モーセの陰謀2
星都ハナス
第1話 新幹線内で出会った男
残暑厳しい九月の朝。東海道新幹線乗り場南口。私は少女のように心をときめかせ、待ち合わせした高校時代からの親友、ユカリの姿を探した。
「カスミ、こっち、こっち。おはよう! 傘なんか持ってきたの?」
「おはよう。だって奈良地方は雨降るみたいだよ」
電話よりも一オクターブ高いユカリの声が私の耳に届く。旅行慣れしている彼女は
「はい、これ新幹線のチケットね」
「ありがとう。何から何まで助かります」
受け取ったチケットを手提げ鞄に入れ、私はユカリに仰々しくお礼を言う。というのも、彼女はお財布にもアラ還の体にも優しい旅行計画を立ててくれたからだ。振り込まれた定額減税給付金四万円で十分足りるようにとの配慮はパート主婦の私にはとてもありがたかった。
「十一時頃には奈良に着くからね。途中、京都駅で柿の葉寿司を買って、宿泊するホテルに荷物を預けたらバスで春日大社に行くからね。そのあとは東大寺と奈良公園の予定だよ」
「了解です」
窓際席にドカリと座った私はテーブルを手前に倒して傘を掛け、シェアされた計画表をスマホで確認する。修学旅行以来四十年以上ぶりの奈良観光にテンションが上がる。リュックからペットボトルのお茶とおやつを出しテーブルの上に置いた。
「カスミ、遠足じゃないんだから。それ何?」
「
「旅行にさつま芋を持ってくるなんて聞いたことないわぁ。仕方ないな。カスミの荷物を軽くするために協力してあげる」
ユカリは恥ずかしいと言いながらも蒸し芋を丁寧に一口大にちぎり、口に運ぶ。ユカリの手入れされた爪とシミ一つない白肌に嫉妬しながら、私も芋にかぶりついた。結婚歴の無いユカリは未だに独身だ。同い年なのに、私の方が年上に見られるだろうな。年相応にと茶系の服を選んだことが悔やまれて、ピンク色のハンカチをポケットから出し、冷房対策だと首に巻いた。いまさらシワを隠したって遅いけどね。諦めて芋を口に運ぶ。
───その時だった。
「隣に座っていいかな?」
芋を流し込もうとペットボトルのフタを開けていると、突然、初老の男性に声を掛けられた。走り出した新幹線内。大きなトランクを引きずっている様子から席を探していることは明白だ。自由席の三列シートだ。誰か座ることくらい予想していたが、全身白ずくめの怪しい雰囲気にユカリが押し黙る。横に座られるのは嫌だろうな。かといって杖をついている彼を立たせたままにしておくこともできず、私はどうぞと手で合図した。
「悪いけど私、少し寝るね」
「うん。ユカリ、最近寝不足って言ってたものね。京都に着いたら起こすね」
私は男性の気分が悪くならないようユカリと話を合わせ、前もってユカリから渡されていた酔い止めドロップを一つ口に入れた。
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