王となった弟とその奴隷となった姉の話(オリジナル)

@vast_dahlia

第1話 アリシア13歳アーネスト6歳



弟を前に乗せて、馬を駆る

警護の者たちを遠く離して、私たち二人きりで


私は弟を私の前に乗せている


「すごいです姉上!すごい!すごい!」


弟は、アーネストは目を輝かして私に言う

連れてきてよかった、そう思う

姉らしいことができるのがうれしい


「振り返ってはだめよアーニー、しっかり前を向いて手綱を握っていなさい」


その顔をずっと見ていたいけれど、私のせいでケガなんかさせたくない

だから少し厳しいことを言う


「はい」


弟は少し寂しそうに言う


私がこの子を嫌っているなんて誤解しやしないだろうか

そんな不安がよぎる

ばかばかしいけれど、不安になった私はほんの少しだまりこむ

「・・・」


「姉上?どうかなさいましたか?」

振り返ることなく弟が言う

私の不安を感じ取ったのだろうか


「なんでもないわ」

「・・・」

「なんでもないわ、アーニー」

「・・・姉上」

優しい弟

もっとずっと小さい頃から何度も何度も、私を救ってくれた世界で一番優しい心の持ち主

私の弟


「なんでもないのよアーニー、ただ少し、泣きたくなったの」

「泣きたくなった?なんで?なんで?」


しまった

弟を不安にさせてしまった


私は馬を止め、弟は私に振り向く


「姉上、なんで、なんで泣くんですか?

僕といるのが、嫌なのですか?」


とんでもないことを弟が言う


「バカ言わないで、あなたと一緒にいる今がどんなに私には幸せなことか、あなたにはわからないの?」


誇張ではない

本当にそうなのだから、うれしいのだから


「・・・」

「アーニー、私はあなたと一緒にいれて、すごく幸せなのよ

あなたは、違うの?」


「僕だって!僕だって姉上といられる今は、すごく幸せです!」


弟が、小さな体を、小さいけれどしっかりとした体で私に言う

男の子だなあ、と思う


「なら良かったわ、ねえアーニー、覚えておいて、信じていて

私は世界中の誰よりも、あなたが大事だって

あなたを世界中の誰よりも、大切に思ってるって」


「・・・姉上」


小さいけれど、しっかりとした男子の体と、生まれついた王の器を持つ私の弟


この子とこうしていつまでも一緒にいられたらいいのに


そう思って私は寂しくなった


泣きたくなった


「姉上、泣かないで、泣かないでください」


弟はまだ知らない


でもいずれは知るだろう



私たちはいつまでもずっと一緒にはいられないこと


いつかは別々の世界で生きていかねばならないことを


私と弟も、いずれは



「泣かないで、泣かないで姉上」


「・・・泣いてないわアーニー、ちょっと考え事しただけ」


「・・・」


「ほんとよ?」


弟はじっと私を見つめる

私も見つめ返す

弟が、馬上なのに振り返りながら私に抱き着いた

器用な子、そう思いながら私は弟を抱きしめ返した



このまま時が止まればいいのに



いつしか警護の者たちが私たちに追いついた

でも私たちは、離れなかった


離れたくなかった







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