第9話 友達がダメ人間だったおじさん
「えぇ……君さぁ、なんでここにいるのよ?」
「来ちゃった☆ テヘペロ♪」
「叔父さん……はぁ」
40のおっさんのテヘペロとか、マジで殺意しかわかないんだが。
目の前でキラッと歯を光らせてニヤニヤしている赤木くんに妙にイラッとして、さっきまでの俺の葛藤とか悩みがどうでもよくなってくる。
美怜ちゃんも小さくため息をついて首を振り、ロビーの蛍光灯が彼女の冷めた顔を白く照らす。
朝っぱらから寝不足でフラフラしてる俺には、赤木くんのこのテンションはキツいっす……。
その赤木くんはドヤ顔を崩さず、受付カウンターからノシノシ歩いてくる。
俺より背高いくせに上目遣いでアヒル口をしてくるのが、控え目に言って気持ちが悪い。
ジャージの「AKAGI」刺繍が朝日に反射して、妙に目立ってるのが余計に苛立ちが募る。
「君、その顔やめろよ。マジでムカつくから」
「叔父さん、自分の顔鏡で見たことある? マジでキモいんだけど」
「えぇ、ちょ、ひっでぇ言われようだな!?」
美怜ちゃんがゴミでも見るような目で赤木くんを見上げる。
さっきまで「まーくんさんなら大丈夫ですよ!」って応援してくれてた優しい笑顔はどこいった。
赤木くんに冷凍マグロみたいな視線を向けてて、ちょっと赤木くんがビクッとしてる。
「なんだよ美怜。叔父さんに対して冷たくない? 泣くよ俺? 可愛い姪っ子にいじめられて本気で泣くよ?」
「はぁ……死んでくれないかな」
美怜ちゃんの優しかった顔がスンッと能面みたいになり、空気が一瞬にして凍る。
ロビーの待合ベンチでスマホをいじってた革ジャンの若者が「うわ、怖……」って呟いてるのが聞こえてくる。
俺もそっと一歩下がっちゃうくらいの空気だ。
「で、赤木くん、なんでここにいるのよ? 冷やかし?」
「ちげぇよ、まっさんが心配だから来たんだよ!」
「あぁ、そうなんだ。ありがとね。大丈夫だから帰っていいよ?」
「こっちも冷たっ! なんだよ、まっさんのことだから一人じゃビビってるだろって来てやったのにさぁ」
「えぇ、だってさぁ……」
なんだろう。
来てくれたのは、まぁ嬉しいっちゃ嬉しい。
ギルドまで来て、まだ悩んでいる俺には心強……い、のは確かだ。
でもさぁ、なんか素直に喜べないというか。
学生の頃、こんなノリで赤木くんに散々迷惑をかけられた思い出がチラついて、イラっとしてくる。
「叔父さん、昨日の電話じゃ来るなんて言ってなかったじゃん」
「そうだよ。昨日なんて『頑張れよ、俺は行けねぇけど』みたいな感じで終わったよね?」
「うん? だってさ、まっさん昔から優柔不断だし。土壇場で絶対ウジウジ悩むだろうから、背中押してやろうと思って。あれだよ、サプラーイズ! ってやつ」
赤木くんが大口開けて笑い、仁王立ちで胸を張りドヤ顔してくる。
ジャージの袖がバサッと揺れて、ロビーの事務的な空気には浮きすぎている。
近くに座っているスーツのおっさんが、書類から顔上げて「何だこいつ……」って顔してるのが見える。
「それよりも、まっさん。顔青いぞ。やっぱビビってんだろ?」
「えぇ、ビビってって……」
ビビってるかって言えば、ビビってるに決まってる。
怪我するかも、死ぬかも。
りっちゃんと綾ちゃんを悲しませるかも。
失敗して「40のおっさんが何やってんだ」って笑われるかも。
そんな考えがずっと頭の片隅に常にいる。
赤木くんや美怜ちゃん、りっちゃんに背中押されてギルドまで来たのに、未だに頭の中がモヤモヤだ。
「まったく、水臭いじゃないか。誘えよ」
「え?」
「だから、俺を誘いなさいよ。 前みたいに」
「赤木くん……」
誘えって……誘えるわけないだろ、今更俺からなんて。
昔、ファミレスで「やっぱ無理かも」って言った時、赤木くんの寂しそうな笑顔が忘れられなくて。
俺のわがままで夢諦めさせて、今更付き合わせるなんて悪いだろ……。
「昨日も誘ってくれるかなって待ってたのにさぁ、言わないんだもん君。横断歩道のとこなんて絶好の誘いポイントだっただろうが!」
「ほんと、考えすぎなんだよ」とか言いながら、赤木くんが待合ソファの俺の隣にドカッと座ってくる。
「どうせ君のことだから、『俺から反故にしたのに今更どの口が…』とか、『俺のわがままに付き合わせるのも…』とか思ってんだろ?」
「うっ、なんで分かるのよ」
赤木くんが顔の前で手を組んで、ゴツい体をクネクネさせながら一部高い声で言う。
横で美怜ちゃんが「キモ……」って呟いてるのが聞こえる。
「え、それ俺のマネ? 俺そんな感じなの?」
「そうだよ! いつまでもクヨクヨ悩みやがって、女みたいに面倒くせぇ奴だな!」
「あ、叔父さんそれ差別だよ」
赤木くんと美怜ちゃんが「ちょ、言葉の綾だよ!」「女性蔑視とかないわー」とか言いながら騒ぎ出す。
ロビーの人たちがチラチラこっち見てきて、少し恥ずかしい。
「赤木くん、君、本気?」
「ん? 何が?」
「君も……探索者になるってことでいいの?」
「ああ、しょうがないから俺もやるよ。一人じゃ不安だろ? それに、親友の君を一人で危険な所に行かせるわけ無いだろ? 親友なんだから」
赤木くんがニヤッと笑って、「まぁ、昔みたいに一緒にやってもいいかなってさ」とか呟いてる。
美怜ちゃんがカウンターから書類を持ってきて、「叔父さんもやるならこれ」と紙を渡す。
そうだ、こういう奴なんだ、赤木くんは。
昔だって、俺が何か始めようとすると、適当なノリで「まぁ俺もやるか」って付いてきてくれたっけ。
なんだかんだその適当さに迷惑もかけられてきたけど、それ以上に友達想いの彼に助けられてきたんだ。
「まっさん、俺はね、君の隣に立てるのは俺だけだと思ってる」
「え……?」
「君は誰かが支えてやらないと直ぐに折れちゃうからな。プライベートでは莉子ちゃんが、仕事では俺が、これから君をサポートするよ」
「うん……」
「大体、親友が困ってるのに助けないわけないだろ?」
「……」
「叔父さん……」
赤木くんは目をキラキラさせながら、普段なら言いそうにない歯の浮くようなセリフをツラツラと述べる。
……なんだろう。
言ってることは友達想いの熱いセリフなんだけど、なーんか引っかかる。
微妙に赤木くんの口元が、喋る度にヒクヒクしてるのも気になる。
「まっさんと俺ならトップ探索者になれるよ! きっとたくさん稼げるし、有名になれる!」
「そう……」
「勿論ね、探索者ってのは色々と危険がつきまとう。でもそれも、二人なら乗り越えられる、そう思わないか?」
「へぇ……」
「俺は昨日君から探索者の話題が出た時、運命だと思ったんだ。実はちょうど俺も探索者になろうと思ってたんだから」
「……へぇ、君も?」
「昨日はほら、ちょっと気恥ずかしくてね、言い出せなかったけど」
「……ほぉ」
赤木くんは次から次へと熱い思いをぶつけてくる。
まるで、俺を探索者に何が何でもしてやるという意思を感じる。
「……そうか、赤木くん。君の思いは分かったよ。君がこんな熱い男だとは思わなかった。でも、いつもは適当なのに、どうしたんだよ?」
「え? な、何いってんだよまっさん! 俺はいつでも本気さ!」
「ふーん、本気、ねぇ?」
おかしい。
目が泳いでる。
常人なら見逃してしまうほどの動揺だが、こいつと二十年以上付き合いのある俺なら分かる。
こいつ、なんか隠してんな。
ギルドまで来るのはまだわかる。
昨日のテンションで、まぁ応援に来るくらいならあり得る。
だが、こうも必死に俺を推し、尚且つ自分も探索者になろうとするのは不自然だ。
4年前の赤木くんなら盛り上がっていたからまだわかるが、今の40になった赤木くんは探索者なんて無茶はしないはずだ。
俺から誘えばまだやるかもだけど、上を目指すとか稼ぐなんて言葉が出るはずない。
適度にそこそこのポジションで、それなりに稼げればいいって、世の中舐めたスタンスなのがこいつなのだから。
「まっさん、言ってくれよ。あの時みたいに。俺を誘ってくれよ。君の口から聞きたいんだ!」
「……赤木くん」
あの時みたいに、ねぇ?
ファミレスで二人でダンジョン攻略のノート広げて、子供みたいに「ゴブリンどうやって倒す?」ってはしゃいだあの時みたいにか。
「わかった。赤木くん、じゃあ探索者になろうか」
「もちろんだ、まっさん! 君となら面白そうだしな!」
赤木くんが、5年前と同じニヤッとした顔でそう言った。
小声で「これで……」とか言ってるのが聞こえた。
「美怜ちゃん?」
「ん? 何、まーくんさん?」
俺の前に座って、終始能面なような顔で赤木くんをじーっと見つめていた美玲ちゃんに聞いてみる。
「赤木くん、なんか変じゃない?」
「……うん、まぁね」
美怜ちゃんが引き続き冷凍マグロな視線を赤木くんにぶつけながら、どすの利いた低音ボイスで赤木くんに問う
「もういい? 叔父さん」
「な、何がだよ、美怜!」
「美怜ちゃん?」
赤木くんはビクッとしてさらに目が泳いでる。
こいつ、やっぱりなんか隠してたな。
「心にもないこと言ってないで本当のこと言ったら?」
「え?」
「何を言ってるんだ美怜! 俺は探索者になるぞ! まっさんと一緒に!」
「うん、そこは本当のことだと思うよ。一緒にやるのはいいと思う」
「え、うん、そうだろ?」
美怜ちゃんが顔をゆっくり傾げつつ、赤木くんを見つめる。
俺が見られているわけじゃないのに、なんだこの寒気は……。
赤木くんはプルプルと小刻みに震えだし、ポケットから赤いハンカチ引っ張り出して、額の汗をゴシゴシ拭いてる。
大丈夫かこいつ。
「それ以外は?」
「え?」
「昨日、叔父さんからLINEもらったあとにさ、電話もしたでしょ?」
「お、おぅ、したな」
「で、必要以上にやたら聞いてきたよね? 魔石の値段とか、どこのダンジョンが稼げるかとか。お金のことばっか」
「ま、まっさんの為だしな、現場で働くお前の意見をちゃんと聞かなきゃだし。ど、どれくらい稼げるかは大事だろっ?」
「それに、ダンジョン配信のことも聞いてきたよね? 収益はどうなってんの、とか。こっちもお金のこと」
「も、もしかしたらまっさんがこの先配信するかもだろ? 予め聞いておいたほうがいいかなって」
「ふーん」
美怜ちゃんが取り調べする刑事みたいに赤木くんに詰め寄っていく。
赤木くんは段々としどろもどろになりながら、汗でビチョビチョの赤いハンカチで何度も額の汗を拭っている。
ちなみに、俺は配信なんかしないし、したくもない。
顔出しとかしてなんかあった時に周りに迷惑かけそうだし。
「ねぇ、叔父さん? 友達が大変な時に、聞くことがお金のことだけって。それ、おかしくない?」
「うぇっ?! いやいやいや、おかしくないだろ? まっさんは稼がないと……」
「それさっき聞いた。で、私昨日、パパに聞いたんだけど」
「なっ!? アニキにっ!?」
美怜ちゃんのパパって赤木くんの兄貴か。
赤木くんの歳の離れたお兄さんが、美怜ちゃんのお父さんだ。
俺も知ってる人だけど、真面目で優しい印象の人だ。
赤木くんは昔からお兄さんに頭が上がらないみたいで、あまり話題には出したくないみたいだけど。
「叔父さん、うちのパパに借金あるよね?」
「……ぐっ」
「今月中にまとまったお金返さないと、アパート追い出すって話らしいじゃん」
「……ぐぐぐ」
赤木くんが今まで見たこともないくらいの酷い顔をしている。
苦虫を噛み潰したような顔をして、ぎりぎりと歯を食いしばってる。
赤いジャージの脇の所が汗が染みて、小豆色になってってる。
「美怜ちゃん、どういうこと?」
「うん、まーくんさん。この人、パパのマンションを格安で借りてるんですよ」
「あぁ、前に聞いたことあるよ。駅前のデカいやつだよね?」
「そう。そこに親戚価格だぁ、とか何とか言いって潜り込んでるんですよ」
「も、潜り込んでるなんて人聞きの悪いこと言うなよ! ちゃんとアニキと話し合って決めたんだから」
「いや、それも勝手に家具とか私物運んでなし崩し的に、でしょ? パパあの時、凄くキレてたんだから」
「えぇ、赤木くん、君さぁ……」
「いや、あれはだなっ、」
赤木くんの汗が尋常じゃないくらい流れている。
「AKAGI」と刺繍された赤いジャージの襟の部分が、どんどん汗で染みていく。
「パパもね、なんだかんだ、歳の離れた弟の叔父さんがかわいいみたいだし、まぁ家賃払うならいいかって許したんですよ。家賃払うなら」
「え、まさか。君……払ってないの?」
「えっ、いや、払って……は、いたんだよ? ただちょっと、ね?」
「へへっ」って笑う赤木くんの顔が気持ち悪い。
「最初は払ってたけど、半年くらい前からですね」
「み、美怜、美怜さんっ! もういいだろ、この話はやめよ? ほら、まっさんがいるしさ。家族のことを、ね? 他人に聞かれるのはちょっと、ほら、ね? 分かるだろ?」
「叔父さん、今、無職だよね?」
「……!」
「え? 無職?」
「そうなんですよ。叔父さん、半年前に会社クビになって、ずっと働いてないんです」
「は?」
「……」
え、こいつ無職なの?
俺より前から?
それであんなドヤ顔してたの?
「それで、お金がないて言って、家賃も払わないし。生活費まで、パパに強請って」
「み、美玲さん、分かったから、もう分かったからやめて」
「強請ったお金、推し活で使ってたよね? ユーチューバーだっけ?」
「赤木くん、君さぁ……」
「違うんだよ、まっさん! 違うんだって……」
赤木くんは俯いて「クソ、アニキのやつ余計なこと言いやがって」とか「聞いてないぞこんなの」とか言いながら挙動不審になっている。
こいつ、俺が昨日相談した時は仕事忙しいとか言ってなかったか?
仕事紹介してあげたいんだけどー、とか偉そうに言ってた気もするし。
「それで、パパがいい加減本気でキレちゃって。今月中に滞納してた家賃と貸したお金を返さないと部屋から叩き出す! って」
「へぇ、なるほどねぇ」
「俺は悪くない……俺は悪くない……」
美玲ちゃん、もう赤木くんを見もしない。
「それで、赤木くん。借金ていくらなのよ? 家賃ってもそんなにでしょ? 推し活にどのくらい使ったの?」
「……言いたくない」
「はぁ? 言えよ。変な意地張るなよ」
「言ったらまっさん金くれるんか?」
「やるわけねぇだろ、バカか」
「じゃあ言いたくない」
「あ、めんどくせぇなこいつ」
「パパ以外からも借りてるの合わせると、大体一千万くらいですね」
「!? いっ、えぇ? そんなにっ!?」
「……うっ」
馬鹿だこいつ。
適当だ雑だと思ってたけど、まさかここまでだとは思わなかった。
衝撃過ぎて探索者がどうだとかどうでもよくなってきたわ。
「推しに注ぎ込んでたらみるみるうちに……らしいです。詳しくは知りませんし、知りたくもないですけど。叔父さん、昔から馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、本当に馬鹿なんだね。そんなんでよく人前に出れるよね。もう40になるのに恥ずかしくないの? 家族の為に頑張ってるまーくんさんとは大違い。あなたが私の叔父ってだけで吐き気がするくらいキモい」
「……」
美怜ちゃんが容赦なく赤木くんを責める。
赤木くんが物言わぬ置物になってしまった。
「ぐすっ……ひぐっ……」
あ、泣いちゃった。
ジャージの袖で涙を拭いてるけど、汗と涙と鼻水が溢れてきて……顔が汚いなぁ。
「あー、なんとなく分かった。それで探索者になって一発当てようとしたわけね、はいはい」
「ですね。それでタイミングよくまーくんさんも探索者に、て話をしたから。便乗したんでしょうね。おまけに恩着せがましくして」
「一人じゃ不安だから、てか。なんだよそれ。あほか」
「……ごめん、まっさん」
美怜ちゃんは小声で「ごめん……ごめん……」と謝るだけのおっさんになってしまった赤木くんを放って、いくつか書類を渡してきた。
「まーくんさんの分の書類も用意してあるんで、書いちゃって下さい」
「え、書類って……探索者試験の?」
「はい、きっと見学で終わらないと思ってましたし」
「はは、お見通しだね」
でもいいのか、急に受けられるもんなのか?
40のおっさんは無理です、とか言われない?
「今は探索者不足ですからね、昔と違って随時受け付けてるんですよ。飛び入り大歓迎です」
「へぇ、流石探索者ギルド。柔軟な対応だな」
赤木くんのおかげ? で緊張とか悩みとか飛んだ俺はサラサラと書類に必要事項を書いていく。
全て書き終わると美怜ちゃんが確認し、受験票をくれた。
「はい、あとはこちらでやっておくんで、大丈夫です。ほら、叔父さんも。いつまでも泣いてないでさっさと書いてくれない?」
「……はい」
赤木くんはさっきまでのドヤ顔はどこへやら、殊勝な態度で言われた通りにしている。
パッと見、落ち込んだゴリラみたいで可哀想になってくるな。
「じゃ、まーくんさん。探索者試験、頑張ってくださいね」
「うん、ありがとうね美怜ちゃん、応援してくれて。とりあえずやるだけやってみて、悩むのはそれからにするよ」
「はい、それがいいと思います。慎重なのもいいですけど、時には勢いでやっちゃうのも大事だと思いますし」
「はは、そうだね。……赤木くんのおかげで、さっきまで悩んでたのが馬鹿みたいに思えてさ」
「その一点だけは、叔父さんも役に立ちましたね」
「……ごめんてぇ、もう許してよぉ」
赤木くんはグスグスと鼻を鳴らしながら、書類を美怜ちゃんに渡す。
「叔父さんも、『適当に生きる〜』とか言ってないで探索者になってちゃんとお金返しなよ?」
「うん、頑張る」
「あと、絶対に、怪我とか死んだりとかしないでね」
「あ、美怜……なんだかんだ心配してくれるんだな。きついこと言ってくるけど、お前が叔父さん思いの良い子だって、俺、分かって――」
「怪我したり死んだりしたら、お金返せないじゃない」
「……」
美怜ちゃんの顔が面白いな。
俺と話すときと赤木くんと話すときでは、180度違う。
ほんわかした可愛らしい顔から一転、冷凍マグロだもんな。
そんで赤木くん、君はマジでちゃんとやれよ。
「もうすぐ時間ですね。試験会場はダンジョンゲートがあるギルドの中庭になるので、そこの通路から向かって下さい」
「そっか、間近でゲートを見れるのか……」
ギルドの建物は、外からでも頭が見えたあのでかい石門のゲートを囲う形で建てられている。
今もロビーの窓から見えるゲートは、ギルドの中庭にある大きな池の中に悠然と建ってる。
その周りにはもやもやと薄い霧がかかっていて、時折「鬼火」と見られる発光するナニカが漂い、不気味で神秘的な雰囲気を醸し出している。
「ほら、赤木くん、いつまでも泣いてないで見てみなよ。ゲートだよ」
「ぐすっ……ん? お、おぉ、でかいな……5年前を思い出すなぁ、まっさん」
「ふふ、これから嫌でも見れますよ。特に叔父さんは」
「! うん、そうだね」
「! ……ぐすっ」
「はい、じゃあ早く感動のご対面を果たしてきてください」
「じゃあありがとう、行ってくるよ。ほら、赤木くん何でまた泣いてんだよ、置いてくよ?」
「ぐすっ、待ってよまっさん」
ギルドの奥の方へ向かう俺の背中を、美怜ちゃんが「いってらっしゃい、また後でー」と見送ってくれる。
隣で赤木くんがグスグス鼻すすりながらついてくる。
「まっさん……俺、頑張るからさ……見捨てないでくれよ……」
「……うん、まぁ、死ぬ気で頑張れよ。でも借金返すまでは死んでも死ぬなよ」
「うぅ……まっさん……!」
泣きながら肩にしがみついてくる赤木くんに、呆れつつも軽く肩叩いてやる。
赤木くんのダメさのおかげで、さっきまでのビビりが吹っ飛んだのは確かだ。
「……ありがとね、赤木くん」
「……!」
とりあえず、試験やるだけやってみよう。
心強い仲間も隣にいるしね。
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