ep3
入院中、僕の担当医をしていたヘルマンと別れた。
二週間という短い時間ではあったが、良くも悪くも騒がしい彼のおかげで寂しさを感じることはなかった。
お互いに生きていればまた会うこともあるだろう。
これから訓練していくにあたり、イレーネという女性の大佐が僕の指導官についた。
年齢は21歳、腰まで届く長い金髪に青い瞳をしている。
女性ながら戦場で結果を残し、若くして出世したとのこと。
お手本にすべき軍人の鏡だろう。
退院初日から訓練は始まり、今は初顔合わせをしているのだが、大佐は僕を見るなり固まっていた。
「お前、いくつだ?」
「12歳です」
「なっ、こんな子供を⋯⋯上は何を考えているのだ⋯⋯?」
詳しく説明されていないらしい。
そこら辺の子供が軍の見学にきたとでもなっているのだろうか。
なぜここにいるのかと、三年後に訓練学校へ入学することを伝えた。
難しい顔をしたと思ったら、ぽろりと涙を流した。
「大変だったんだな、可哀想に⋯⋯しかし、軍に入る以上厳しく指導する。覚悟しておけ!」
「⋯っ!!はいっ!!」
「いい返事だ!これから私のことは大佐殿と呼ぶように!」
「はいっ!!大佐殿!!」
「よろしい!」
年齢も若く、スピード出世だったこともあってあまり大佐と呼んでもらえていないのだろうか⋯
どこか嬉しそうだ。
まずは適正テストを受けることになった。
魔道兵器を扱えるかどうかの確認だ。
テストを始める前に、そもそも魔道兵器とは何かについて説明された。
魔道兵器とは、魔法全盛期に戦争の道具として作られた武器であり、その数には限りがある。
複数の人間が扱うことのできるものを『新型』、特定の人間にしか扱えないものを『旧型』と呼んでいる。
新型は
旧型を扱えるかどうかは
兵士が戦場で使用する基本武器は『
そしてそれぞれに準ずる新型魔道兵器が存在する。
魔道兵器の中では最も数が多く、その数に比例して適性のある者も多いため各部隊に1人は必ずいるらしい。
兵士の中には位があり、旧型を扱う者をS級、新型を扱う者をA級、魔道兵器を扱うことはできないが戦闘能力の高い者をB級、そしてそれ以外はC級に分類される。
本来は訓練学校で最初にすることなのだが、ご丁寧にそれを待つ必要もないので今からすることになった。
この国の育成方針は基本的に長所を伸ばすこと。
短所を無くすことに時間を使っても中途半端な軍人になるだけなので、ひとつを極めて専門武器とするのだ。
その上で適性があればなおよしである。
「今から渡すものは全て新型だ。まずはモデル
そういい、銃を渡された。
少し重いが問題ないだろう。
銃を構え、呼吸を整える。
片目をつむり、的へと標準を合わせる。
「ほぉ、様になっているじゃないか!もしかしたらビームみたいなとんでもないのがでるかもな!はははっ」
少佐殿の言葉をよそに、発砲された銃弾はまさにビームであり的ごと後ろの壁を突き破った。
「⋯⋯⋯や、やるじゃないか。きゅっ⋯90点といったところだな」
「真ん中ですよ?」
「当たったかどうかわからないでしょ?!的なくなってるし!!」
「でもたしかに真ん中に⋯⋯」
「弾が見えてたとでもいうの?そんなわけないじゃない⋯⋯⋯そうよね?」
「見えましたよ⋯⋯?」
(銃弾を目で追えるわけがない。でも、嘘をついてるようには⋯⋯⋯まさかこの子、本当に見えて⋯?)
「⋯⋯⋯次に行きましょう」
続いてはモデル
汎用型は戦場でもっとも使用される武器だ。
同じように構える。
先程とは異なる連射式。
全ての銃弾が的のど真ん中へ当たった。
当然、的は残っていない。
「⋯⋯⋯な、なるほどねぇ〜⋯95点かしら」
「ちなみにその5点はどこから引かれましたか?」
「少しだけ、ほんのすこ〜しだけ線から足がでていた⋯気がするわ」
「ならやり直しましょうか?」
「⋯⋯⋯いえいいわ。⋯ちなみに真ん中⋯?」
「はい、当たってました」
「そう⋯⋯次が最後よ」
少佐殿、最初とキャラが変わっていませんか?
「最後は近接武器、つまりナイフだ。これは適性テストには含まれていない。ナイフにはそもそも旧型しかないからだ」
兵士はできる限り装備品を削り体を軽くするのだが、それでもナイフだけは必ず持っている。
でなければ弾が尽きてしまうと戦う手段がないからだ。
ナイフ1本だろうと最後まで戦い続ける、逃げ出すことは許されない。
それがこの国の軍隊だ。
「お前には才能がある。なにかしら旧型を扱えるかもしれないな」
少佐からナイフを渡される。
「安心しろ、ゴムナイフだ。今からするのは訓練、お前の素の力を試させてもらおう」
少佐の雰囲気が変わった。
まるで獲物を狙う肉食動物のようだ。
若干21歳にして大佐まで成り上がったのも納得だ⋯⋯
最初に動いたのは少佐だった。
一気に距離を詰めてきた。
大丈夫。見えてる。
少佐がナイフを振りかざしたのを見て、受け流すために同じくナイフを構えると右足で蹴り飛ばされた。
何度も地面を転がり、あまりの痛みに一撃で動けなくなった。
「ナイフだけが武器ではない!!体全体を見ろ!!」
まるで訓練だ。
そういえば、最初にこれは適性診断じゃないって言ってたっけ。
「ここを戦場だと思え!私を殺す気でこい!でなければお前が死ぬだけだ!」
ここは戦場⋯ここは戦場⋯
ダメだ、そう思いたくて思えない。
僕は戦場を知らない。
「お前は銃を持った敵兵を二人殺したと言っていたな!そんなものではないだろう!!」
なかなか起き上がらない僕を見て、少佐の“煽り”は続いた。
「⋯⋯そうだな。私がお前の家にきたアガルズの兵士なら、最初にお前を殺していただろう。そしてその次は⋯わかるな?」
不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。
その言葉を聞いたとき、やっと立ち上がれた。
なにもここを戦場だと思う必要はない。
家と思えばいいんだ。
少佐は、あの日の男だ。
(言い過ぎたか⋯?)
少佐の心配をよそに、ナイフを左手から右手に持ち替える。
僕は左利きだ。
でもあの日、やつの首を切り裂いたのは右手だった。
深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
そして息を全て吐き出した瞬間に前へと駆け出す。
「⋯⋯⋯っ?!」
一瞬で距離を詰め、首筋にナイフを振りかざす。
あの男は反応できなかった。
しかし少佐はそれをかわしてみせた。
たまらず後ろに距離をとる。
ノアの持つナイフを一瞬本物だと錯覚してしまい、少佐は汗をぬぐった。
(危なかった⋯⋯ノアのやつ、雰囲気が変わったな。こっちまで緊張感が伝わってくるぞ)
「やっと本気を見せてくれたな!!私も本気を出せそうだぞ!!」
ハッタリだな。
息があがっている。
ナイフを避けたとき、あれが少佐の最高速度だ。
「⋯⋯行きます」
そういいナイフを構えると、少佐はナイフを下ろした。
「参った。私の負けだ!強いな、正直驚いたぞ」
「⋯⋯⋯」
「おいおい、言い過ぎたのは悪かったよ。ナイフを下ろしてくれ」
そこでやっと自分が今いる場所を思い出した。
「すみません⋯気持ちが入りすぎました⋯」
「それだけ真剣にやっていたという証拠だよ!!良いことじゃないか!!」
少佐殿と僕には、上司と部下という関係がある。
失礼があってはいけないのだ。
少佐は優しいからまだ許されているが、軍に入る以上は気をつけないといけない。
「これで全項目終了だ。結果は言うまでもないだろう。全てに適正あり、合格だ!!」
「合否があったんですか⋯?」
「んんん?⋯⋯そうだな、そうだ。これは私からの個人的なテストだ!!合格おめでとう!!」
なんというか、少佐殿は変わってらっしゃる。
日没を迎え、今日のところはここまでとなった。
明日からは実技以外にも座学も教えてくれるらしい。
この人についていれば、わざわざ三年後に訓練学校に行く必要はないんじゃないだろうか。
住所と部屋の番号が書かれた紙を渡され、ここに行くように言われた。
少佐は後から行くらしい。
適性テストの結果を参謀本部へ報告しに行かなくてはいけないそうだ。
指定された住所へ行くと少し古いアパートがあった。
(ここは⋯?)
着いてから気づいたのだが、そういえば鍵を貰っていないので入ることができない。
仕方ないので部屋の前で座りながらイレーネ少佐を待つことにした。
2時間ほどして少佐は現れた。
「本当にすまない!!鍵渡すの忘れてた!!」
若干イラっとしながらもグッと堪えた。
「僕も忘れてましたから仕方ないですよ。それよりここはどこですか?」
「私の家だ。今日からお前はここに住むことになる」
「なるほど⋯⋯⋯エッ?」
「なんだ、聞いてなかったのか?新しく入隊するやつがなにやら訳ありで、住む家も帰る家もないからお前の家に泊めてやってくれって頼まれたぞ?」
「なにも聞いてませんでした⋯」
「ふむ。ヘルマンは雑な性格をしてるからな」
上司とひとつ屋根の下で暮らすというのは、いってしまえば24時間訓練しているようなものだ。
それに、大尉殿は女性だし⋯⋯⋯
「これからよろしくな!ノア!」
今から先が思いやられる。
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