カルトの天使
おかいこ
消えた247.6km²
田舎の因習と現代社会の対立は当然の事であって、主流かそれ以外かという違いだけのふたつの社会がそこにあるという事由のみで説明はつく。
そこに法が二つあり、倫理が二つあり、支配が二つあり──────────
亜芭瑠県の
その街は遥かな昔から政府権力が支配を失敗してきた、因習カルトの地域だからである。
御む夏は、247.6km²に跨る、目に見えて明らかに異常な超巨大コンクリート製廃墟群である。
全ての建物には
最⃝
というシンボルマークが刻まれている。
推定人口2000000名。日本政府の調査によると、内部では少子高齢化が全く進んでおらず、年齢ピラミッドは富士型を維持しており、そのことから乳幼児に劣悪な環境であること、避妊の理解が進んでないこと、子供を労働力と見なしていること、公衆衛生が崩壊していることが分かる。
戸籍、基本的人権、苗字という概念は無く、私有財産は認められない。また差別が横行しており、性差別や出自差別、階級差別が頻繁に見られるとのこと。
「航空隊、化学隊、何でもいい!全ての専門部隊を派遣しろ!」
県警本部長は机を叩いて激昂して、怒号に近い指示を飛ばす。もはや癇癪の域であったが、そうなっても仕方が無い。ただでさえ、役人にとって悩みの種であるというのに…。
『至急至急、偵察11より県警本部!
『見渡す限り人、建物の
ある月の第2金曜日の22:12:29に
完全武装の自衛隊、警察、海上保安庁合同班が24時間365日体制で監視していたが、瞬きするようなほんの刹那のことであったという。監視カメラ映像もかき集められて解析が行われたが、結局は同じくなんの兆候も見せずに一瞬で消えた瞬間が映っていただけであった。
政府は匙を投げ、起きたことをそのままマスコミに発表し、直ぐに官民一体の調査団を設置し調査を行うが、旧御む夏地帯はまことに、何も有益な情報を得る事が出来なかった。
ただただ、平原と異常性の見られない土壌のみがあり、御む夏地帯の消えた住民は全員行方不明として処理された。
だが調査が打ち切られ、完全封鎖から六ヶ月後、またまた日本政府がため息を吐きたくなるような頭痛の種が発生した。
ある民間警備員の報告書によると、AM2:06に旧御む夏地域外周に立てられた壁を内側から叩く音が聞こえ、警備員は直ぐに確認しに行く。すると、若い少女がボロ布だけを一枚纏って壁を叩いていたのだ。
警備員は警察に通報。警察は防弾のヘルメット、チョッキ、盾という重装備で御む夏地域に侵入し、少女を保護した。
少女に名を尋ねると「なつ」とだけ答え、血液型や年齢、家族構成などを聞くも、何も答えられ無かった。
旧御む夏住民という事で処理され、彼女に新しい苗字や職業訓練の場を与える事になり、更に何か欲しい物が無いか訊ねると、こう答えた。
《オレと最初にあった人と会わせて下さい》
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