しのごの言わずに、私の男になれ!


「しのごの言わずに、私の男になれ!」


 学園一二を争う美少女が豹変し、強気で綺麗な目で睨みながら、壁ドンしてきた。


 状況が意味不明すぎて、恐怖より戸惑いが強い。


 普段の清楚感はどこへやら、不良みたいな雰囲気になっている。しかもやたら板についてる気がする。もしかしたら、こっちの方が素なのか? というか、どうして俺は好きでもないのに恋人になるよう迫られてるんだ?


「……ひそひそ」


 ゲームセンターの他の客が俺たちの方を見て、何事か、と囁いている。少しずつ、人が集まってきて、水城さんは舌打ちした。


「チッ、おい、場所移すぞ」


 そう言って歩き出す水城さんを、俺は黙って見送る。俺がいないのにも関わらず、水城さんは話し続け、入り口のところで振り向いた。そして、ついてきていないことに気づいたのか、水城さんは駆け寄ってきた。


「ばか! 何でついてきてないんだよ!」


 顔を真っ赤にした水城さんが、思いの外可愛くて、恐怖や戸惑いといった感情が霧散する。


「いや、だって、人目のないとこにでも連れてかれたら怖いじゃん」


「うるさい、こい!」


「やだよ。俺がついていく理由ある?」


「そりゃ、おまえ……」


 水城さんは言葉を詰まらせ、しばしの沈黙ののち口を開いた。


「いいからこい!」


「やだ」


「ぐぬぬ……」


 不良みたいな口調で、雰囲気もそんな感じなんだけど……どうしよう。可愛く見えて仕方ない。


「こい!」


「やだ」


「むー!」


 俺の腕を掴んで引っ張ってくるけど、力がめちゃくちゃ弱い。近所の子供はおろか、トノサマバッタくらいなら負けてしまうのではないだろうか。


 俺が動かないとわかったのか、引っ張っていた手を両膝に置き、肩で息をし始めた。


 何だか、可哀想になってきた。事情くらいは聞いてあげることにする。


「どうして俺と付き合いたいの? 何か複雑な理由があったり?」


 ククッ、と水城さんは笑う。


「そいつぁ、話せねぇなあ?」


「あっそ。じゃあ帰るわ」


「嘘です! 理由話します! バッチバチに話します!」


 凄い勢いで言われたので、さすがに一瞬臆した。


「くっ、この私がなんて惨めな」


 どの私だよ。というツッコミはしないことにして、事情を尋ねる。


「で、何で俺と付き合いたいわけ?」


 水城さんはスマホを取り出し、何やら操作して画面を見せてきた。


 そこには、ホテルに入る俺と小野さんの姿。


 急に冷や水を浴びせられたような気分になる。


「人目がないとこ行こう。そこで話を聞く」

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