第2話 私に合った杖はどこ?

「エクラの魔力は、はっきり言って異質だ」


焚き火の薪をガラガラと地面に置くかのように

ベンディーさんは持ってきた大量の杖を地面に並べてそう言った。


「魔力の量が多すぎる。いや、多いことは分かって

 たんだが俺の想像を遥かに超えてる。

 さっき魔力の耐用量って言っただろ?あれは

 魔力を込めた時に杖の中の魔力量が一定の値を

 上回ると、杖が耐えられなくなって爆散しち

 まうんだ」


危なすぎる。というか、分かってたのならそんな

危ないもの握らせないで欲しかった。


「その耐用量は杖ごとに違っていてな。

 当然、人様に売るようなモノには厳格な

 規定がある。

 だが大抵の魔法使いは、この測定用の杖でも

 壊れないほどの魔力量なのが殆どだ。

 だが次は大丈夫だぞ!なんたってこの店にある

 耐用量が高い杖を片っ端からかき集めてきた!」


ベンディーさんの瞳にはどこか狂気が宿っていた。

持ってきた杖を見た感じ、店の壁に立て掛けてあった、豪華な装飾の施された杖も多く並んでいる。


「あ、あの。ベンディーさん

 この杖って商品なんじゃないですか……?」


「気にすんな!!俺はアンタが魔法を使う瞬間を

 見たい!!!」


もはや彼の瞳にはいたいけな少年のような、爛々とした憧憬しか宿っていなかった。魔法を扱う人としての矜持なのだろうか、ベンディーさんは魔力が

多いらしい私の魔法のことしか眼中になかった。


そうして早速新しい杖を手渡される。

装飾の入った、商品として売られている杖と一目で分かる。


私はたじたじしながらも先ほどと同じ姿勢で杖を構える。もうどうにでもなれと半ば投げやりだった。


そして



バッギャアアァアン!!!!



カランカラン……とむなしい音が辺りを包んだ。

装飾の入った高そうな杖は原型もなく木屑と化した。


「あの……」


気にすんなと言われた以上私は気にしない。

ジト目でベンディーさんの方を見やる。

ベンディーさんは怒るのだろうか。


「おおぉ…おお…!」


ベンディーさんは杖がぶっ飛んでも怒るどころか

むしろその瞳の光を更に輝かせていた。


「すげぇ……!!商品用の耐用量ですらも…!

 こんなすげぇ奴初めてだぜ。エクラの杖を

 作ったと広報できりゃウルの野郎に一泡

 吹かせられる……!」


何やら良くないことを考えてるらしい。商いをしてる人って大変なんだなとちょっと思った。


「……言っときますけど、私お金持ってない

 ですよ。弁償も出来ないです」


「金なんていらねぇ!!むしろエクラの杖を俺に

 見繕わせてくれ!」


そういってベンディーさんは次の杖を差し出してくる。

そう言われるとちょっと楽しくなってきた。

私もやっぱり、魔法使ってみたいし。







───バッギャアァアン!!!





……もうこの破裂音も何回目だろう。

彼が持ってきた、それこそ山のように積まれていた杖はその全てがただのゴミの山となっていた。


私はただの一回も、魔法を使えないでいた。


「ベンディーさん……あの……」


私はもう言葉も無かった。

さっきから興奮と期待が沸いては引いてを繰り返しすぎていて、感情で風邪を引きそうだ。


「いや、待て!!とっておきを持ってくる!」


彼が持ってきた杖を全て砕いた私に背を向けて

ベンディーさんはみたび、店の中に入っていった。


先ほどよりも心に余裕が出来た私は店の中の様子を

こっそり覗いてみる事にした。

音を出さないように古びた蝶番を動かすと

奥でベンディーさんがガサガサと、大量に束ねられた鍵を使って何かを取り出そうとしていた。

どうやらホントにとっておきを持ってくるつもりらしい。


私はドアを閉めて元の位置で待つ。

木の杖を持って、力を込めただけでそれを粉微塵に出来るのならそれは立派な魔法なんじゃないか

なんて、そんなくだらない事を考えていた。


「待たせたな!!」


勢いよくドアが開かれてベンディーさんが出てくる。その手には先ほどの装飾の施された杖よりも

更に美しい、もはや飾ってその美しさを眺めておきたいぐらいの杖がひとつ、抱えられていた。


「さぁ!これを使ってくれ!

 この店でいちばんの上玉だ!

 さっきの杖よりもずっと耐用量も高い!」


そういって私に杖を押し付けてくる。

確かに、さっきの杖とは何かが違う。持っただけで何かが伝わるのを感じる代物だった。


「……」


私は緊張した面持ちで杖を構える。

狙いは、目先に見える的だ。

空気がピリつくのを感じる。大丈夫。

よく狙って──────




私の杖から飛ばされたソレは見事マトのど真ん中に

命中した。




問題は飛んでいったソレが、砕け散って飛んでいった杖の先端だという事だ。


「……あの…ベンディーさん…。

 弁償……しますよ」


隣で灰になってしまったベンディーさんに

私はそう、語りかけた。

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