澄凪の人魚姫

西藤りょう

プロローグ


 間違えることのできない……たった一度の恋。

 それは果たして、どんな恋なのだろうか。


 ドキドキするようなロマンチックな恋だろうか。

 それとも、夢見がちだとバカにされるような恋だろうか。


 その感情を向けることを許されるのはたった一度きり。

 好きになるのは生涯で一人だけ。

 ただ一人を愛し続け、愛されることを望み続ける。


 それはもしかすると、幼稚で自分勝手な独りよがりの恋なのかもしれない。

 愛する人に見放されまいと、恐怖に抗いながらする恋なのかもしれない。



 人魚姫はかつて、王子に恋をした。

 人魚姫はかつて、魔女に願い、危険だと知りながら人間の姿になった。

 人魚姫はかつて、王子からの愛を望みながらも、それを得ることができなかった。

 人魚姫はかつて、自分が消えゆく存在だと理解しながらも、王子の幸せを願った。

 人魚姫は最後……泡になって消えてしまった。



 人魚姫に許されたのは、一度きりの恋だった。

 失敗したら、泡になって消えてしまう、そんな恋だった。

 自分の全てを賭けた、そんな恋だった。


 ――間違えることのできない、たった一度の恋。


 それはロマンチックな恋なのか。

 それとも、夢見がちだとバカにされるような恋なのか。

 一方的に想いを寄せる幼稚で自分勝手な独りよがりの恋なのか。

 もしくは……恐怖に抗いながら、自分を愛し続けて欲しいと願いながらの恋なのか。


 間違えることのできない、たった一度の恋。

 それは果たして、どんな恋なのだろうか――。

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