第27話【伝統と直感】7
そしてそれは私の気のせいではなくて、その女の子は私達の前に辿り着くと、私に一つ会釈をして、八木に話しかけた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「お、おう。待ってて貰って悪かったな」
「いえ、なんとなくですけど、状況は分かってますから――それで、あの」
八木と話していた女の子は、私を見る。
そして――。
「汐海先輩、ですよね?」
「あ、うん。アナタは……」
「私は白鳥悠と申します。先輩の一つ下、付属の一年です」
「ああ、白鳥家の」
この子が噂の白鳥家の子。
八木と仲が良くて、確かに陸斗ともこの前会ったんだっけ?
「すみません私、家のことはほとんど知らなくて……」
「あ、うん。分かってるよ。事情もちゃんと理解してる」
そう。事情は分かっている。
白鳥家は色々と特殊な家で、当主以外はほとんど顔を出すことは無い。
そして、会食の場などに参加するのも成人を迎えた大人だけという決まりがある。
役目的には仕方ないのだが不参加なんて、ちょっと羨ましい。
「それで……えっと」
どこか気まずそうに八木を見る白鳥ちゃん。
あ、そっか。
以前、八木は私に気があることを白鳥ちゃんに教えたと言っていた。
そしてこの状況。
文字通り気まずいのだろう。
そして、八木も八木で……まるで浮気がバレた人のようにオロオロしていた。
「じ、実はこのあと白鳥の弟のサッカーを見に行くんだよ。弟も一緒だし」
「あ、そうなんだ」
「そうなんだよ。……何もないからな?」
「別に何も怪しんでないよ」
「そうか? ならいいけど……汐海は何してんだ?」
「私? 私は――」
そう言って私は八木の視線を誘導するようにお店に視線を向ける。
「ああ、この店? この前できたところだよな?」
「うん。ここ、サラダバーが有名なんだって」
「サラダバー……さてはワカメサラダか!」
「そうだけど……その反応はちょっとムカつくかも。エビの串焼きにはバカにされたくない」
「いや、ワカメサラダはねーだろ。白鳥はどう思う? もし自分にご褒美をあげるとして、コンビニのワカメサラダと市場にある新鮮なエビの串焼き。どっちを食べる?」
八木は私と自分を順番に指さして白鳥ちゃんに尋ねる。
ちょっと……聞き方ズルくない?
「そこはフェアにいこうよ。産地にこだわったワカメサラダを想像してみて! 新鮮な野菜とワカメに好きなドレッシングをかけるの。シャキシャキの大根にレタス、その上にワカメ……美味しいよね!」
「いや、俺と食べたワカメサラダはコンビニで買ったやつだろ。白鳥、市場のエビの串焼きだぞ? 炭で焼かれた一品だ。甲殻類の殻としょうゆの焦げた香り。それだけで食欲が増すだろ!?」
私と八木のプレッシャーに晒された白鳥ちゃんは、モジモジとたじろぐ。
そして、それから少しして、意を決したのか顔を上げた。
「……正直に言っても良いですか?」
私達は頷く。
さて、どっち!?
「エビです。エビの串焼きが好き……ですね」
「うっしゃ! どうだ! 見たか!」
八木は腕を高く掲げると勝ち誇った表情を見せてきた。
な……なんで……。
ワカメサラダ……美味しいのに……。
「ナイスだ! やっぱりエビの串焼きだよな!」
「はい。実は……エビ、好きなんですよね。一番好きなのはエビのお刺身ですけど、火を通したのも美味しくて好きです」
「ワカメサラダ……美味しいのに」
「あ、いえ。ワカメサラダも好きですよ? でも……エビは好物だったので……すみません」
申し訳なさそうにする白鳥ちゃん。
なんというか……動きというか、醸し出す空気が……小動物みたいで可愛い。
「負けちゃった。でも、好きなものなら仕方ないね」
「はい。小さい頃から好きなので」
白鳥ちゃんはふふっと小さく微笑む。
本島に微笑みが似合う子だ。
私とは違うタイプの女の子。可愛いという文字が似合う子だよね。
「白鳥は好きなものはとにかく好きになるからなぁ。な?」
「はい。ちょっと恥ずかしいですけど……そういう性格なので」
「ははっ! サッカーの知識も凄いもんな」
そして八木と白鳥ちゃんの雰囲気。
中々に良い感じに思える。
きっと八木は良い先輩で、白鳥ちゃんは良い後輩なのだろう。
私の知らない……八木の新しい一面。
こんな顔もするんだなぁ……。
「あ、先輩! そろそろバスの時間です!」
「ん? ってマジだ。田舎だから乗り遅れたら終わりだし、そろそろ行くか」
「そうしましょう」
「それじゃ、汐海。また学校でな」
「あ……うん。また学校で」
二人は私に背を向けて歩き出す。
最後に白鳥ちゃんがペコっと頭を下げてくれたけど、噂通り本当に可愛い子だった。
陸斗が可愛いって言っていた意味が分かる。
そして八木。
普段見ている姿とは、明らかに違っていたように見えた。
思えば私以外の女の子と話しているところを初めて見た気がするし……。
意外にも優しい先輩としての振る舞いが板についていた。
やり方こそちょっと普通とは違うけど、ナンパから助けてくれたし。
…………なんだろう。
知らない。
知らないことばかりだよ。
私は自分の胸に感じたチクリとした痛みに首を傾げる。
そして八木の後ろ姿を見ると、二つの知らないとどう向き合うのかを自分の名前が呼ばれるまで考えるのだった。
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