姉妹で聖女様として転生したけど、興味ないので妹に譲ります

ゆずぽんず

姉妹揃って転生

「沙耶!」



妹は気が強くてしっかり者だが、いざという時は気を取られてしまう。今だってそう、下校途中に私を見つけて駆け寄ってきた。

横断歩道の信号は赤。

トラックが運悪く妹に突っ込んでくる。私は思わず身を乗り出して妹を助けようとしたけど間に合わなかった。





「聖女様だ!聖女様がご降臨なさったぞ!」



その歓喜の叫び声とともに意識が戻ってハッとして目を覚ます。真っ先に視界に入ってきたのは真っ白な天井。「おお!聖女様がお目覚めになったぞ!」と声がして上体を起こす。周りにはたくさんの人がいた。



「なんやねんこれ…」


「こ、これは…!!」


「おお、おはよう。妹よ」



がばっと勢いよく起きてきた妹は手を合わせて目を爛々に輝かせていた。

すると奥の金色に装飾された扉が開く。そこには金髪青眼のどえらいイケメンが出てきた。その瞬間妹は目をハートにしてきゃー!と黄色い声をあげて私は思わず驚く。



「エリック王子様よ!お姉ちゃん見て!!超イケメン!!」


「エリ…?なんか聞いたことあるぞ。なんだっけなー」


「私がやってる乙女ゲームの『白い花束を君に』の攻略キャラ!!」


「おお、それやそれや」



ぽん、と手を叩く。

よく妹がやっている乙女ゲームの中で特にやりこんでいるらしいゲームがある。それが『白い花束を君に』。

夢でも見てるんか、と私はあくびする。すると、妹はっっ!と何かに気づき声をあげた。



「お姉ちゃん…私たち死んだよね…?」


「タブンネー」


「こ、これが異世界転生ってやつ!?!?凄い!!本当にあるなんて!!」


「ああ、オタクが好きなやつやな」


「お姉ちゃんもオタクじゃん」


「照れちゃう」



なんか本屋で本のタイトルに異世界転生って書いてあるのやけに多かった記憶。

そんなことより。

そのエリック王子がこちらにやってくる。あ、妹よ、顔を赤くして私の肩を揺さぶらないで。脳が揺れる〜。

エリック王子が妹の前で膝をつくと、優しげな表情で話しかけて、彼女の手を取った。



「こんにちは、聖女様。お会いできて光栄です」


「こ、ここここんにちは!えと、私は」


「ちょいちょい」



私はその手を引き離すと妹をこちらに寄せた。



「何、知らん男に触られて赤面しとんねん」


「ちょっと!折角推しと触れるチャンスだったのに!ばか!」


「ばかって…いきなり女子中学生に触る男が安全なわけないやろ。危機感持てや」



妹は中2だ。私は高2。

推しと接触を邪魔されて妹はご立腹だ。それは放っておいて。

私はじと、と王子様を見つめると、彼はくすりと笑った。



「これは失礼。聖女様。お許しを」


「別に怒ってないけど…私たち何も知らないんだよね。説明してくれる?」


「ええ、勿論です」


「そう!!!ここは!!!異世界であり!人々を救う聖女様になり、イケメン王子様や、むぐ」


「おっとー、ちょっと黙ろうね」


「むぐむぐ」



あっぶなー、妹が喋ったら何で事情を知ってるのかとか色々聞かれて最悪聖女かどうか疑われるかもしれないじゃん。

ここは王子様に主導権を握らせたほうがいい。その方はこの世界の本筋も見えてくるはず。

王子様はにこりと微笑んで説明してくれる。



「あなた方は聖女様として異世界から召喚されたのです。我々の国を守るために」


「召喚?私達は死んで転生したものだとばかり」


「そうですね、あなた方は死んだかもしれません」


「かも?」



「これは仮説ですが…」と王子様は少し考えるように顎に指を立てた。



「聖女様として召喚されるのはお一人です。しかし今回はお二人。もしかしてどちらかお一人は巻き込まれたのでは?」


「…」


「私は思うのです。異世界でもこの世界でも存在できるのはたったお一人。そうすればあなた方お二人が亡くなり、この世界へ召喚されたと考えるのが普通でしょう。しかし、聖女様としてこちらへ導かれるのはお一人のみです」


「…つまり私達のどちらか一人は何らかの形で元の世界で生きている」


「そういうことです」



その可能性もあるか…どっちにしろ生きていたって良い状態ではないだろう、と私は黙り込んで考える。トラックに跳ねられる瞬間を思い出して、少し気が滅入る。

「お姉ちゃん…?」と妹が不安そうに顔を覗き込むので頭を撫でて笑顔で返事する。



「大丈夫やで。折角妹の好きなゲームの世界に来たんや。楽しまんとな」


「うん!はあ〜、早く最推しに会いたいな〜」


「(乙女ゲームしたことないから分からんけど、恋愛は面倒だなあ。妹に押し付けよ)」



だる、と思っていると周りの人々の小さな声が耳に入る。


「ああ、聖女様が二人じゃないか。本当は一人なのに…」「片方は偽物なんじゃないの?」「マガイモノだ、マガイモノ」と嫌な声が聞こえる。


妹はエリック王子様にご執心で聞こえてない。

これでは立場が危うくなる。

私は頭を下げて王子様に提案する。



「王子様」


「何でしょうか」


「申し訳ございません。私たちはいきなり聖女様だと呼び出され、多少困惑しております。現に自身が聖女様だという証明も出来ません」


「それもそうですね」


「ですので、証明できるまで、申し訳ないのですがお時間をいただけないでしょうか?」


「成る程…いいでしょう」



よっしゃ!と私は心の中でガッツポーズを作る。今は考える時間が必要だ。


もし本当にゲーム通りに聖女の力が宿るとしたら多分妹の方だ。


あのトラックに轢かれて死んだのは妹。私は妹を助けようとして巻き込まれ、かろうじて生きている。

どれも仮説だが、確率は高い。

それも…このゲームは、



「ではこうしましょう、あなた方がどちらかが聖女様なら歓迎しましょう。

しかし、もう片方も聖女様ではなかった方は…そうですね、マガイモノとして追放することにしましょう」



本来いなかったただの人間を許さない、ゲームになかったルートが出てくる。

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