第46話 剣鬼と剣神

橋の手前で立つ私から100メートルぐらいのところで立ちどまった反乱軍

戸惑っている様子がある

それはそうだろう反乱軍の馬車の中にいるはずの女が、なぜか先回りしているのだから


一人の男が、20代後半ぐらいだろうか、一人の男が私に近づき

「姫様、いったいどうなさったのですか?」

にやにやしながらそう言った

下卑た笑いを浮かべてくれてよかった、私はそう思った

おかげで、罪悪感を感じなくて済む

私はスモールソードをしまい、

長剣を抜く・・・少しだけ重く感じたので、手の魔力を少しだけ増やす

長剣は軽くなった、これでいい

男はまだにやにや笑っている

ありがたい、私はそう思って、跳んだ

剣を横に薙ぎ払い

私が着地してから、にやにや笑っていた男の首は地面に落ちた

男の胴体の、今私が切断した首の部分から、血が噴き出す

私はゆっくりと、反乱軍の方を見る

驚きから、数に任せた、怒り、が彼らから吹き出すのを感じる

明確な敵意

私は、長剣をしまい再びスモールソードに切り替え、彼らの中に飛び込んだ

進軍のため、鎧は着こんでいても、兜をしていない兵が多い

それが彼らに災いした

鎧の重さも

私は彼らの間を飛び回った

彼らは馬に乗り密集して動けない

私は彼らの体を、馬を足場にして、彼らを切り刻んでいった

時折、これはできる人だ、そう思う人もいたけれど、私の敵じゃない

次から次へと私は彼らを切り刻んでいった

・・・中には、もちろん、少年兵もいた

でも私は区別なく斬っていった

考えている暇はなかった

スカートを短くしてよかった

奴隷になった時髪をショートにしといて良かった

おかげで捕まらないで済む

その分神経を使わないで済む

若い兵がスモールソードを勧めてくれて本当に良かった

おかげで消耗が思ったより少ない

あの男が来るまで、このまま

・・・数十人ほど屠ったところで

「待てい!!」

大きな、だけど良く通る声が、英雄の声が、した

反乱軍は一斉に、動きを止めた

私は後ろに下がり、反乱軍と距離を置いた

私も反乱軍も、声の主の登場を待った

ほどなくして海が割れるように、反乱軍が左右にきれいに分かれて、あの男が出てきた

「なんという格好だ、アリシア」

ジェラルド・ハミルトンは、そう言って、笑った

「まるで娼婦のような恰好ではないか、王女がなんということを」

「・・・ジェラルド・ハミルトン殿、あなたに一騎打ちを申し込む、今すぐ、ここで」

間違いなく、今世最強の剣士を前に、

私は自分でも驚くぐらい冷静に、

しかし同時に剣士として高ぶりつつ、言った


剣士として、この男と戦えることに、私は高ぶっている、自分でもそれがわかった


「ふむ、私と一騎打ちか、ふむ・・・なあ、なぜ私がそれに応じねばならない?ん?

そんなめんどくさいことに、なんで私が応じねばならんのだね?アリシア」

「・・・あなたは、あの女に指輪を預けた、そして、私を縛っていた縄をほどき、馬車に二人きりにした」

「・・・」

「そして、馬車からいなくなった私を探すこともせずに、そのまま進軍を続けた」

「・・・だから?」

ジェラルド・ハミルトン

あなたは、戦いたいんだ、剣士として、本気で

「私が指輪をあの女から奪うことも、もう一度あなたの前に現れることも、

そしてこうして立ちふさがることも、全部あなたはわかっていた」

「・・・ふふふ、ふふふ、ではアリシアよ、教えてくれ、なぜ私はそこまでしてお膳立てしたのかね?

なぜわざわざお前と戦うために、そこまでしなければならない?」

「私が強いからだ、ジェラルド・ハミルトン」

「・・・」

ジェラルドの顔が一瞬、固まった

私は目線をそらさない、一瞬たりとも

ジェラルド・ハミルトン、私にはあなたがわかる

私も剣士だからだ

「私だけが、この世で唯一、あなたに勝てるからだ

私がこの世で唯一あなたに勝てる剣士だからだ、ハミルトン」

どうだ

乗ってこいハミルトン

「・・・ははははは、面白い、私に勝てると言うのか、お前が?

面白い、ふふふ、面白い」

「・・・」

「・・・私との一騎打ちが、お望みか、アリシア・ホワイト王女殿下」

重大な間違いをジェラルド・ハミルトンが言った

「もう私は王女ではない、ただのアリシアだ」

「なに?」

「わが主アーネスト・ホワイト様の奴隷の、ただの、アリシアだ、ジェラルド・ハミルトン殿」

「・・・」

反乱軍たちの間から失笑、嘲笑が聞こえてくる

でも私は、ハミルトンから目を逸らさない

ハミルトンも、私から目を逸らさない

「・・・そうか、では、ただのアリシア殿、このジェラルド・ハミルトン、そなたとの一騎打ちをお受けしよう」

「礼を言う、ハミルトン殿」

私は剣を構える

「まあ待ちなさい、一騎打ちだ、鎧を着たまま私に戦わせるのかね?

鎧を脱ぐまで待ちたまえ」

「・・・」

「それから、そのスモールソードはやめてくれ」

「いけませんか?」

私はこの男とは長剣で戦うつもりだけれど、あえて聞いた

「それは剣ではない、そんなもので戦うのは剣士への侮辱だ

・・・まあどうしても使いたい、長剣は重くて持てない、スモールソードがいい、これしか武器がない、と言うのなら、構わんがね」

「・・・」

私は無言でスモールソードを鞘にしまい、長剣を抜いた

「ふむ、それで頼むよ、奴隷のアリシア殿」

そう言いながら、ハミルトンは鎧を脱いでいった

上だけの軽装な鎧だったので、鎧を脱ぎ捨てるのはすぐだった

「ふむ、こんなものか」

そう言って、長剣を鞘から抜き、鞘を捨てた

「では、参ろうか、アリシア殿」

「・・・一つだけ聞かせてください」

「ん?なんだね?」

どうしても、聞いておきたい

「今でも伯母様を愛していますか?伯父様」

「・・・」

ハミルトン・・・伯父様の目が、一瞬、見開いて、細くなった

「・・・」

「どうなんですか?伯父様」

「・・・ふふふふ、ははははははは、はははっ、はははははははは

これから殺し合いをする相手に何を

何を言うかと思えば

何という戯言を

はははは、はははははははははは・・・

所詮は女だな、アリシア」

瞬間、手に握った剣の柄に力が入った

落ち着け私、落ち着け

「女ではない、剣だ

私はあの方の、ご主人様の、剣だ、ハミルトン」

そう言って私は構えた


「そうか、剣か、いいだろう、では存分に殺し合おうではないか、剣殿」

そう言って、ハミルトンも、わが師である今世最強の剣士も、構えた


気が付くと、小雨だった雨は、少しだけ強くなっていた





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