待つだけじゃなくて(side:堂嶋玲央)
第17話 最後の一人
眠る前に、スマホで全てのSNSアプリを確認する。今日もやっぱり愛莉さんからのメッセージはなくて、スマホをベッドの上に放り投げてしまった。
「……普通におかしいでしょ」
愛莉さんが学校に復帰して、約二週間。
しかも愛莉さんは演劇部を再興するため、新入部員の勧誘に精を出している。
なのに私には、会いにすらこない。
私とはもうやりたくないってこと? 心機一転、新しい子たちと頑張りたいってこと?
胸ぐらをつかんで、そう問い詰めてやりたい。だけどできないのは、肯定されるのが怖いからだ。
立ち上がって姿見の前に移動する。月に一度美容院に行っているから、愛莉さんといた頃となにも変わっていない。褒めてくれたあの時のままだ。
身長は少し伸びたけれど、劇的な変化はない。
『絶対ステージ映えするから、演劇部に入るべきだよ!』
入学式の日、いきなり愛莉さんにそう話しかけられた。あの時のままの私なのに、どうしてまた誘ってくれないんだろう。
何度断っても毎日教室までやってきて、笑顔で話しかけてくれた。
今の一年生の子も、そうやって誘ったのだろうか。
愛莉さんの手を掴んだあの日から、私の世界は作り変えられてしまった。なのにいきなりいなくなるなんて、愛莉さんは本当に酷い。
無理をしてほしかったわけじゃない。一緒に辞めよう。そう言ってくれてもよかった。だけど、愛莉さんは何も言ってくれなかった。
他の人と同じように、私からも離れていったのだ。
私は愛莉さんの特別だって、信じてたのに。
◆
「堂嶋先輩っ!」
教室へ行くと、なぜか一年生の賀来さんが私を待っていた。
委員会は一緒だけれど、特に親しいわけでもないのに。
「……なにかあった?」
「一応、挨拶をと思って。私も演劇部に入ることにしたので」
「……なんでそれ、わざわざ言いにきたの?」
私は元演劇部なだけで、今は演劇部なわけじゃない。それとも、愛莉さんからなにか言われたのだろうか。
じっと見つめていると、賀来さんはにこっと笑った。人懐こい、誰からも好かれそうな笑顔だ。
確か賀来さんの友達は、もうちょっとおとなしい感じの子だった。
演劇部に入ったもう一人の子は、金髪のハーフの子。
みんな、私には似ていない。
愛莉さん、私の顔が好きだって言ってたのに。
「堂嶋先輩が演劇部のこと、気にしてたみたいなので」
気にしていたのは事実だから、否定はできない。愛莉さんには聞けないけど、斎藤先生に聞いて演劇部の現状は大体把握している。
「それとも堂嶋先輩が気にしてるの、愛莉先輩のことだったりします?」
これは質問じゃなくて確認だ。賀来さんのことは全然知らないけれど、それくらいのことは分かる。
私、そんなに分かりやすい反応してた?
「安心してください。別に私、愛莉先輩に言ったりしませんし」
「……じゃあ、何のためにこんな話をするの」
勝手に感情を推測されるのは不快だ。顰めた顔を見ればそれは伝わっているだろうけれど、賀来さんは私の快不快なんて気にしないらしい。
「私の幼馴染が、愛莉先輩にめちゃくちゃ懐いてるんです」
「それで?」
「要するに焼きもちです。そこで私としては、堂嶋先輩がいてくれたらありがたいなって」
ははっ、と笑いながら、賀来さんはあっさりそう言った。だけどその目は全く笑っていない。
この子、絶対面倒くさい子だ。
「演劇部、私で四人目なんです。だからあと一人入れば、演劇部が正式に成立します」
「……知ってる」
「最後の一人って、すっごく特別じゃないですか?」
それだけ言うと、賀来さんは逃げるように去っていった。一度も振り向かなかったけれど、なんとなく自信満々な顔をしている気がする。
「……最後の一人、か」
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