【6】 双極性障害を患う林音生にとっての希望

【牧口】 しかし、これまでのお話をうかがっていますと、双極性障害をひどく患っておられる林先⽣には、まるで将来に何も希望がなかったかのように感じますね。

 現状の社会の仕組みに、全く太⼑打ち(たちうち)ができずに、ただ砂を噛(か)んで眺(なが)めているだけになってしまっていたと申しますか。


【林】そうですねぇ、確かに正攻法で⾏くのであれば、もはやつけ⼊るすきもなく、将来に対してはただ絶望しかありませんでした。

 しかし、僕は当時、決して⼈⽣を諦(あきら)めてはいませんでした。かすかな望みは持っていましたね。


【牧口】 ほう。あの状況で、いったいどのような望みをお持ちだったんですか?


【林】 正攻法がダメなら、「常識外のルート」で攻めていけばいいのです。

 思えば、僕の病気が「うつ病」から「双極性障害」 に転じ、最後の⼊院から退院してからというものは、その「常識外の奇跡」に満ちた⼈⽣だったと思います。

 信じられない⼈も多いかと思いますが、僕は、究極のピンチに陥(おちい)ったときには、必ず、何か⾒えない「⼤いなるもの」によって、救いの⼿が差し伸べられ続けてきたんです。


【牧口】 なるほど。その奇跡というのは、具体的にはどんなものだったんですか?


【林】 その多くは、⾦銭的なピンチの時でして。例えば、タバコやカフェのコーヒー代をはじめとする、物価が上がってしまい、やりくりが破綻(はたん)する直前に、「障害年⾦」の等級が上がって、絶妙なタイミングで救われたことがありました。

 また別の理由で、どうしてもまとまったお⾦が必要になったときに、居酒屋への就職が突然決まったんです。居酒屋への就職に関しましては、「就労移⾏⽀援事業所」での訓練等を⼀切経ずに、「障がい者雇⽤」での就労が、大⾶躍(ひやく)で決まりましたので、まさに奇跡以外の何物でもないと、僕は思っています。


【牧口】 なるほど。ほかにはありますか?


【林】 「A型事業所」で勤務するようになってからも、何度かそういうことは起きています。クビになりかけても、スタッフさんの救いの⼿が差し伸べられたこともそうです。

 それから、実はその後、週3での出勤すら怪しくなってきた際に、突然、出勤が⼀時的に半⽇に縮められることになったんです。半⽇出勤ですが、給料は1⽇分保証されましてね。

 おかげで、僕はそこからそれをきっかけに完全に⽴ち直り、通常の勤務に戻ってからも、前よりはかなり⾼い出勤率で、勤務ができるようになったんです。


【牧口】 なるほど。いろいろ苦難には遭われるものの、林先⽣はなんだかんだいって、その「⼤いなるもの」からの救いで、何とかなってきたと。


【林】 そうですね。ほかにも、「A型事業所」在籍時に、「ハヤシ・センチMENTALカレッジ」の海野菜穂⼦(なほこ)先⽣が、放送対談の企画を打診してくださったことも、その⼀つだと思っています。

 ちょうど僕は、希望を⾒失って、⼤きな「うつ状態」に陥(おちい)っていたところだったんですが、そこにこの⼀報が⼊ったときには、どれだけ歓喜したことか!

 こんなことは、「ピア活動」 を6年に渡って続けてきて、初めてのことだったのですからね。その歓喜の気持ちは、きっと普通の⼈には、想像を絶するものなんだと思いますね。


【牧口】 なるほど。そうしますと、林先⽣は、それまでに起こったことと同様の奇跡が、その後も起こり続けるものと、お考えだったんですね?


【林】 その通りです。僕は、確かに常識的なルートでは、残念ながら敗者でした。そちらに適応する能⼒には、恵まれていなかったのでしょう。でも、その代わりとして、その「⼤いなるもの」は、僕に奇跡を引き起こす⼒を与えてくださったんじゃないかと、考えるようになったんです。


【牧口】 なるほど。それは確かに、常識的で⼀般的な方には、信じがたいことでしょうね。私も正直、にわかには信じがたいです。


【林】 そうでしょうね。でも、ひとが信じようが信じまいが、そんなことは関係ありません。僕にとっては事実なのですから。

 もちろん、⾃分でも努⼒はするんですが、その「⼤いなるもの」の⼒の波に乗った努⼒のしかたでないと、これからはうまくいかないと思ったんです。


【牧口】 なるほど。では、林先⽣は、具体的には、どういうことをしていかれたのですか?


【林】 そうですねぇ。これも普通の⼈には、考えもつかないやり⽅だと思うのですが、「⼈間性」あるいは「⼈間⼒」というものを⾼めていく努⼒をしていくということでしたね。

 これまでの⼈⽣を振り返ると、僕のこの「⼈間性」あるいは「⼈間⼒」というものが、かなりモノを⾔っていて、それがご縁ある⼈を引き寄せ、ひいては「⼤いなるもの」の⼒を引き寄せてきていたように、思えたんです。

 そのうえで、今、⼀番、⾃分の中で熱くなっていることに夢中で取り組む。お⾦儲けとか、そんなことを⼀切無視してですね。


【牧口】 なるほど。そういう無私のひたむきさが、幸運やその「⼤いなるもの」を引き寄せることにもなるのかもしれませんね。

 そして、その後、林先⽣は、実際に作家・啓発活動家としての確固たる道を、おつかみになられましたよね。


【林】 そうですね。⾃分と「⼤いなるもの」を信じて頑張ってきて、本当に良かったと思います。そして、僕はこれからも、あくまで僕らしく、⽻ばたいていこうと思っています。

 どんなふうにこの先の⼈⽣が展開するかは全くわかりませんが、そんなことを考えることもできないくらい、何事も夢中になって、幸運を味⽅につけつつ、僕オリジナルの雄⼤な⼈⽣地図を描いていきたいですね。


【牧口】 はい。私も応援していますよ。また、どこまでも先⽣にお供いたしますよ。



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