revenge of darkness

虎野離人

プロローグ


神谷悠真が目を覚ましたのは、孤児院に突如響いた爆発音だった。闇夜に浮かび上がるのは、崩れ落ちる天井と燃え広がる炎。瓦礫が散乱し、逃げ惑う孤児たちの悲鳴が遠くから聞こえる。悠真の心臓は嫌な予感と恐怖で締め付けられた。


「一体、何が起きているんだ……?」


悠真は部屋を飛び出し、廊下を駆け抜けた。だが、すぐに目に飛び込んできたのは黒い装甲服を身にまとった武装兵たちだった。彼らのヘルメットには小型のカメラが取り付けられ、胸元には「特務省」のエンブレムが輝いている。


「目標を確認、確保に移行する!」

鋭い指令が飛び交う中、兵士たちは迷うことなく孤児たちを次々に捕らえていく。その姿に悠真は混乱しながらも、咄嗟に身を隠した。


「悠真、そこにいたのね。」

不意に聞こえた静かな声に、悠真は振り返った。そこには、シスター・マリアの姿があった。燃えさかる炎の光の中で、彼女の顔には決意が宿っていた。


「シスター、一体何が……?」

「時間がないわ。彼らの目的はあなたたち異能者よ。」

「俺たちが……?」


マリアは悲しげな目で頷き、悠真の肩を優しく掴む。


「あなたたちが特別な力を持っていることが知られたのよ。政府はその力を恐れている。彼らに捕まれば、生きてここを出ることはできないわ。」


その言葉を聞いた瞬間、悠真の頭の中に過去の光景がよぎる。孤児院で育った自分たちの中に異能を持つ者がいることは秘密にされていた。だが、その秘密が漏れた――それが今の惨劇を招いたのだ。


「悠真、私が時間を稼ぐわ。あなたは仲間たちを連れてここを出なさい。」

「そんな、無理だ!俺たちを残して……」

「いいえ、あなたたちは未来を生きるの。この世界があなたたちを拒むのなら、それを変える力があるのは、あなたたち自身だけなのよ。」


悠真の抗議を振り切り、マリアは笑みを浮かべた。そして彼女は扉の前に立ち、祈るように十字架を握り締める。


外では、特務省の指揮官が通信機で状況を報告している。


「目標の確保を最優先とする。施設外に情報が漏れないよう、全員排除しろ。証拠を一切残すな。」

「了解しました。進行中です。」


政府が異能者の存在を世間に知られることを最も恐れていることは明らかだった。彼らはこの襲撃を秘密裏に行い、何もなかったかのように揉み消すつもりだ。孤児院の存在すら、公式記録から消されるだろう。


「悠真!早く来い!」

遠くから斉藤涼の叫び声が聞こえた。彼の能力、高速移動で残像がチラつき、結衣の姿もその横に見える。


「こっちだ!急げ!」


悠真は彼らの方に走り出そうとしたが、その瞬間、シスターが彼を引き止めた。


「ここで立ち止まる時間はないわ。」

「でも、シスターを置いて行くなんて!」

「いいえ、大丈夫。あなたたちの未来が私の希望よ。だから、行きなさい!」


言葉の最後に、マリアは悠真を突き飛ばした。扉が閉じ、静寂が訪れる。悠真の心に広がるのは後悔と無力感だったが、振り返る暇はなかった。涼が叫びながら手を引く。


「行くんだ、悠真!ここで捕まったら終わりだ!」


逃げ延びた裏口から振り返ると、孤児院が爆音と共に瓦礫と化す。爆発の煙が夜空に渦を描き、炎が全てを飲み込む。悠真はその光景に立ち尽くし、膝をついた。


「シスター……」


涼が肩を叩き、押し黙る。結衣は泣き崩れながらも、震える手で悠真を立たせた。


「私たち、行かないと……。シスターのためにも……。」


悠真は涙をこらえ、拳を握り締めた。自分たちを追う追っ手の音が遠くから近づいてくる。


「……わかった。絶対に、生き延びる。」


翌日、孤児院の跡地には焼け跡が残るだけだった。しかし、公式な記録には「施設の火災事故」として記載され、犠牲者は数人の孤児だけだと発表された。政府は徹底的に証拠を隠蔽し、異能者の存在は闇に葬られた。


数年後——

悠真は街のビルの上に立ち、月を見上げていた。手のひらには、自分の能力である「力の調律」の感覚が残っている。

心の奥底には、あの夜の誓いが消えない。


「俺は、必ずみんなを見つけ出す。そして、この世界の真実を暴いてやる……。」


物語はここから始まる。

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