【2話】見た目がアレで本人確認される
女神からいきなり「カッコよくないね」と言われ、思わずとっさに口をついて出る。
「なんだそれ!
初対面で、見た目のことをそんなに露骨に悪く言うヤツ、初めてだぞ!」
いきなりカッコよくないとか、人の容姿についてあれこれ言ってくるヤツなんて、これまで見たこともない!そりゃ確かにさ、自分でもそんなにカッコいいとは思っていないけれど、それでもさすがにこれは失礼すぎるだろ!
しかし、女神はまるで気にする様子もなく、ますますげんなりとした表情で言葉を続ける。
「あーあ…、これが現実ってやつなのね。
せっかく久々の登場で気合入ってたけど、一気にモチベーションダウンだわ」
「なんやねん!
あからさまにがっかりしてやる気のない対応すんなや!」
気がつけば、なぜかエセ関西弁が口をついて出ていた。
参考までに俺は関西出身ではない。
「あきらかに同情してしまうレベルですね…」
「同情するなら顔をくれ!」
「──スミマセン、イッテイルイミガワカリマセン──」
「ボケ殺しかよ
スマホのアシスタントみたいな回答しやがって…」
頭が熱くなり、気づけば意味不明なボケが口をついて出てしまう。だが、女神はまるでスマホのアシスタントのように、無感情な機械音声で返答してきた。こいつ、ふざけているのか? いや、そもそもボケをかましている自分自身が、なんだかふざけた態度になっている気がしてきた…。もう、頭が混乱状態だ…!
すると、女神はふむふむと何かを思案している様子で、ふと独り言のような言葉を呟いた。
「あー、でもなぁ…。
ここまで見た目がアレだと、一応確認しておいた方が良いかな…。
前にも間違いがあったし…」
(なんか、めちゃめちゃ失礼な態度をとっていないか…!)
そう言葉を返そうと思った瞬間、女神の頭上に天使の輪のような光が現れ、遠くの誰かと交信を始めたようだ。
「あ、もしもし、本部ですか?」
(すげぇな…、テレパシーみたいなこともできるのか…)と思わず感心してしまう。ずっと失礼な態度を取っていたせいですっかり忘れていたが、そうだ、確かこいつは女神だと言っていたんだっけ…。本当に本当で、本物なのか…?
ただ、女神だの勇者だのと言っているわりには、「本部」という言葉が馴染み深すぎて逆に違和感があるな…。
「なんか、今転生した人、リュートらしいんだけど
本当に本人なのか、マジ速攻確認してぷ」
「ぷ?」
確認のための短い沈黙があり、再び女神が口を開いた。
「えっ、マジ本人?
超やばめ〜!
なしよりのなしの顔なんだけど〜!」
(本人を横目にかなりひどい話をしているな、おい…)
「はぁ…、そっかそっかぁ…。
こみこみできゃぱいなぁ…。
ぴえん」
(なんなんだ、この言葉使いは…)
言いたいことは山ほどあったが、グッと堪え、俺は静かに事の成り行きを見守ることに決めた。
やがて、女神の頭上にあった天使の輪のような光が、ふわっと拡散していき、やがてその輝きが消え去った。女神は再び俺に向き直り、言葉を続けた。
「えーと…。
残念ながら…。
勇者リュートであるという本人確認が取れました…。
ぐすん…」
「おい!
本人確認できたから、ここは良かったという場面、じゃないか!
あからさまに残念がるなよ、本人を目の前にして…」
女神は涙ぐんで悲しげな表情を浮かべているが、見た目がどうのこうので本人確認されるこっちの方が、正直泣きたい気分だ。
そんな俺の気持ちを思い切りスルーするかのように、女神は軽く咳払いをすると、一度ゆっくりと瞼を閉じ、次に静かに目を開いてこちらを見据えながら言葉を紡ぎ始めた。
「こほん。
では、改めて…。
勇者リュートよ、この世界は、今、危機に瀕して…」
「いや!」
「救うことができるのは…」
「おい!」
女神と俺の言葉が同時に飛び出し、互いの声が重なって何を言っているのか分からなくなってしまう。
「なによ!
私が話しているでしょ!
ここ重要なセリフなのよ!」
女神は不機嫌そうな表情を浮かべている。
「情緒不安定がすごすぎるぞ…。
というか、俺はもう帰る!
仕事も大量に残ってるし、こんなよくわからんことに付き合ってられん…!」
女神は少し真剣な表情を浮かべ、静かに語りかけてきた。
「残念ながらそれはできません…」
「え、なんで…?」
「あなたは倒れてしまったのです」
「まぁ、そうみたいだな…、ちょっと疲れが溜まっていたようだ…。
会社がブラックなもんでな…」
ふとさっきまで仕事をしていた記憶が鮮明に蘇る。そうだ、まだまだ仕事が大量にあることを思い出すと、気分がげんなりしてくる…。
「そして、そのまま過労死となってしまいました」
「え、過労死って…?
だって、俺、生きてるぞ…」
さすがに驚かざるを得ない…。俺は死んでしまったのか?
確かに、このヘンテコリンな場所は現実のものとは思えないが…。
本当に本当なのか…、夢か何かの話じゃないのか…。
「はい、ここはあなたのいた世界とは別の世界。
異世界に転生されたのです」
「異世界…?
転生…?」
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