【8】 放送後対談 ~大学事務室にて~
【牧口】 林先⽣、放送、お疲れさまでした!
【林】 お疲れさまでした、牧⼝先⽣!
【牧口】 いやあ、放送での対談って、緊張しますねぇ。私にとっては、⼈⽣初の経験でしたもので。
【林】 そうでしたか。僕は妻の番組に、何度となく出演させてもらっていますので、もう慣れたものですけどね。
【牧口】 そうですよね。しかし、今回のお話は、ひょっとしたら、双極性障害の⼈たちの「悲観論」で終わってしまうのかと思いましたが、最後に林先⽣の、当時の「希望の光」を感じることができて、本当に良かったです。
【林】 そうですねぇ。でも、もし僕が、当時、常識的な⼈間のままでいたならば、ただ絶望するしかなかったでしょうね。
双極性障害の⼈たちにとって、就労という世界は、四⾯、壁に囲まれている現状ですからね。どこに向かったって、壁に阻(はば)まれてしまうんですよ。
【牧口】 なるほど。だから、結構な割合で、「最低限度の⽣活」に⽢んじてしまう「ピア」がいるんですね。
【林】 そうなんです。常識的に⽣きていたら、僕ら双極性障害の⼈たちは、それこそ「⽣活保護」でも受けて、⽣活するしか道がないんです。
でも、放送中にはお話ししなかったことなんですが、僕の場合は、その道にさえも壁が⽴ちはだかったんですよ。
【牧口】 え? どういうことですか? 「健康で⽂化的な最低限度の⽣活」というのは、憲法で保障されていて、国⺠誰でも、受けることができるはずでは?
【林】 ところが、何事にも例外というものはありましてね。僕の場合は、「障害年⾦」の受給額が、とある事情で、周りの⼈よりは多かったんです。それで、その額が、「⽣活保護」の⽀給額に、もう少しで届いてしまうため、「⽣活保護」の申請⾃体ができないのです。
(復刻版 著者注:令和7年1月1日現在では、このような事実はないようである。)
【牧口】 え? それはおかしくないですか? 少しでも⾜りていなければ、国の定める「最低限度の⽣活」に届いていないわけなんですから。
【林】 そこが世の中のいやらしいところなんです。何かと理由をつけて、ケチろうとする。それがたとえ憲法違反だとしてもね。その⽳を潜り抜けてくるんです。
【牧口】 なるほど。そうしますと、林先⽣の場合は、「最低限度の⽣活」すら保障されていなかった。だから、働くしかなかったわけなんですね。
でも、双極性障害の⾝で、常識的に働くことは難しいんですよね。まさに「⼋⽅ふさがり」だったわけじゃないですか!
【林】 そうなんです。ですから、⼀時はただ絶望でしかありませんでしたね。同時に、常識的な世の中というもののひどさに、恨みの念すら持ちかけました。
でも、僕には当時、おぼろげながらも、「⼤いなるもの」の⼒に対する目覚めがあった。
【牧口】 そうでしたね。実際にその奇跡を、いろいろ体験してきておられたんでしたね。そこに気づけて本当によかったですね。
【林】 そうですねぇ。それがなければ、今ごろ命を絶っていたかもしれません。
【牧口】 なるほど。でも、その後は⾒事、作家デビューもされましたし、また様々な活動もされています。それで、チラッとお聞きしたのですが、また新たなことを始められたそうですね?
【林】 はい。実は、これまでの活動は、どちらかというと、「ピア」のための活動が中⼼で、健常者といっしょに何かをやるということが、あまりなかったのですが、健常者の中で、意識の⾼い⼈たちに混じって、何かを学びたいと思うようになったんです。それで、始めたのが、「話し⽅教室」へ通うことです。
【牧口】 「話し⽅教室」ですか!
しかし、林先⽣のように、講演活動等を重ねて来られた⽅が、いまさらその必要はおありなのですか?
【林】 技術的な意味で⾔えば、確かに必要のないものなのかもしれません。しかし、先ほど申しましたように、健常者の中に混じって何かをしたいということと、あと常に「学び成⻑する」姿勢を失いたくはないというのがあるんです。
【牧口】 なるほど。そのような視点で考えますと、確かに林先⽣にとっては、⼤きくプラスになるかもしれませんね。
【林】 はい。特に、「学びと成⻑」というものは、⼀⽣続けていかなければならないものと考えています。放送中にも申しました、「⼈間⼒」というものと⼤きく関わっているからです。
僕のこれまでの道のりは、それなしにはあり得ませんでした。「⼈間⼒」こそが、縁ある⼈を引き寄せ、彼らとともに成功への道へ歩む鍵となるのです。
【牧口】 なるほど。そこに、さらに林先⽣の場合は、「⼤いなるもの」への感謝・敬意の気持ちが、バックボーンにはあるんですよね。
【林】 そうですね。それを世間では、神と呼ぶのか、宇宙と呼ぶのか、わかりませんが、世の中で突出して成功している⽅々は、そういったものの存在を信じていることが多いんです。⾃分の⼒でできることなど、ほとんどないという、謙虚な気持ちを持っているんですね。
【牧口】 なるほど。私もその⼒にあやかってみたい気になってきましたね。林先⽣のせいですよ(笑)。
でも、どうやったら、林先⽣みたいに、そういう風に信じることが、できるようになるんでしょう?
【林】 実は、「⼤いなるもの」による奇跡というものは、誰にも平等に起こっているものなのですよ。常識的な⼈は、それを「たまたまだ」、と切り捨ててしまうから、その恩恵に気づかないだけでして。
本当は「こころ」の奥底では、その存在をわかっているのだけど、常識が邪魔をして認めたくない。
【牧口】 なるほど。私もそういわれてみれば、結構思い当たることがあるような気がします。
ということは、まずすべきことは、常識的にものを考えるのを、やめることですか?
【林】 それがすぐにできればいいんですけどね。常識的な思想は、この世に⽣きている限り、強制的に刷(す)り込まれ続けますからね。でも、僕は、それを防ぐために、ある程度は⼯夫をしています。
【牧口】 なるほど。その⼯夫って、例えばどんなものですか?
【林】 例えば、僕はテレビはほとんど⾒ません。テレビってただで⾒れるというありがたいものである反⾯、そこには世の中からの「思想の洗脳の嵐」が放送されるわけです。
テレビにふけるということは、自らその「洗脳の嵐」を浴びに⾏く⾏為ですので、⾃爆にほかならないのです。
もっとも、中には本当にいい番組もありますので、ちゃんと選んで⾒れる⽅は⼤丈夫かと思います。
【牧口】 なるほど。ただほど怖いものはない、といいますが、テレビが実はその典型なのですね。私も今後は気を付けて、番組を選ぶようにします。
ほかに⼯夫されていることはありますか?
【林】 さっきのテレビの例は、常識を無差別に受け取らないようにする、受け⾝的な対策になりまして、ほかにはラジオを聴かない、新聞・雑誌を読まないなど、常識的な⼈なら誰もがやっていることを、僕はほとんどやっていないんですよ。
【牧口】 え! ラジオも新聞も雑誌も! よくそれで⽣活できますね。
【林】 意外と全く問題ありませんよ。といいますのも、これだけ防いでいても、嫌でも世の中の情報は、どこからか⼊ってくるんですよ。
まぁ、僕はそれを、「⼤いなるもの」が選んで伝えてきてくれた「最低限の情報」だと思って、受け⼊れることが多いんですけどね。それらの情報だけで、⼗分⽣活はできますよ。
【牧口】 なるほど。常識的な⼈とは全く違う、情報の取り⽅をしておられるんですね。
積極的に常識を崩す⽅⾯では、どんなことをされていますか?
【林】 僕が昔からやっていて、⼀番⼿軽な⽅法は、そういうジャンルの本を読むことです。最近は、⾳声教材でもそういうものは充実していまして、ポッドキャストやオーディオブックも積極的に利⽤しています。
【牧口】 なるほど。そのジャンルとしては、具体的にはどういうものを、読んだり聴いたりして来られたんですか?
【林】 主に⾃⼰啓発や心理学、宗教の⽅⾯になりますね。常識的な⼈たちが、⼀番嫌がるジャンルです。
【牧口】 確かに。普通に考えたら、⼀番胡散(うさん)臭いジャンルですもんね。
【林】 そうですね。でも、そういう⼀番常識から外れているものにこそ、⼈⽣の裏側をすり抜けていくための、重要なカギが秘められているんです。
もっとも、すべてのそういったものがよいものだというわけではありません。またどの作品にもよし悪しがありますので、数を読んで、そのエッセンスと申しますか、「⻩⾦の糸」のようなものを、⼿繰(たぐ)り寄せるのがいいと思いますね。
【牧口】 なるほど。林先⽣が、最初にそういったジャンルのものに、興味を持たれたのは、どういうきっかけなんですか?
【林】 実は僕は、⼤学に⼊るまでは、本というものが⼤嫌いでしてね。今では考えられませんが、要は単に、学校で読まされる教材に全く興味がわかなかっただけでしょうね。
で、僕は、⼤学に⼊って、「うつ病」を発症するしばらく前に、父方の祖⺟からある宗教書をプレゼントされましてね。当時は、宗教とはどんなものかも、わからない状態でしたが、読んでみたらドはまりしましてね。それがきっかけです。
【牧口】 なるほど。しかし、その発症前という絶妙のタイミングで、おばあ様から宗教書をいただいたということは、おばあ様は、「⼤いなるもの」から遣わされた、天使のような⽅だったのかもしれませんね。
【林】 ほんとにそうだと思います。それがなければ、今ごろ僕は、野垂れ死にしていますでしょうからね。当時はそんな⼤きな出来事だとは思っていなかったのですが、今となっては感謝のひとことに尽きます。
【牧口】 そうですよね。その後は、どんな本を読んでこられたのですか?
【林】 最初は、その宗教家の本を、ほとんど全部買い集めて読んでいましたね。僕は、いまだにそういう傾向がありまして、ひとりの作者を好きになると、全部揃(そろ)えたくなってしまうんです。
で、その宗教家の本のあとは、ある意味そこで学んだことがベースになって、似た系統の教えの⾃⼰啓発書を、読むことが多かったように思います。
【牧口】 なるほど。しかし、それだと、今度は、思想がそれだけに固定されてしまって、融通がきかなくなる恐れがありませんか?
【林】 そうです。僕は、まさにその状態になって、⾝動きが取れなくなることがよくあったんです。ですので、読む著者は、ある程度したら変えるようにしていました。
そんな中、⾃⼰啓発業界の異端児とも⾔えるある作家の著書との出会いは、僕の常識を、今まで以上に⼤きく崩すものでした。
【牧口】 ほう。それは具体的には、どんな思想だったのですか?
【林】 数例だけ挙げますと、
「今までの逆をやれ!」
「お⾦は出せば出すほど増えるんだ!」
「頑張るからうまくいかないんだ!」
といった内容でして、当時の僕にとっては本当に衝撃でした。
そこから、僕は常に常識を疑い、常識外の発想をする癖がついてきたんですね。ちょうどこのころに、居酒屋の就職が突如、決まりましたので、彼の思想の影響が、現実においても出てきた形でした。
【牧口】 なるほど。もちろん、それは、林先⽣の思想に、しっかりとした下地ができていたからこそ起こった「化学反応」なのでしょうね。
そして、例えば、「がんばること」と「がんばらないこと」で⾔えば、「がんばらないこと」だけが⼤事というわけでもなく、選択肢が2つできることにこそ、意味があるのではないですか?
【林】 おっしゃる通りだと思います。しかし、僕は当時は、そうは思っていなくて、とにかく「頑張らない」ようにすれば何でもうまくいくんだ、と信じてしまったんです。でも、実際はその両⽅を使い分ける必要がある。それに気づいたのは、だいぶのちのことでした。
でも、「頑張らない」努⼒をし続けてみたこと⾃体は、⼤いに意味があったとは思います。
【牧口】 そうですよね。結果として、⼈⽣に、「真逆の選択肢」が増えたわけですものね。そのことによって、きっと「⼤いなるもの」の⼒も、引き寄せやすくなったのではありませんか? 柔軟な思考や⾏動ができるようになったことで。
【林】 そうですね。その作家の著書のおかげで、⼈⽣が2倍になり、⼀気に開けたような感じです。そういう意味では、彼も「⼤いなるもの」が遣わした、天使のひとりなのかもしれませんね。
【牧口】 なるほど。その後も、その作家さんの著書をお読みになっているのですか?
【林】 はい。最近は本よりも、ポッドキャストやオーディオブックで、彼の思想に触れることが多いですね。特に、極度に疲れ切ったときなどは、「頑張らなくていい」と声で⾔ってもらえた⽅が安⼼しますからね。ゴロっと横になって、彼の思想に癒されている感じです。
【牧口】 なるほど。いずれにしても、本を読んだりして、非常識の世界を突き詰めていかれるのも、林先⽣にとっては、「学びと成⻑」の⼀環なんですね。
【林】 そうですねぇ。読書をはじめとする、「⼈⽣の真理」の追究は、⼀⽣やめることはないでしょうねぇ。僕の「命の⼿綱(たづな)」とも⾔えるものですからね。
【牧口】 そうですか。それを糧(かて)にして、今後、ますますのご活躍をされることを、願っていますよ。
【林】 ありがとうございます。牧⼝先⽣も、ぜひ「非常識発想」を取り⼊れなさって、より豊かなご⼈⽣を歩んでくださいね。
【牧口】 ありがとうございます。
さて、もうこんな時間ですね。放送後も思わず盛り上がってしまいました。これからどうします? ⼀杯やりますか?
【林】 いえ。お気持ちはうれしいのですが、僕はどうも酒というやつが苦⼿でして。
【牧口】 そうですか。それでしたら、久しぶりにあのカフェ「エスペランサ (Esperanza)」に⾏きませんか? 懐かしの「センチMENTALミーティング」の話を肴(さかな)にして、コーヒーでもいただきませんか?
【林】 それはいいですねぇ! ぜひ、そうしましょ う!
【牧口】 決まりですね! では、参りましょうか。
【林】 はい!
(林と牧⼝は、⼤学事務室を後にし、カフェへと向かう。
復刻版11「センチMENTALカレッジ2!」~林音生×牧口和寿 放送対談~ 林音生(はやしねお) @Neoyan0624
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