宇宙人に誘われて、月でバレエを踊ろう〜観覧席の宇宙人をわかせよう

まなか

第1話 バレエのお教室の年一回の発表会で、名前を呼ばれなかった。私は、発表会に参加しないことになっている?

 レッスン中は、指先からつま先まで意識を巡らせて、しなやかに伸ばす。

天井から糸で吊られているみたいに、頭から一本の線を通して立つ。

バレリーナになるため、私は楽しくバレエを習っている。


今日は、年一回の発表会の参加者の名前と役を先生が発表していく日。

私は、私の名前が呼ばれるのを待っていた。


 私はまだ、バレエシューズでレッスン中。

うちのお教室は、先生が、生徒と親を呼んで、トゥシューズを買いませんかとお声がけをしてくれたら、バレエシューズを卒業できる決まり。

同じクラスの何人かは、もうトゥシューズを買っている。

次、トゥシューズを買うのは、きっと私。発表会の前じゃないなら、発表会後に呼ばれるはず。


「以上です。発表会に向けて怪我せず、健康に気をつけましょう。」

あれ?

「先生、私の名前がまだです。」

私は手を挙げて、私の名前が呼ばれていません、と先生に言った。

私の名前を忘れるなんて、先生、どうしたの?

「今年の発表会への参加は見送るとお母さんから聞いているわ。」

先生が信じられないことを言うから、私はすぐに不参加を否定した。

「参加します。だから、先生、私の役を考えてください。」

「今日、帰るまでにお母さんと話し合って、お母さんと一緒に申し込みにきてから、役を考えます。」

先生に言われて、私は急いでお母さんがいる見学席へ向かった。


 私のいるクラスは、保護者が練習風景を見学できるの。

見学席に行っていいのは、着替えてからだけど、着替える時間が今日は惜しい。


私が見学席に入っていくと、お母さんは、他のお母さんと談笑していた。

「まだ着替えていないの?早く着替えてきなさい。」

お母さんは、私を見るなり、見学席から早く出ていくようにと言ったの。

「お母さん、今年の発表会にまだ申し込んでいないんでしょ? 先生から聞いたから。今、先生に待ってもらっているの。お母さん、今から私と申し込みにいくよ。」

私は、お母さんの手を引っ張った。

早く、早く、と心がはやる。


 私は、発表会に出ない自分を想像したことがなかった。

発表会の役の発表で、先生に、役を割り当てられなかったとき。

私の心臓は、ぎゅっと鷲掴みにされたように痛くなった。

もう、痛くて苦しい思いをするのは嫌。

皆の前で、私の名前が呼ばれていません、と伝えるのは、凄く恥ずかしかった。

恥ずかしかったけれど、皆の前で手を挙げて、先生に直接聞いたのは。

皆の前で聞かなかったら、私に役が振られなかったことを誰も気にもとめないんじゃないか、という不安が勝ったから。

役の発表で、私に役が振られなかったのに、私以外は驚いていなかったことに、私はびっくりして、怖くなった。


私は、クラスの皆と発表会に出なくても残念に思われない人なの?

レッスン後、和気あいあいと、お菓子の交換をしたり、お喋りを楽しんでいたりしていたのに。

私がいるから、このクラスはクラス仲が良かった。

私のおかげで、皆が楽しくバレエをやってこられたんじゃないの?


私が発表会の参加メンバーに入っていないことを疑問に思う人が、一人もいなかったなんて。

私がいなくても、バレエ教室が楽しいと思っていたのかな?

私がいるから、このクラスは楽しいんだと思っていたのは、私だけ?


 今、泣くのは負けだと思うから、私は泣かない。

今は、お母さんと一緒に、先生に発表会の申し込みをしないと。


発表会に参加しなかったら、発表会に参加する人よりも出遅れる。

技術的にも気持ち的にも。


私は、自分が発表会の参加メンバーの中に入っていないなんて、嫌。

私の目の前で、私以下の人が上達しながら仲良くしている姿なんて見たくない。

発表会が終わった後。

発表会を頑張ったという気持ちを持っている人達と、発表会に出なかった私の間の空気は、きっと私の居心地を悪くする。


発表会に出ないことが確定したら、このクラスに私の居場所はなくなってしまう。


だから。

私は発表会に出て、私の存在感を示さないと。

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