闇は闇へとだんだん暮れる

來宮 理恵

闇の中の闇

『短時間で高収入』『簡単な現地調査』『履歴書不要』

 

「大崎くんは、ここの調に行ってくれる?」


「はい、わかりました」


大学に入ってから覚えたのはギャンブルとキャバクラだけかもしれない。

田舎から出てきて、自分はもう都会の人間になったのだと大きくなっていた。

今までとは違う環境、友人。


全てが新鮮で楽しく思えた。

自分は違う人間になれたのだと、そう思っていた。


気がつけば、大学に行くことは減って、パチンコ店に朝から数人の友人と並ぶ。

勝てば、あの子のいるキャバクラに行って大盤振る舞いをして、負けてもまた、キャバクラに行って飲み倒した。


当たり前だが、親の仕送りなんてあっという間になくなる。


バイトしなきゃなと思い始めた時、キャバ嬢のあの子が教えてくれたんだ。


「今、稼げるバイトなんていくらでもあるよ!ほら、見て!」


とあるSNSを見せてきた。


『短時間で高収入』そんな文言のバイト募集ばかりが載っていた。


「これって、ヤバいやつじゃないの?」


「ぜーんぜん!みんなやってるよ〜!リナの友達なんかね、この間、二時間くらいで十万もらったって言ってたし!」


「へぇ、そうなんだ・・・」


完全な『闇バイト』だ。すぐに分かった。

さすがに、ヤバいよな。これは。

そう思ったのは一瞬だけだった。

リナが俺の太ももに手を置いて、肩に頭を寄せ、次はアフター行こうねと誘ってきたからだ。


俺は、いつも一緒にいる川口と滝本を誘って闇バイトの募集にメールを送った。


暫くして、山下と名乗るバイト先のからメールがきた。


近くのファミレスに午後二時に三人で来ること。そこにバイトの先輩がいるから、詳しい話は先輩に聞くようにと。


俺たちは、三人でファミレスに向かった。


平日、この時間のファミレスにはほとんど人がいない。

何組かの客がいる中、ポツンと一人、背中を入り口の方に向けて座る男。


「クボさんですか?」


声に反応して、ゆっくりと男が振り向く。


「はい、久保です。大崎くんですか?」


久保は黒縁のメガネをかけて、優しそうな顔立ちの男だった。


「えっ!久保?久保じゃん!俺のこと覚えてる?」


「やっぱり、大崎くんだったんだ。名前聞いて、もしかしたらそうかもって思ってたんだ。久しぶりだね。中学以来か」


久保は同じ中学に通っていた同級生だ。家は近所で仲も良かった。

二年生の夏に久保は家庭の事情で、別れの挨拶もないまま引っ越して行った。それ以来、今の今まで会うことはなかった。


真面目で地味な印象の久保がをしていることは意外だった。


そして、少し安心した。

久保でも出来るバイトなら、俺でも出来ると思ったからだ。


「親が離婚して、僕も色々大変だったんだよ」


それから、久保から大まかなを聞いた。


ここから三十キロほど離れた田舎町。

八十代の男が一人で暮らすには大きすぎる家が、そこにある。


あたりの山や畑は男のもので、資産もあるようだ。尋ねてくる親戚や友人はほとんどおらず、二週間に一度、決まった曜日、決まった時間に病院に行く。



留守中に侵入し、貴金属や現金を盗む。


俺もとうとう、ここまで落ちたのかと空を見上げた。

虚しくなるのを無視するように、ビールを飲み干す。


明日が決行日だ。

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