精子回収マシン

木沢 真流

プロローグ

 ホテルの一室。女子高校生の制服を着た一人の少女は青年と対峙していた。少女がワイシャツのボタンを外すと、豊満な胸とブラジャーが姿を現した。少女が青年に近づき、その手を取ると、胸を触らせた。


 青年は無表情のままぴくりともしないのを見て、少女はブラジャーのホックを外した。豊満な乳房が、弾力をもってぶらん、とあらわになった。それを改めて青年の手で触らせる。先ほどより、柔らかい感触が伝わったはずであった。

 少女が青年に口付けをし、そのままゆっくりとベッドに押し倒した。青年はされるがままに仰向けになり、少女が被さる形になった。


「ねえ、お願い——抱いて。あなたの……」


 青年はじっと少女の目を見つめていた。


「あなたの精子が欲しいの」


 ワイシャツを脱ぎ、裸をなすりつけてくる少女の目を、青年はじっと見つめた。少女が青年のTシャツを脱がせ、上半身をさらけさせた。そして青年の乳首をなめようとするときだった。


「俺は、しないよ。君とは」


 少女の舌が、固まった。少女は青年に跨り、上半身を起こした。小顔でぱっちりとした瞳にその斜め下にある小さなほくろ。今話題のアイドルグループの誰かにそっくりだった。


「なんでしてくれないの。このままだと私——」


 少女は青年の首に両手をかけた。青年の首がぎゅっとしまった。


「あなたを殺さないといけない」


 言い終わる前に、見た目のきゃしゃな体からは想像もつかないほどの力が青年の首に入り始めた。突然首を絞められた青年は、顔面が紅潮し始めた。苦しみで顔が歪み始めた。


 少女は今までもこのような経験はあった。大体の者が、わかった助けてくれ、とか、無我夢中で暴れ回っていた。だが目の前の青年は違った。まるでそれを望むかのようにただじっと、少女に首を絞められるのを許していた。


「あなた……このままだと死ぬよ。いいの?」


 淡々を述べたその言葉に、青年はやっとのことで声を漏らそうとしていた。口がぱくぱくしていたが、聞き取れず、少女は少しだけ力を緩めた。


「何? 言ってごらん」


 青年の言葉がやっと少し聞き取れた。


「——それで、君が救われるなら」


 少女の動きが一瞬止まった。しかし止まったのは一瞬だけで、再び青年の首には、そのまま折れてしまうのではと思われるほど力が入り始めた。


 ちょうどホテルの周りには、数人の警察官が集まり始め、被疑者確保のための布陣を取っているところだった。すでに複数人を殺害していることから、場合によっては発砲もやむなし、との許可は取得済みだった。


 

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