毒蛾のたまご

平井良次郎

毒蛾のたまご

 留置所に勤めていると人に言うと、種々の大犯罪や麻薬中毒者の話などをせがまれることがあるが、留置所にいる人間全てが大犯罪者というわけでもなく、大概は万引きやら詐欺の受け子やらがほとんどで、その実態を話して残念がらせることも少なくない。

 だが、私の長くはない経歴の中で一人だけ、忘れ難い狂人があった。単なる狂人の身の上話に過ぎないが、私はそれにひどく恐怖し、またひどく惹きつけられたのを記憶している。

 当時三十そこらの彼は、確か坂下だか坂巻だかいったが、一見するとどこかの大企業の社員ではあるまいかと思われるほど好意的な印象を与えた。しかし、どこかに憂いを孕んだ物悲しい表情をしているのだった。蝶のような華やかさは無かったが、あの白い半透明の羽の蛾を思わせる幻想的な儚さがあった。私よりも少し背が小さく、華奢であったが、眉間には知識人と言わんばかりの深い皺が刻まれ、そのアンバランスさが妙に私の気を引いた。そのほかの連中はとても話ができるような輩はいなかったが、その青年だけは不思議な魅力があった。白い絹の上に墨で点を打ったような涙ぼくろがやけに記憶に残っている。私はこの憂いのある、世を儚んだような顔つきの青年の懺悔話を聞いてみたくなった。こんな男がこの小汚い留置所に放り込まれた訳が知りたくなったのだ。私はまるで酒場で相席者に話しかけるような心持ちでこの青年に声をかけ、その狂気の身の上話を聞き出すことに成功したのである。以下に、私が覚えている限り忠実に彼の告白を記した。少々食い違いやらがあろうが、これは何しろ二年ほど前の話なので、そこは目を瞑っていただきたい。青白い顔を俯かせて青年は口を開いた。


 さて、なにから話すべきでしょうか、僕は死体を損壊したということでここに居るのですが、僕はむしろその死体に身も心も壊されてしまったようなものなのです。れいかは……死体というのは僕の恋人で、れいかと言うのです。彼女とは汚いドブ川の橋の下で出会ったのです。僕が父の形見のカセットプレーヤーで名前も知らない曲を、イヤホンは無かったのでささずに、ボンヤリと聞いていたときです。川上の方からガリガリに痩せこけた女が歩いてきて、僕に気付いて、今どきハードロックを聴くのはじじいかカッコつけてるかのどっちかだって言って笑うのでした。僕が曲名も作曲者も知らないことを白状すると、なにそれ、と笑って僕の隣に腰を下ろしました。

 二人してドブリドブリ流れる川を眺めて、しかし全く気まずさのない無言の時間が流れました。その日はドンヨリと重い雲が空を覆ってしまって、深青色の冷たいもやがあたりをどんどんと夜の色に沈めていくのでした。僕がもう帰るよ、と言うと、彼女は一晩でいいから泊めて欲しいと迫るのでした。僕は……女というのが怖いのです。というよりも、女を前にして僕が僕でなくなっていくのが恐ろしいのです。もちろん僕は断りましたが、帰りたくないと言って聞いてくれないのです。そんなら、ホテルでも泊まったらいいと言ったのですが、言った後で、この片田舎にホテルなんかあったかしらと、自分でも馬鹿らしいことを言ったと思い、困り果ててしまいました。

 僕は彼女に背を向けて歩き始めました。彼女は僕の二歩ほど後ろを歩いているようでした。僕の住んでいたアパートと橋は目と鼻の先でしたから、すぐに着いてしまいました。どうかこの子が早く帰ってくれますようにと、僕は天にも祈る気持ちでした。

 彼女を家にあげ、僕は仕事があるからと言ってシャワーを浴び、さっさと寝室に引き上げてしまいましたが、見ず知らずの他人を家に上げたまま寝付かれるはずもなく、結局彼女がシャワーを浴び終えるまで起きていることにしました。

 低いデスクを挟んで僕らは床に座りました。彼女の持ち物は充電の死んだ携帯と2000円だけが入った財布、保険証、そしてビジュアル系バンドのCD一枚だけという状態でした。僕は聞くつもりもなかったけど、どうして家に帰りたくないのかとつい聞いてしまいました。

 彼女は家出を画策してずっとコンクリートの路を川沿いに歩いてきたというのでした。元いた住所を聞いて僕はギョッとした。田舎の三、四駅の距離は尋常ではありませんからね……。とにかく彼女は朝からずっと歩き続け、陽の傾く頃に僕に出会ったというのでした。彼女の母親は某女子大学の主席合格者で、某大手企業で働き、そこの冴えない男と結婚したが、ヒステリックなフェミニストと言いましょうか、常軌を逸した男女同権を唱える母親となり、ついに精神異常の息子とその十二歳の妹を夫の元へ残して出ていってしまったというのでした。彼女の兄というのは、中学生の頃、野球ボールが頭に直撃して以来、精神年齢が4歳児になって、見るに耐えぬようなブクブク太った化け物になって、薄気味悪い声でケタケタ笑うのだというのでした。彼女は、

「れいかはこのことを思うとすごく惨めに思えてくる。お兄ちゃんは昔は優しかった。れいかはパパに似てブスだったけど、お兄ちゃんはママに似て綺麗だった。夏祭りも花火大会も、お兄ちゃんは友達よりもれいかと一緒に行ってくれた。お兄ちゃんはもういない。あの人をお兄ちゃんと思えない。よだれが垂れて、鼻水が垂れて、大人の声なのに子供みたいな喋り方で……れいかの家は惨めだ」

そう言うと、子猫のような丸い目から涙の球がふくれでて、静かに頬を転がっていくのでした。その時の僕の気持ちをどう表したらいいでしょう。あれを父性と呼ぶのでしょうか。彼女を心の奥底から守りたいと思った。彼女が笑ってくれたらどんなにか嬉しいだろうと思った。ガリガリの手がふっくらして、頬も丸くなってくれたらどんなにか良いだろうと思った。さっきまであんなに帰って欲しいと思っていた自分を引っ叩きたいくらいでした。

 けれど、れいかが寝室までついてくるので僕は一緒には寝たくないと強く言ってしまいました。今思えば、これは半分正しくもあり、間違っているとも思えますが、とにかく部屋を別にしてくれと言って、れいかは僕のベッドに寝かせ、僕は毛布にくるまってさっきのテーブルの横で寝てしまいました。すすり泣く声が響いてきて、僕は耳を塞いでしまった。こちらまで涙がにじみ出てきてしまったから……。

 朝、目が覚めて、背中が痛い痛いと思いながら、寝室でまだ寝ているであろうれいかに、適当にあるものを食えと言う旨の書き置きをして、たしか僕はどこかで何かを買って食べながら仕事に向かったように思います。

 家へ帰るとがらんどうの部屋に一つだけある小さな本棚の前でれいかが倒れているのでギョッとして肩を揺さぶると、目をぱちぱちさせて僕の顔を見て、突然照れたように声をあげて笑い始めました。子猫の目を細めて、小さい口から八重歯が覗き、細い両手を頬に当てて、子供みたいに笑うのでした。僕は自分が怖くなり始めていました。こんなに美しい顔が目の前にある。名前も呼べる。触ることもできる。抱きしめることも、その小さい唇を奪うことも、小さい体を蹂躙することも……。僕の中で毒の血が巡っているのがわかりました。

 しかし、青ざめる僕をよそに、れいかは

「ここの本全部つまんないから、眠くなっちゃった。もっと面白いのないの」

と無邪気に笑っているのでした。れいかの手にファインマン物理学が抱かれているのを見て、その文字列をつまらなそうに眺めているのを想像したら、少し緊張が解けたような気がしました。どんなのが読みたいのか聞くと、古城の吸血鬼と田舎娘の恋とか、令嬢と敵国の紳士の禁断の恋とか、そんな話がポンポン出てくるのを聞いているうちに、なんでビジュアル系バンドのCDなのかがだんだんわかってきて、なんだかひどく可愛く思えてきて、僕は変にアハアハと笑ってしまいました。れいかも笑って

「れいかは自分を田舎娘と思って歩いてたら、君がいたでしょ。小丘の古城の吸血鬼はいないけど、小丘のボロアパートに君がいた。れいか、運命ってあると思うの」

とこんなことをいうのでした。子猫の目がきらりと光った。それは雌猫の色仕掛けでもなんでもなく、夢見る子猫の目なのでした。下の名前、なんていうのって聞きながら、僕の手を取ろうとした……でも、僕は咄嗟に手を引っ込めた。きっと僕はひどく青ざめていたでしょう。れいかは心配そうな顔をして、ごめんね、と悲しげにいうのでした。ああ、僕って惨めだ。情けない男だ。いたいけな少女に、謝らせてしまった。もう月が出ている頃でした。その日は馬鹿みたいに晴れていた。星がきらきら光っていた。僕の心は憂鬱に曇っていくばかりでした。

 れいかは自分も仕事をすると言って、近くのスーパーでアルバイトを始めて、週に5日、朝から晩まで働いていました。家に帰ると、れいかに色々教えるのが日課になっていました。ハレー彗星、南極観測隊、火星探査機、色々目を輝かせて聞いてくれるので、僕も調子に乗ってべらべら話してしまうのでした。なかでも、れいかは僕がするおとぎ話を楽しんでくれました。不思議の国のアリスは、ルイスキャロルがアリスという少女にせがまれて即興で作ったと言いますね。僕はそれを十九歳の女にやったのでした。気違めいていましょうけれど、そんな毎日が僕は楽しかったのです。

 いつだったか、僕はその日ひどく酔っていて、ついにれいかに泣きながら身の上話をしてしまいました。酔って泣きながら身の上話をする男はだめ男でしょうね。僕は今でも恥ずかしいや。れいかはこのだめ男の話を、小さい顎をうなずかせて、真剣に聞いてくれるのでした。

 僕は祖父母の家で育てられました。都会から坂巻家に嫁いできたという僕の母に迫られて、僕の父は心中したというのです。母は十九、父は二十一のときに僕が生まれました。詳しくはよく知りませんけれど、母の遺影を見ると、僕と同じ位置に泣きぼくろがあるのです。この写真を見る度に、僕はこの毒婦の息子なんだと思い知らされるのです。父はきっと優しい人に違いありません……父の笑顔の写真を見ると、僕は切ないけれど暖かい気持ちになるのです。父の部屋へ行けば父がすぐ近くにいるような感じがした。父の部屋の物に触れば父の生命すら感じた。僕は祖父母の意向でそのままになった父の部屋に何度も入っては、暖かい気持ちになっているのでした。

 僕は某大学の大学院まで進みました。そこで一つ年上の、修士二年の女性と恋仲になりました。機知に富んだ凛とした女性で、世話好きというのでしょうか、面倒見の良いところがありました。あまり酒の得意でない僕がしこたま修士二年の先輩たちに飲まされて、酔い潰れた僕を家へ止めてくれたり、また色んなところへ連れていってくれました。ある晩、僕はやはり先輩たちとの飲みの誘いを断りきれず、千鳥足で彼女の家に向かいました。彼女と会う約束だったのです。泥酔者を寛大にも家に入れてくれた彼女を、僕は……僕の血はあの毒婦の毒が流れているのだ。悲鳴をあげる彼女の肉体を僕は、蹂躙してしまったのでした。

 それからぱったり会わなくなりました。僕は大学へはとてもいく気になれませんでした。ある日、彼女の両親がカンカンに怒って僕の家にやってきました。彼女は妊娠したと言うのでした。祖父母は顔面蒼白になって、泣きながら僕を怒鳴りつけ、五十万を持たせて僕を締め出しました。あの女の息子だからと、祖母が泣いていたのを忘れることができません。しかし、僕は救われたと言うべきでしょう。勘当させられるだけで僕は助かったと思いました。坂巻家の長男として祖父母はひどく僕を可愛がってくれた。祖父母としては最大の思いやりでしたでしょう。僕は大学を辞め、この町に移ってきてから五年間、がらんどうのボロアパートで刑務所のような暮らしをしていました。

 れいかはこのだめ男の話を黙って聞いてくれました。れいかが僕の肩に触ろうとして、咄嗟に避けてしまった。れいかを純白のままにしておきたかった。僕の中の毒がれいかに触れるのが嫌だった。けれど、れいかは僕の涙を指で拭って、大丈夫、大丈夫と優しく微笑んでくれるのでした。僕はとめどなく溢れる涙を袖で押さえ押さえ、しかし涙は止まらないのでした。れいかの指から、父の部屋で感じた暖かさを感じて、止めることができなかったのです。れいかは、今日は一緒に寝ようと言って、恥ずかしいけれど僕はれいかの腕の中でその日眠ったのでした。

 なんて楽しい半年間だったろう。れいかが死ぬまでは僕は幸せ者の極大点にありました。れいかはやっぱり、僕の毒で死んだのでしょう。おなかの中の子も死んで、れいかも死んでしまいました。

 この晩の話は、いや、よしましょう。男女の情事を事細かに話すのはもっとだめ男でしょう。子猫の目が暗闇で僕を見つめて、僕の方が怯えているような馬鹿げた状況でした。れいかはだめ男の僕を、小さい体で受け止めてくれるのでした。

 二ヶ月くらい経って、れいかが体調が悪いと言ってアルバイトを休みがちになりました。もしやと思って病院に連れていくと、仏様のような顔をしたはげ頭の先生が、よかったですねえと笑うのでした。れいかはまだ細いお腹を撫でて、八重歯を見せてあどけなく笑いました。僕はなんだか泣きそうだった。その日はドンヨリと寒々しく曇っていたのに、れいかの笑顔はひまわりのように、幸せの光を僕に与えてくれるのでした。

 僕は何もわからなかったが、とにかくれいかが働いていてはだめだと思ってアルバイトを辞めさせました。僕は輸送会社の下請けの、製品管理の真似事みたいな仕事をしていました。僕はもっと頑張りたくなっていた。初めて仕事にやる気を覚えた。れいかが笑ってくれたら、僕はなんでもできたのでした。

 けれど、病院の仏様がある日顔を曇らせて、このままでは母子共に生命が危ういと言うのでした。お腹の子を産むのを辞めにすれば、れいかは助かるというので、僕は必死でれいかを説得しましたが、れいかは、産むのを辞めにするって、どういうこと、と鋭い目で僕に聞くのでした。僕はたじろいだ。れいかは子供のようだったけれど、子供のようには怒らなかった。静かな、母親としての怒りを僕に向けたのでした。うろたえる僕を待合室に残したまま、れいかはてくてく仏様の診察室へ、他の患者がいるのも構わず歩いていって、

「れいかの子だけは生きられないんですか」

と言うのでした。この状態じゃ、難しかろうと、仏様は優しく諭すのでした。れいかはきっと悟ったのでしょう。難しいは、無理ということ。子猫の目からぽろぽろと、涙の球が光って滑り落ちていくのをら僕は泣きそうになるのを堪えて見つめていました。れいかは親猫にはなれないのでした。

 そしてますます僕は、この体内を巡る毒性の血を憎みました。僕の毒がれいかを蝕み苦しめているのは明らかなんだ。あの毒婦の血が代々受け継がれ、そして僕の中にもドロリドロリと流れ、そして僕はそれをれいかに触れさせてしまったのだ。れいかの純白の身体は繊細だった。それだから、僕の毒を解する抗体を持っていなかった。この血が憎い。僕は、自分が嫌いだ……。

 れいかは子供をおろそうとしませんでした。病院にも行ってくれなくなりました。弱ったれいかを引っ張って連れていくこともできませんでした。そうしてつい二週間前、れいかは僕のベッドの上でお腹を撫でながら――おそらく既に死んだ胎児を体内に宿して――小さく歌を歌っているのでした。どこで覚えたのか、カチューシャかわいや、わかれのつらさ……と、優しく歌っておりました。そうして、ゆっくり目を閉じると静かに、おやすみ、と言いました。いつもと何も変わらないれいかの声はあの暖かさがこもっていました。幸せの光がゆっくりと霞んで消えていって、僕はひたすらに泣きました。れいかの名前をたくさん呼びました。れいかは永遠の子猫の美しさを保って、眠ってしまいました。

 屍蝋って、ご存知です?ザブザブ流水に肉体をさらしておけば蝋細工のようになってしまうのですよ。僕は子猫を、本当に永遠にしようと思ったのです。また、冷たい水にさらしておけば、きっと僕の毒も抜けてくれるのではないかと思ったのです。以前と変わらぬ純白の身体を蝋細工にして、れいかが確かに、この世で最も清い乙女であることを証明せねばならないと思いました。れいかの美しい身体に刃を入れるのは、それは辛いことだったけれど、僕はのこぎりを買って、れいかの綺麗な細い首を切り始めました。皮膚がずれて黒い血が溢れて、ごりごり骨を切るのは虚しい気持ちがしました。先刻までれいかの身体には血が通い、幸せの光で満ち満ちていたのに。それでも僕はひたすられいかを切りました。涙が溢れて溢れて止まりませんでした。一滴たりとも血を無駄にしたくなかった僕は、れいかの血を手で掬って飲んでしまいました。首なしのれいかを抱きしめました。喉を伝ってつるりつるりと流れる血が僕のがらんどうの身体と心を満たして、かすかに残った幸せの光が僕を生かすように思いました。僕はれいかの頭を桶に入れて、ザアザア水道の水をかけ始めました。僕はなんども乱れた髪を水中で直してやりました。真赤な血が流れて、れいかは徐々に純白に戻っていきました。僕は涙を押さえ押さえ、れいかの腕と脚も切りました。見れば見るほどれいかは完璧でした。それを醜く切り刻まなければいけないのがどんなに惜しかったか。しかし僕は、れいかを真白の灰にして冷たい墓石の下に閉じ込めてしまうのが可哀想だった。いつでも僕と一緒にいて欲しかった。れいかが灰になってしまっては、僕はもうずっとれいかと離れ離れになってしまう。辛いけれど、僕はそう自分を鼓舞してれいかを切っていきました。胴体と腕二本と脚二本を僕は浴槽に入れてザブザブ冷水をかけました。水がれいかを洗い流してくれました。これで僕の毒も流れてくれるはずだと信じて、僕はまたれいかの髪を直してやるのでした。

 そしてつい昨日、制服の人たちがやってきて、蝋細工になったれいかを連れていってしまいました。泣いて泣いて、取り返そうとしたけれど、力が強くてかないませんでした。そうしてじき、他の制服の人に押さえられて、僕はここに来たのです。


 言い終わった青年の顔は子供におとぎ話を聞かせ終わった父親の如く清々しく輝いていた。私は物も言えなくなって、冷たい汗が背中を流れていくのを感じていた。猟奇、残虐、異常、どんな言葉もこの青年には当てはまらない。彼の形容詞に相応しいもっと恐ろしい言葉を私は知らない。だが、この狂人の言葉巧みなおとぎ話は、私を恐ろしいほど魅了してやまなかった。

 まるで見計らったかのように同僚の者たちが彼を連れていった。彼の表情は天使とでも言いたくなるほど無垢だった。

 一羽の白い蛾がひらひらと窓の外で舞っていた。

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