第19話 塩とレモン 4.エッチとレモン
4.エッチとレモン
彼の体力がすごいのも、分かる気がした。
前から、横から、後ろから……。彼は休むことなく、様々な技術を駆使し、体位を変えてきた。
私も体力には自信があったけれど、まるで千五百を走り切ったような疲労感を伴うほどで、それは筋肉の使い方としてはちがうけれど、持久力としては似たようなものでもあった。
彼の首元にそっと頭を寄せるようにして、横になる……。愛する人とこういうことをするのって、ちょっとした夢でもあって、私はまだそのまどろみの中にいるような気もした。
「キミの事象がわかったよ」
彼はそういって、私を現実にひきもどす。
「分かったの?」
「キミは昔、交通事故に遭ったことは?」
「小さいころ、ほとんど記憶にものこっていないけれど、遭ったことはあるわ」
「今日は痛かったかい?」
「え? あ……、痛くなかったわ」
「キミのそれは、痛みを回避するために身に着けたものだったんだ」
「痛みを……回避?」
「痛かった……その状況を回避するため、同じ状況になったとき、意識のスイッチを切るんだ」
「意識を……切る?」
「キミは横断歩道をわたってから、ゴールするまで意識を切っていた。それが瞬間移動の正体だよ」
「そんなことあるの?」
「ある、というか、キミはいつも体験するはずだ」
「……え?」
「ランナーズ・ハイだよ。脳が酸欠の苦しみから逃れるため、脳内で麻薬を合成し、意識をトリップさせる。キミはそれを多く合成でき、痛みを乗り越えて意識を飛ばすぐらい……」
「キミとセックスをして分かったよ。キミは初めて挿入されたときを憶えていないだろう?
それは痛身を感じて……意識をトリップさせていたんだ。
そして驚いたことに、キミのそこは挿入するたび、まるで初めて男性を受け入れるときのように、回復している。前から、横から、後ろから……色々と試してみたが、いつもキミのそこはキツキツだったよ。オレだからいいが、不慣れな奴だと、毎回血まみれだよ」
「キミが交通事故に遭ったか、遭わなかったか……。でも、そんなことは関係ないのかもしれない。遭ったところで、キミは痛みをなかったことにし、身体を回復してしまう。遭わずとも、それを記憶することすらなく、意識をその間は飛ばしてしまうのだから……」
交通事故には遭ったのかもしれない。でも、起こした側が轢き逃げをしたから、大事にはならなかった。ぶつかった後も志尾飛が走っていったので、大丈夫だと思ったのか……?
いずれにしろ、彼女が痛みをなかったことにするのは、超回復なのか? 意識すら飛ばして、その間に身体を回復させてしまうのは、物理というより生物学と言ってもよさそうだった。
負荷をかけて走ると、筋肉は切れ、そのたびに太く再生する。次に同じぐらいの負荷にも耐えられるように、身体をつくり変える能力が生き物には備わっている……ということだ。
私はその能力が、人より高いのかもしれない。高い……というか、秀で過ぎているのかも……。
エッチをしても、また生娘のようにもどってしまうなんて、とんだ回復力で、自分でも驚く。
でも、彼とならエッチできる。だって丁寧に、やさしくそれを毎回、為してくれるのだから。
でも、私は毎回エッチしたいわけではない。
何しろ、私は陸上で忙しい。そして大会前になると、私は女の子ではなくなってしまうからだ。
だから大会が終わってから、私は彼とエッチをするようになった。いつも初めてのように……。
「こんなにエッチをしていて、いいのか?」
彼はそう訊ねてくる。
「大丈夫、大丈夫。これもトレーニングみたいなものだもの」
「どういうことだ?」
「だって、エッチって短距離走みたいじゃない? あなたは長距離走もいけそうだけど……」
そういって、起ったままのそれを突く。
そう、私は短距離走の選手だ。でもこの距離は難しい。速さと体力を兼ね備えないといけないから。
私はまるで短距離走のようにエッチをこなし、すぐに回復する体力をもつ。そんな私に、彼はすぐ応じてくれる。
「また食っているのか?」
私は彼とエッチするとき、スライスしたレモンと、塩をもってきている。だって体力をつかうし、それこそすぐに回復をしないといけないから。
「食べる?」
「いらないよ。レモンに塩をかけたものなんて……」
そう、私は面倒くさくて、その両方を一緒にとるようにしていた。ふつうは甘くしたレモンと、塩を別々にとる。彼は食べようともしないけれど、私はこの組み合わせが好きだ。
「エッチをした後のすっぱいものは、おいしい!」
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