第20話 男の誓いに訂正はない①



 《ユビキタスブレイン》。


 その演算結果を見るに、スーパーコンピューター。否、超高速演算装置とでも言うべきか。


 網膜に収めきれない程の膨大な演算結果。

 それは、とてもじゃないがあの宇宙基地一つのシステムを補っているものとは思えない。

 

 

 そして、アリアが送ってきた大量の座標情報。

 ユビキタス――その名から推測するに、分散型のコンピューター。膨大な演算を行った後、その処理を分散させたコンピューターに回している……あくまで予想に過ぎないが。



 何にせよ、奴らが《ユビキタスブレイン》を使って、あそこまで完璧な情報統制を行っていたのは言うまでもないだろう。


 これを押さえる事ができれば、奴らの信用は地の底に落ち、地球は終わりだ。

 


「イガク、マーチ」



 彼が二人の名を呼ぶと、身体のメンテナンスを終えた彼らが駆け寄ってきて神妙な顔つきでファウストを見上げた。



「そう身構えるな。これからのことについて、話したいだけだ」



 ファウストは彼らの目線に合わせてしゃがみ込んでやった。

 殆ど道具として扱われない彼らに、子供のように接するのはファウストただ一人だ。



「アリアがやってくれた。結束連盟に痛手を負わせる準備が整いつつあるんだ」

「本当か? お頭」

「あぁ。本当だ」

「ファウスト様のお望み、叶うの?」



 マーチが目をキラキラさせた。

 彼女が自分に入れ込んでる事は見れば分かる。落ち着きがない彼女を、微笑んで制する。



「だが、あくまでもまだ準備だ。これから少し過酷な仕事になるかもしれない」

「いいぜお頭。俺はそれでも」

「私たち、ファウスト様に尽くすから!」



 二人の言葉を聞き入れたファウストは、決意を固めて立ち上がった。


 正直、この情報を手に入れただけで勝ったと思うのは軽率だ。


 だが少なくとも、明確な目標は手に入った。


 もう




 ◇




《――!! 一二時の方向に、高エネルギー反応あり!! 敵の攻撃です!!》



 

 オペレーターの必死な叫びに突き動かされ、兵士たちは予測射程範囲から即座に撤退。


 予測通り、一二時の方向から一直線を大型のビームが貫いた。



《戦艦か!?》



 前線に立ち、大慌てて回避したアズチが高揚でそんな言葉を漏らした。



「……来たな」



 ウィザードはかつて無い緊張が体に走る。

 この状況を把握できているのは彼だけだが、今に限ってはそれが逆に緊迫を加速させる要因となっていた。



 遠方から現れる、巨大な人影。



 それはまさに、巨人と言っても差し支えなかった。

 通常のゲイズチェイサの三倍はある巨体を覆う黒鉄のような装甲が、陽光を吸収し艶やかに光っている。


 そして、V字を思わせる頭部アンテナとツインアイを持つヒロイックなデザイン。

 

 それはまごうこと無き、〈レギオン〉の名を冠している証であった。



《ゲイズチェイサ……なの?》

《あんなに大きな機体……どうやって動いているっていうんだ……》



 ミハイルとアスカが唖然とする声が、通信に流れ込んでくる。

 海岸沿いまで辿り着いた”ハンドレッド”の艦内も、光学映像を見て驚愕している様子だ。



 大型戦略兵器”ティターン・レギオン”。

 この街など、一瞬にして火の海に変えてしまえる程の火力を持った、である。



 もはや、それは英雄の象徴などではない。



「総員回避ッ!!」



 ウィザードは”ティターン”に動きがあったのを見て叫ぶ。


 奴が背中に負っているのは、周辺のビルと何ら変わりない大きさの砲塔。

 それが二つ、可動して”ティターン”の肩に乗った。


 発射態勢に入るや否や砲口が赤熱し始める。

 更には、胸部の装甲が展開され既に赤熱しているビーム発射口が覗いた。


 一度に三筋の悍ましいビーム砲が射出。


 辺り一帯を薙ぎ払うように放たれて、ウィザード達の機体を付け狙う。

 

 前線で戦っていた者達は何とか避けられたが、”ハンドレッド”から発進した後続部隊は、対応しきれずに全てが撃墜された。


 

 蒼海に散る仲間たちを見据え、赤い”ヴァリアンス”がセイヴァーを抜刀しながら猛進した。



「待て!! グレード准尉!!」



 ウィザードは叫ぶ。珍しく声に余裕がない。



 ”ティターン”。

 今はまだそうではないが、主人公――アスカにとって、それはトラウマと言っていい存在になる。



 なぜなら、アズチ・グレードは”ティターン”によって殺されるからだ。



 運命シナリオでそう決められているのなら、アズチは”ティターン”との戦いの中で死ぬ。

 アズチの死は、原作で言うとまだ先の話――だが、ここはもう原作通りの世界ではない。


 したがって、定められた彼の死が早まってもなんら不思議なことではないのだ。



 陽炎の眼を有す”ヴァリアンス”が、紅の”ヴァリアンス”の前に立ち塞がった。



《何をする!! 邪魔をするな!!》

「冷静になれ。勇敢と無謀を履き違えるな!」

《お前はッ!! 連邦の殺戮を繰り返させたいのかッ!?》



 言い合いをするいとまを、漆黒の巨人が許してくれるはずもなく、間髪入れずに二発目が放たれた。


 このまま避け続ける事も不可能ではない。

 ただ、この被害が広範囲に及べば――とてもじゃないが、一切の漏れ無く情報統制できるとは到底思えない。



 ウィザードの”ヴァリアンス”が、牽制でビームライフルを乱射する。

 その間に頭を冷やしたアズチ機が後退。


 だが、奴にとって豆鉄砲当然なビームライフルなど効くはずもない。

 

 直立不動で次なる攻撃の容易を整えていた。


 無防備な”ティターン”を守るべく、”ヴァグ”や”ヴィシャス”が飛び交い、こちらの妨害を執拗に行った。


 こうなっては、迂闊に”ハンドレッド”を近寄らせるわけにはいかない。

 戦艦ごとき、”ティターン”の前ではおもちゃの木馬も同然だ。



「バジーナ大尉。ぜひ君に協力をお願いしたい。あれを殺る」

《……策はあるのか》

「あると言った」

《一言も言ってない》



 ミハイルの冷たい声音を聞き入れ、次に残った二人へ指示を出す(※隊長の権限など与えられていない)。



「カナタ少尉とグレード准尉は、取り巻きの相手を頼む」

《分かりましたっ!!》

《というか、なぜ貴様隊長気取りに――》



 戦場でおしゃべりを長引かせるのは、死に直結する。

 三度、”ティターン”がエネルギーの大放射を行った。

 火の海にさらに火を注ぎ、もう街の原型はほとんど残っていない。

 この惨状を、連盟はどのようにして隠蔽するのか見物だった。



 ”サウザンド”を引き連れ、ウィザードの”ヴァリアンス”は黒鉄の巨人へと猛進する。


 胸部のビームを翻りながら回避し、ビームライフルを放つ。

 正直言ってこんな事をしたところで、”ティターン”に対しては何の有効打にもなりはしない。


 ウィザードの機体では無理だ。

 

 この中で唯一、”ティターン”を倒せるだけの力を有しているのは、パイロットも加味すると”サウザンド”だけだろう。

 

 二つのビームブーメラン、そして機体重量をそのまま火力に変換可能な脚部ビームセイヴァー。危険は伴うが、それだけの火力なしに奴の撃破は不可能だ。



 もっとも、”ティターン”はここでは撃破されないのが本来のシナリオ。

 アズチの死により怒り狂ったアスカの手で、”ティターン”は撃破されるのだ。



「君には負担をかける。バジーナ大尉」

「……勝算は?」

「君次第だ。私もできる限りの事はする」



 ウィザードの言葉に、ミハイルがため息をついた。



「……あなたが来てから、何もかもが狂ったみたいに感じられるわ。私たちは、もっと



 彼女の言葉に息を呑んだ。



 ――いや、まさかな。



「でも、あなたを信用しないといけない気がする。どうしようもない変態だけれど、宇宙そらでの出来事が証明している。あなたは必要な存在だと」

「なら、頼んだぞ!!」



 黄金の戦士を差し置き、”ヴァリアンス”は立ち尽くす”ティターン”へと猛高速で突撃していった。


 妨害せんと降りかかる”ヴァグ”や”ヴィシャス”は、”アストラル”とアズチ機がある程度は抑え込んでくれた。



「ここで終止符を打とう!! 悲惨なる運命に!!」


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