんな言葉よりも雄弁に、その目が私をそう戒める

私の体は、それに応えようとする

私は、それを言葉にするまいとしてきた

でも今はもう、どこにも逃げられない

ならもう、答えるしかない

私は抵抗を諦めた

抵抗を諦めると、私の体が勝手に、もっとご主人様を受け入れ、逃がすまいとする

『私はあなたの物です』

どんな言葉よりも雄弁に私の体がご主人様に答える

私は、逆らわない、偽れない、もう

目を少しの間つぶって開けると、目の前にご主人様の顔があった

背中、腰のあたりにご主人様の手が回されている

抱き寄せられる

キスされる

瞬間私は目をつぶった

唇が奪われた

夢中で私はご主人様の首に腕を回した

ご主人様が私から指を引き抜いた

そして両手で私を抱き寄せた

抱きつぶされるぐらいに強く私を抱きしめる

私もご主人様の首に回した腕でご主人様を抱きしめる

舌を絡め合う

絡めて絡めて、お互いを抱きしめ合う

その中でご主人様がさらに強くぐっと私を抱き寄せた瞬間

私の頭の中が真っ白になって、全身が震えた、そしてそれから、体から力が抜けた

自分でも怖いぐらい、濡れたのが分かった


「腰が動いているぞ、アリシア、淫らだな」

「・・・」

恥ずかしい

でも隠しようがない・・・隠したくもない、恥ずかしいのに

私を見てほしい

「・・・」

私の体が、アーネスト・・・ご主人様を求めて、愛してほしくて、動く

私のお腹の奥深くが蠢ている

私は女だから

ご主人様は男だから

だから私たちは求めあっている

「・・・」

「どうしたアリシア?何か俺にしてほしいことでもあるのか?」

ご主人様は笑う

私は笑えない

「キスか?」

「ん、ん・・・」

キスされる

嬉しい

私もキスし返す

絡め合う舌

いくら絡め合ってもまだ足りない

もっと欲しい

「んんんっ!」

不意に、なでられた、お腹のずっと下を、足の付け根の真ん中を下から上へと、敏感な部分を指先でほんの少し強く押しながら

「それともこっちがいいか?アリシア?」

「・・・」

欲しい

今すぐほしい

もう愛撫はいいから、今すぐ

「そんなに俺の指が欲しいか?」

「・・・!?」

違う

指じゃない

私が本当に欲しいのは指じゃない

「んん?どうしたアリシア?」

「・・・」

ご主人様は笑っている

わかっている

私が欲しいのは指じゃないことを

「どうしたアリシア、また、指でかわいがってほしいのか?」

「・・・」

ひどい

・・・それとも、恋人どうしならこれが普通なのだろうか

欲しいものをちゃんと言葉にしないといけないのだろうか

・・・『恋人どうし』って、今私は思ったの?

え?

恋人どうし・・・私と、ご主人様が?

「どうしたアリシア?ん?答えないならまた指だけにするぞ?」

「いやです、指なんて嫌です」

待って私

言わないで

何を言っているの?

言わないとダメでしょう?

言わないとご主人様はそれを私にくれないでしょう?

「俺の指が嫌なのか?」

「はい、指じゃ嫌です、もう、指じゃ・・・」

止まらない

止めたくない

私もはっきりしたい

「じゃあアリシア、指じゃなければお前は何が欲しいんだ?

お前が欲しいものはなんだ?」

「・・・もっと、大きなものが、指よりもっと太い、ご主人様の大きなものが、欲しい、です」

「それはこれのことか?」

ご主人様がガウンの前をはだけた

・・・ご主人様の『それ』が、大きな『それ』が、天に向かって大きく

怖い

私の中に『それ』が入ってくると思うと、怖い

単純に怖い

太くて、そして大きくて、怖い

「これが欲しいのか?」

「・・・はい」

怖いのに、欲しい

今すぐ、欲しい

来てほしい、私の中へ、今すぐ、今すぐに

「これを、どこに入れればいいんだ?」

「そんなの・・・」

ああそうか、わかって言っているんだ、ご主人様は

「・・・ここに、欲しいです」

私は自分のお腹の下を指さす

「ここへ、ご主人様のそれが、欲しいです」

言えた

なぜかほっとする

「アリシア、抱いてほしいか?」

「・・・」

「アリシア、お前は、俺に抱いてほしいか?」

「・・・はい、抱いてほしいです・・・抱いてください」

「それがお前の望みか?」

「はい」


ご主人様の顔から笑みが消えた

「ではなぜ嘘をついた?」

「え?嘘?」

「お前が俺の姉だと言う嘘だ、アリシア」

「・・・」

嘘なんかじゃない

本当に私はご主人様の姉で、ご主人様は私の弟なのに

「アリシア、答えろ」

「嘘なんかじゃ・・・」

ご主人様が私を睨む

私は震える

なんで?

なんで今そんな話をするの?

「お前は俺の姉ではないのに、姉だと嘘をつく

お前は自分が嘘をついている自覚がないのか?」

「だって、だって私たちは」

「アリシア、弟に抱かれることを望むのは姉ではない、ただの女だ

お前は俺に抱かれることを望むただの女だ

お前は俺の姉ではないんだよ」

「・・・」

「俺に抱かれることを望むお前は俺の姉ではなく、ただの女だ、アリシア

姉などと言う嘘を俺に押し付けるのはやめろ」

ご主人様が私に言い聞かせる

ああこれは言い聞かせだ

私は言い聞かされている

この人は私を姉だとは思っていない

かけらほどにも姉だなんて思っていない


「・・・そんなこと言わないで、嘘だなんて、そんな・・・」

「・・・」

ご主人様はじっと私を見ている

私はまるで叱られる小さな子供みたいな気持ちで

・・・違う、本当に私は叱られているんだ

「まだ言うか、アリシア」

「・・・」

「まだそんなわがままを言うか?」

「・・・だって」

「だってなんだ?言ってみろ」

「だって、だってあなた、今言わないと、私は一生あなたに認めてもらえない、姉としてあなたに認めてもらえない

あなたは一度だって私を姉として認めてくれなかった

今言わないと、今呼んでもらえないと、私は一生姉として認めてもらえない

抱かれる前じゃないと、私は」

「お前は俺がお前を抱くとわかっていた

お前が何を俺に言おうと俺はかまわずお前を抱くとお前はわかっていた

だから俺に逆らった

俺がお前を抱くことは変わらないから、だからお前は安心して俺に逆らった

たとえ俺がお前を姉だと認めなくても、俺に逆らっておけば、自分は姉であろうとした、そう努力したと言い訳ができる

そう思ってお前は、俺に逆らった

姉ではないとお前自身自覚してるのに、姉だと嘘をついた」

「・・・」

ご主人様はすべてわかっている

私は何も言い返せない

「アリシア、まだ、俺に嘘を押し付けるか?

俺の姉だと言う嘘をまだ俺に押し付けるか?

まだわからないのか?」

「だって・・・」

私はこの人から一生姉として認めてもらえない

今までも、これからも、ずっと

「だって、だって・・・」

涙がこぼれる

「泣いていれば許してもらえると思っているのか?」

「・・・」

「俺が怒っているのがお前にはわからないのか?」

「・・・」

「答えないつもりか?アリシア」

「・・・だって・・・だって」

私はそれしか言えない

他に何も言えない

もう許してほしい

「・・・そうか、わかった

じゃあお前の望み通りにしてやろう」

「え・・・」

「アリシア、お前の望み通りにしてやるよ」

言いようのない不安が私の中から湧き上がった


「アリシア、俺はもうお前に触れない、お前の体のどこだろうと、もう触れない」

何を、言っているのだろう、ご主人様は

足が震える

「お前のその髪に触れることももうしない

お前のその頬に触れることももうしない」

ご主人様の声が響く

冗談だと言ってほしい

どうか冗談だと

「お前のその肩を抱き寄せることももうしない

お前のその乳房に触れることももうしない」

足がもっと震える

「あの、ご主人様」

「黙れ、しゃべっていいと言った覚えはない」

ご主人様の声が冷たい

涙が溢れだす

謝りたい、でも謝ることを許してもらえない

「お前のその腰を抱き寄せお前をかき抱くことももうしない

お前のその、しとどに蜜を垂らす場所へと俺のこの指が触れ、その中をかき回すことももうしない」

聞きたくない

こんなの知らない

こんなの

きっと悪い夢、そうでしょう?

ねえご主人様

ご主人様・・・

「もちろん、この手で触れないだけではない

お前の体のどこだろうと、俺の唇が、舌が触れることはない」

不意に、視界が低くなった

気づくと私は、床に座り込んでいた

「も、申し訳ありません、今すぐ」

やっと声が出せた

今ここからなんとか許してもらえるように話をつなげて

「今すぐ立ち上がりますから」

「そのままでいい、黙って聞いていろ」

話をつなげていこうと思った私の浅ましさを蔑むようにご主人様が言った

「・・・は、い・・・」

ご主人様の冷たい声に、私は逆らえない

「・・・俺はもうお前にキスしない、二度と」

涙がまた溢れる

頭がくらくらする

謝らせてほしい

謝ることをどうか許してほしい

ご主人様は足を組んでソファに腰掛けて私を見下ろしている

「どうしたアリシア?お前の望み通りにしてやろうと言っているんだぞ?なぜ喜ばない?」

「・・・申し訳ありませんでした、ご主人様」

私は座りなおして床に手をついて、奴隷のお辞儀をした

私は何を思い上がっていたのだろう

私は奴隷なのに

もう王女でも姉でもないのに

私はご主人様の奴隷なのに

「申し訳ありませんでした、どうかお許しを、ご主人様」

「まだ終わってない、聞け、アリシア」

「・・・」

聞きたくない

「聞け」

「・・・はい」

私は顔を上げた

ご主人様は相変わらず私を見下ろしている

「・・・一番肝心なところだ、よく聞けアリシア、俺はこの先一生、お前を、お前を・・・」

ご主人様がじっと私を見つめる

私がご主人様の奴隷になってから、大体いつも、ずっと、私を優しく見つめてくれていた目

蒼いタンザナイトの瞳

ご主人様

大好きなご主人様

私の、たった一人の

「お前を、抱かない」

目を細めてご主人様が言った

辛そうに

抱かないと

私を一生抱くことはないと

「俺はこの先一生、お前を抱かない」

そんな

そんなはずない

だって私は、私たちは、お互いを、こんなに、こんなにも求めて

私たちが結ばれないなんてことが、そんなことがあるわけ

「・・・良かったなアリシア、お前の望み通りになって」

ご主人様がそう言う

「ごめんなさい」

謝っていいと言われてない、でも

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もう二度と言いません、もう二度と姉だなんて言いません、もう、だから、だから許してください、許してくださいご主人様、ご主人様」

「・・・お前はこれからも自分を俺の姉だと、俺をお前の弟だと内心で思い続けるだろう・・・俺はもううんざりだ、お前から弟扱いされるのは」

「しません、二度とそんなことしません」

「お前は内心で俺を裏切り続けるだろう」

「裏切りません、絶対に」

「昨日、伯爵邸で、皆の前で俺とキスしたときのことを覚えているか?」

「え?」

「魔道具で、俺のもとに帰って来た時お前は、夢中で俺とキスした、覚えているかアリシア?

?」

「・・・はい」

「お前が、魔道具で俺のもとに帰ってきた、あの時、お前は夢中で俺とキスした

いくらキスしてもまだ足りないと言わんばかりに、俺たちはお互いを求めあった

あの時、俺はお前を抱けるときが来たと思った

やっとお前が、俺を受け容れることができるようになったんだとわかった

やっと、やっとお前を抱ける、そう思った」

「・・・ご主人様・・・」

もしあの時、周りに誰もいなかったら、私はあのままご主人様に抱かれていた

あの時だったらきっと私は、自分を姉だと言ったりしなかったろう

「あの時俺がどんなに嬉しかったかわかるか?アリシア」

「・・・私も、嬉しいです、ご主人様、今ご主人様のお気持ちを知れて」

「俺の気持ちなんかお前はずっと知っていたろう!

俺がお前を求めていることなんか、俺がお前の弟を演じていたころからずっとお前は知っていたはずだアリシア!

お前は、俺の気持ちを知っていた!

知っていて俺から逃げた!

逃げ続けた!

俺は王になり、お前は俺の奴隷になった!

お前は俺の物だ!

もうお互い何一つ嘘をつく必要などない!

それなのにお前は自分を姉だと俺に言い張った!

まだそんなことを、そんな嘘をお前は俺とお前の間に持ち込んだ!

今初めてお前を抱くこのときにお前は平気でそんな嘘を言った!

アリシア!

お前は最悪な女だ!

平気で嘘をつく、最悪な女だ!」


ご主人様が怒っている

こんなにも怒っている

今までと違う

私を捨てようとしている

「俺はもうお前に触れない

生涯、お前を抱くこともしない」

聞きたくない

「お許しを

申し訳ありませんでしたご主人様

お許しを

どうか」

私は手を着いて謝った

奴隷らしくする

それぐらいしか思いつかない

「やめろ、不愉快だ」

ご主人様が冷たく言い放つ

夢なら覚めてほしい今すぐに

「・・・」

私は顔を上げてご主人様を見つめる

涙で滲んでいる

「・・・お前を姉として認めてやろう、アリシア」

「・・・嫌です、ごめんなさい、やめて」

なんて滑稽なんだろう

一度でいいから姉として認めてほしいと思っていたんじゃなかったの私?

姉として認めてほしいなんてどうでもいいことにこだわって、こんなにご主人様を怒らせて

なんてバカなの

「嫌です、姉と呼ばないで、ご主人様お願い」

「弟が姉を名前で呼び捨てにするのは良くないな、改めようか、これからはお前のことを『姉上』、そう呼ぶようにしよう、なあ、姉上?」

笑ってる

ご主人様が笑ってる

奴隷になった私を王宮に連れてきた時みたいに、笑っている

私に隷従魔法をかけた時みたいに、笑って、楽しそうに笑って

残酷に、笑って

「ああそうだ、言葉遣いも改めた方がいいな、ねえ、姉上、そうですよね?」

「許して、許してください」

「勝手に謝っていいと俺は、いや、僕は言いましたか?姉上?」

「・・・いえ、おっしゃっていません、ご主人様」

「なら黙って聞いていろ・・・じゃなかった、聞いてください姉上」

「・・・」

はい、って言いたくない

言ったら、姉と呼ばれることに同意したことになる

そんなのは、嫌

姉なんて呼ばれたくない

「僕はこれから先姉上に触れることはしません

もちろんキスもしません

するとしたら親愛のキスですかね

でも男女のキスはしません

だって僕は姉上の弟ですからね

血のつながった姉と弟ですからね

もちろん

姉上を抱くなんて恐ろしいこともしません

血のつながった姉と弟でそんな恐ろしいことをしてはいけない

そうですよね姉上?」

「・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、お願い、姉なんて呼ばないで、お願い」

「・・・」

「お願い、姉と呼ばないで、お願いです、ご主人様」

怒られてもいい

どれだけ怒られても、言わないと、謝らないと

「俺は黙って聞けと言ったはずだ、まだ終わりじゃない、黙って聞いていろ」

ご主人様の声が、冷たい

「・・・姉上、あなたの名誉と身分を正式に回復し、奴隷から王女に正式に戻しましょう」

嫌だ、私は奴隷でいたい

ご主人様の奴隷でいたい

「それから、あなたにふさわしい縁談を探しましょう」

ご主人様がそんなことを言うはずがない

私を、他の男に与えるなんてことを、するはずが

「ああ、安心してください、政治の道具にあなたを使ったりはしません

あなたが好きになれるような相手を見繕ってあげます、姉上」

あなた以外のどんな男性も私は愛せない

あなたしか私は欲しくない

「喜んでください姉上、あなたは僕から逃れて王女として本来のあり方に戻れるのですよ?」

「・・・嫌、嫌です、嫌ですそんな、ご主人様、そんな」

「ははは、姉上ダメですよ、弟を『ご主人様』なんて呼んでは、あなたは僕の姉で、僕はあなたの弟ではありませんか、血のつながった姉と弟ではないですか、ねえ、姉上」

「・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、謝るから、許してください、許して」

「また勝手に謝る、僕の奴隷のつもりなら、僕に無断で謝るのはどういうつもりです?

僕を主だなんて思ってないんでしょう?」

「ち、違います、私は本当にご主人様を主だと思っています、本当です」

「姉が、血のつながった弟の奴隷に?正気ですか姉上?」

ご主人様が笑う

冷たく笑う

それでも

「わ、私は」

言わないと

ちゃんと言わないと

「私は、ご主人様の、ご主人様の奴隷でいたいです、ご主人様だけの奴隷でいたいです」

私はご主人様の奴隷でいたい

ご主人様の物であり続けたい

「私はずっと」

「奴隷のくせに主の許しもなくべらべら喋る、ずいぶんとまあ自由な奴隷ですね、姉上?」

「・・・」

本当にそうだ

ご主人様の許しもないのに勝手に私はべらべらと言いたいことを言った

「・・・まだ、話は続く、黙って聞いていてください、姉上」

「・・・」

はい、と言いたくない

姉と呼ばないでほしい

ああ、私はなんてバカなんだろう

姉と呼んでほしいなんて、なんてバカなことを言ったんだろう

怒られることは覚悟していた

怒られると思ったから言った、言えた

・・・どんなに怒られても、こんなことになるなんて、私は思わなかった

「・・・まあ、言いたいことがあるなら、先に聞いてやってもいいか・・・」

「え・・・」

「言いたいことがあるなら、言っていいぞ?」

言っていい?

「は、はい、ご主人様、ありがとうござます!」

「・・・」

私はご主人様を見上げる

私は床に座り

ご主人様は椅子に座って足を組み私を見下ろしている

私は奴隷で、ご主人様は私の主

私はそのことを嬉しいと思う

「私は、ずっと、ずっと、ご主人様のそばにいたかったです

ずっと、ずっと昔から、ご主人様のそばに」

「・・・」

「私は・・・私は・・・」

何を言えばいいのかわからない


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