第42話 推しヒロインの母
『ひよりーただいま〜』
ガチャっと扉を開ける音共に女性の声が下から聞こえた。
来たか……!! ひよりのお母さんっ!! 怪しまれる前に早急に挨拶と状況説明をしにいかなくては!!
……あ、あれ? ちょっ、ひよりがなかなか手を離してくれない……!?
『ひより起きてる〜?……ん? 誰か来てるの?』
急いで階段を登ってくる足音が聞こえてくる。
あ、まずい! こんなことでもたついている場合じゃ……!!
なんとか手を離して、ネクタイを締め直す。
よし……!! いくぞ!
意を決して部屋を出るとそこにはびっくりとした表情のひよりのお母さんがいた。
うわ、ひよりママ若っ!! 娘に似て童顔の巨乳美女だ。とても高校生の娘持ちには見えないぞ……
「あら、あなたは……」
「あ、あの、いつもお世話になってます。なな……ひよりさんの親友の」
「文くん……ね?」
「え、あ……はい」
「やっぱり!! ひよりからいっつも聞いてるのよ〜?」
大丈夫かな? 俺の愚痴とかじゃないよね?
「もしかして……ずっとひよりのこと看病してくれていたの?」
「いや、まぁ……はい。今はぐっすりと寝ています」
「ありがとう……もしかして、ご飯まだ食べてない?」
「あ、いや……卵お粥を作ったら食べてくれましたよ」
まぁ、全部あーんだったけど……
「ひよりじゃなくて、文くんのこと聞いたんですけど〜?」
ひよりママはくすくすと笑いながら言った。
あ、俺のことか。
「あ、いや……まだです」
「やっぱり! よかったら晩御飯食べて行ってちょうだい! ひよりを看病してくれたお礼がしたいし!」
「いえ、そんな……!! お構いなく」
「……ダメ?」
ぷくっと頬を膨らませながら見つめてくるひよりママ。
か、かわいい……あ、いや。うん。いかん。相手は人妻だ。しっかりしろ。
……まぁ、でもあれだ。これだけ歓迎されて帰るのもそれはそれで失礼……かも?
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて……」
「まかせて!! ママ頑張っちゃうから!」
ペロと舌を出しながらピースをするひよりママ。やっぱかわいいな……この人。
ひよりママは俺の手を掴むとグイグイと引っ張って、リビングのテーブルに案内した。
鼻歌を歌いながらテキパキと料理を作るひよりママはぼんやりと眺めなながら待つこと数十分。
美味しそうなオムライスが運ばれてきた。
「はい、どうぞ召し上がれ♪」
「いいただきます」
お向かいに座ったひよりママに手を合わせてからスプーンを手に取った。
「う、うまい……うますぎる」
「よかった〜オムライスには自信があったから安心しちゃった」
ニコニコと頬を手に当てながらこちらを見つめる。
「……ねぇ、文くん。最近ひよりは学校ではどう?」
学校でのひより?
別にいつも通り……だよな。
「そうですね……明るくて元気で楽しそうで人気者ですよ。めっちゃモテますし」
「うんうん。それで他には? いつもどんな子と一緒にいるの?」
いつも一緒にいる人……か。
『ひよりちゃんと言ったら学級委員長ってくらい一緒にいるじゃん』
「あ、俺……ですかね」
…………あれ、もしかして今すごくキモいこと言った?
「うんうん。そっか、そっか〜」
俺のキモ発言にも関わらず、ひよりママはニコニコ顔で頷いている。
「……文くん。本当にありがとうね」
「へ? いや。看病くらい……全然大したことでは……」
「ん〜それもあるけど、それだけじゃない。かな」
「……え?」
「言ったでしょ? ひよりから聞いていたのよ。色々と……ね」
困ったように微笑むひよりママ。
色々……それはきっと、天馬と一花のことだろう。
「ひよりの話を聞いていて思ったの。きっとあの子が頑張れたのは君がそばにいてくれたなんだなって」
ひよりママはふっと目を細めて俺に微笑んだ。
「文くん……」
「は、はいっ」
「あの子のこと、お願いね?」
「は、はい……」
ひよりママは思わず頷いてしまった俺を見て満足そうにしながら頷いた。すると誰かの足音が近づいてくる。
「ママ、帰ってきてたんだ……汗だらけだからシャワーでもー」
リビングの扉を開けたのはパジャマ姿の七瀬ひより。目を擦りながら俺の姿を確認した瞬間フリーズする。
「え、な、なんで文くんがママと一緒にいるの!? なんでオムライス食べてるの!?」
「ママが誘ったのよ。ねー? 文くん〜」
「あ、はい……」
「……なんかママにデレデレしてない?」
してません。してたとしても顔には出さないように努力してますから。
「え〜? 文くん、私にデレデレしてくれてるの〜? ママ嬉しいな〜」
「ちょ、ちょっとママ!! 近い!! 近いよ!!」
ひよりは少し不機嫌そうにしながら俺とひよりママの間に割り込む。
「もう!! ママはあっち行ってて!!」
「え〜ママも文くんともっとお話ししたい〜」
「ダメ!! 文くんがデレデレするでしょっ!」
「は〜い……」
ぷくっと不服そうにしながらリビングから追い出されたひよりママ。
「……文くん。なんで残念そうな顔してるの」
「あ、いや……そ、そういえば熱はもう大丈夫なの?」
ひよりのどこか責めるような視線から逃れつつ、話題を変える。
「へ? どうだろ……うーん。そういえば、だいぶ楽かも……そうだ。文くん。確かめてみてよ」
悪戯っぽい表情でこちらを見上げるひより。
え、まさか……またやるのか? おでこ同士をくっつけるやつ。
「はーやーくー」
これは、もうアレだ。やるしかないやつだ。仕方がない。ひよりママが戻ってくる前に済ませよう。
見上げてくるひよりの前髪を右手てかきあげる。
「……? 文くんー?」
そして、ぴとっと自分のおでことひよりのおでこをくっつける。
「!?」
んー熱は引いてるっぽいー
「ひ、ひゃあっ!?」
「へごっ!?」
いきなりひよりに突き飛ばされ倒れ込む俺。
え、なんで……?
「な、なな……!! 文くんいきなり何するの!?」
「え、何って……熱がないかの確認を」
「なんでおでこ同士で確かめるの!? こういう時って普通、手でするよね!?」
「え、だってそれだとわからないって……」
「わかるでしょっ!?」
えぇ……なんなんだ。この理不尽は。いや、これは……もしかして、覚えていない……のか?
高熱がある時って意識が曖昧だし、記憶力も低下してしまうって聞いたことがある。
少なくとも覚えているのなら先ほどのような反応はしないはず。
というか、覚えていたら俺を見た瞬間に相当テンパっていたはずだ。
それなら……正直、言い方は悪いが、そっちの方が都合がいい。
ひよりさえ覚えていないのなら、事故として俺の胸に仕舞っておくだけだ。
「えと……それじゃ、そろそろお暇しようかな? こんな時間だし」
「あ、うん……そろそろパパも帰ってくるだろうし、玄関まで見送るよ」
そうか、ひよりパパも帰ってくるのか……いますぐ帰ろう。
鞄を持って急いで玄関に向かう俺。あとを追うようにひよりも付いてきた。
「それじゃ、ひより。お大事に」
「うん。文くん。今日はありがとうね」
玄関の扉を開きながら外へと出る。
ふと、一瞬振り返ると、自身の唇を触れながら頬を赤くされているひよりが俺を見つめていた気がした。
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