11.放課後の哄笑

「ってかはえぇよあいつら!」


 もう皆人の先には二人はいない。

 強は運動神経全振りの特化型なので分かるがそれに付いていくムックもただ者ではない。


 皆人が西校舎の最上階に着いた頃にはもう2人は息を整え終わっていた。

 皆人はまだ少し動けそうにもない、我ながら体力が無いと嫌になっている。


「遅かったな」

「お前と一緒にするな、あとムックも速すぎ……」


 強の悪態を躱し、無反応で次の菓子を食べているムックを見る。

 目の保養をしつつ、皆人は息を整え、強が耳を澄ませている扉の前に歩を進める。

 実際は耳を澄ます必要もなく、ローズの奇声はがっつり聞こえてくるのだが、ここは雰囲気だ。強の気持ちはよく分かる。

 少し覗けるように扉を開き、目標を確認して強はムックを呼び寄せる。


「合図と同時に突入、そしてムック、お前がローズを捕まえる。良いな?」


 その作戦に大きく頷くムック、準備は整った。

 強は指を三本立てる。それが二本、一本とカウントダウンを始める。


「今だ! 作戦開始!」


 それが無くなると共に扉は蹴破られた。


「何ですの!?」


 一瞬驚きを見せたローズであったが、突入してきた曲者に一気に臨戦態勢、左足を下げ、右手をみぞおち、左手をへその位置で構え相手を迎え撃つ、拳を握っていないので主体は打撃では無さそうだ。


 ムックはまるで忍者の末裔と言われても疑念を抱かない、そんなスピードでローズへと向かっていく。

 爪先が地面を蹴り上げ、左右に跳び、相手に的を絞らせない。

 だからであろう、ローズがムックを認識したのは目の前まで跳んで来た時だった。


 その動きはスマートに敵を迎撃するーー直前にローズは両の手を止め、ムックはその勢いのままローズへ抱き付いた。


「な、な、なんですのおぉぉぉおお!!?」


 推しからのファンサを受けて、ローズの脳は沸騰する。ムックは頑張って捕まえているつもりだろうが相手が固まっているだけでもはやただ抱き付いているだけだ。


「作戦通り」


 全て目論見通りと強が笑う。


「まぁ、確かに効果は抜群だな」


 この作戦はローズもだが、特効がある。

 ローズが羨ましいと皆人は幸せ絶頂の会長を指を咥えて見てるしかなかった。


「はっはっはっは! ローズよ。貴様なんて俺達に斯かればこの程度よ!」

「勝手に一味にすんな」


 ローズの高笑いがお嬢様なら強のは大魔王だ。彼女の身動きが取れないと見るや、勝ち誇る様に一歩一歩踏み締める。おそらく大物感を演出しているのだろう。

 ムックは必死に両手を回しその場にローズを縛り付けているがそこまでしなくてももうローズは逃げはしないだろう。

 何故なら……、


「し、死んでる!?」

「……生きてるよ」


 彼女は立ったまま気絶しているのだから。


「ムック、もう離して良いぞ」


 そう言われたムックが距離を置くとローズは直ぐ様意識を取り戻す。

 状況把握に辺りを見回し、ムックを自らの背に隠すと強を威嚇する。それはまるで虎の如し。


「強さん! あなたには再三通告した筈ですわ! くーちゃんを誑かさないで下さいまし!」

「誑かすって人聞きの悪い……ムックは俺のパーティーに加わっただけだ」

「何ですのムックって!? 何ですのパーティーって!?」


 キーキー喚くように強を捲し立てるお嬢様。

 側で聞いていた皆人にも漸く全容が見えてきた。強がムックを見つけてから今日まで時間が掛かったのはローズが立ちはだかっていたからだ。

 だが何らかの理由でローズがここにいる。その隙を突いて浚って来たに違いない。


「皆人さん、貴方もですわ! 目的は何ですの!?」


 傍観してたら皆人にも飛び火してきた。もはや手当たり次第だ。


「良いだろう! 貴様にも俺等の仲間に加わる資格があるようだ! 皆人よ。例の物をーー」


 キャラ変からの指パッチン、強の意図を察して皆人はローズへ巻物を広げる。


「これは何ですの?」

「巨傲久美子……いや、【放課後の哄笑】よ! 貴様は選ばれた!」

「七不思議……わたくしが【放課後の哄笑】? 何ですかこれは……馬鹿馬鹿しい!」


 一蹴だった。


「貴方達が言ってた【学食の黒渦】ってこれの事でしたの? そしてくーちゃんがそれだと……」


 いつの間にか任命された説明係の仕事をする事は無く、皆人は大助かりだ。

 ローズは一つ説明したら二も三も理解してくれて話が早い。


「金敷高校の七不思議って……こんな取って付けたような七不思議がありまして!? 普通こういうのは摩訶不思議な出来事を題材にするものでしょう!」


 ド正論だった。ぐうの音も出なくて頭が上がらない。

 皆人だって最初はそう思っていた。奇怪な怪談こそ七不思議の真骨頂だと。

 だがそれはムック、そしてこの度ローズを示唆している時点で途中から考えるのを止めた。

 

「まぁそれは置いといて……」


 大振りな手振りで強はローズの話を叩き切る。もうそこは拘る程の事ではない。

 強の目的は先輩から託された七不思議を解明する事。

 それが何かは関係ない。

 ローズを組伏せ、次の七不思議へ向かう。ただそれだけだ。


「だから俺達の仲間になれ! 巨傲久美子! いや、ローズ!」


 強が右手を差し出す。それに対してローズは拒絶するかのように強く払い除けるのだった。

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