TS少女リゼットの異世界転生録
うめねり
第1話 始まりの日
———突然ですが。
どうやら自分は、別の世界に異世界転生したみたいです。
前世では、何の特徴もない図書委員だった。共通の知り合いも友達もいない。ひとりぼっちの孤独な人生。でも。そんな僕だけど、本を読む事だけは好きだった。
自分の人生の中では到底体験できないようなワクワクした世界感。文字の羅列を読んでいるだけなのに、どこまでも広がっていく色のついた情景に、現実逃避するかのように、ひたすらのめり込み、浸っていた灰色の高校時代。
そんな僕ですが、何故か今13歳の女の子として育って日常を暮らしています。
「リゼット、そろそろお父さん起こしてきてくれる?もうすぐで朝ご飯の時間だから。 」
「はーい」
赤ちゃんの頃から、こんな自分をすっごく可愛がって育ててくれた両親の二人。
母が『エリシア』父親が『トリス』という名前だ。
当時、僕が4歳の頃。突然頭の中で男の子の人生の記憶・記録。それが滝のように雪崩れ込んできた。その人が僕自身なんだと、別の世界に生まれ変わった事にその時気づいた。記憶が戻った時、正直不安だった。僕はこの人達に必要じゃない、捨てられるんじゃないかって。今思い出すと、ちょっと恥ずかしい。その時僕は捨てないでっって泣きながら母に縋りついていたっけ。
———でも、それを聞いた母は。
『居ていいんだよ。何たって。あなたは私達の家族なんだからね』
そう僕に語りかけてくれた。
救われたようだった。
———本当に感謝しています。
リゼットは、そんな事を思いながら。家の階段をタッタッと駆け上がる。そして父の眠る寝室の前へと向かい扉を開けた。
部屋の中に入ると布団の中でまるまって。ぐっすりと眠っている父の元へ駆け寄り。ポンポンと肩を叩いて———
「お父さん、起きて。朝だよ」
「ん"んんーーー、ふぁ〜。・・・おはよぅ」
「おはようお父さん。朝ご飯もうすぐできるよ。着替えたら降りてきてね」
「・・・あぁ、ありがとう。すぐ行く」
父を起こして一階へと降りていくと、甘く香ばしい香りがこちらに漂ってくる。
「今日の朝は、べコーンエッグとハニートーストよ。貴方、好きだったでしょ?」
「やった、僕の大好物。」
そういうと、母はほっぺをぷくぅっと膨らませて顔を近づけてくる。
「もぉ〜。リゼちゃん、僕じゃなくて私って言って欲しいなぁ〜お母さん」
そうなんです。実は、まだ私っていうのになかなか言い慣れていないのだ。なんか恥ずかしいし、羞恥心がすごくて。
「うぅっ・・・。わ・・・私」
「きゃーーーっ!可愛いぃ。可愛いわ、リゼちゃんっ!そうだわっ、何かに記録しておかないと!」
なんて事をしていると、2階から父がドタドタと世話しない様子で降りてきた。
「朝から元気だな2人とも」
「あらおはよう、あなた。朝ご飯もう出来てるわよ?座って頂戴。ほらリゼも。」
言われるまま席に着く。作った品を皿に盛り付けテーブルへと運ぶ。美味しそうな香りに目線が釘付け。我慢できなくなって、勢いよく食べ始めた。
それを母は、頬付いた姿勢で嬉しそうな表情で見つめていた。
「・・・おいしかった」
「あぁ、美味かった。やっぱ、母さんの料理は格別だわ」
「・・・ちょっとぐらい残してくれてもいいじゃん」
「いや、娘だろうとこれだけは譲れん」
「・・・けちっ」
「おいケチとはなんだケチとは」
食後にぎゃあぎゃあと騒ぎ合う父と娘、それを微笑ましげに見つめる母。いつも通りの、幸せそうな日常の風景。
—————————この時は、まさかあんな事が起きるなんて思いもしなかった。もしも、時を戻す事ができたら、そんな奇跡なような事が起こせたらどれだけ良かっただろうか。
夜ご飯を食べて、お風呂に浸かった後。
リゼットは寝室へと趣き、ベットで両親のもとへ。3人丸まって横になっていた。
今朝はすごい晴れてたのに。昼頃からだんだんどんよりとした雲空になってきて、風がガンガンッ!と窓を叩きつけて。まさか、こんな土砂降りの大雨になるとは。
「いやぁ参った、帰ってくる頃にはもうずぶ濡れだったよ」
「突然だったものね。なんかすごく嫌な感だわ。ねぇ貴方……」
「気にしすぎだ。大丈夫。母さんとリゼは俺が守ってやるからな」
父が手で梳くように、頭を優しく撫でる。もっと。とねだるように、ぐいぐいと頭を手に寄せる。心地よさにとろんと瞼が重たい。明日は晴れだといいなぁ。
「おっと。寝ちゃったか」
「えぇ。静かにしてあげましょう」
子供ってのはいくつになっても可愛いものだ。ついつい可愛さのあまり甘やかしすぎてしまうのは家の家計の良くない所だが。それでもすくすくと成長していく姿を見られる今が何よりも夫婦にとって幸せな時間だった
「・・・っ!」
「・・・どうしたの、あな・・・・むぐっ!」
「しっ!静かに…」
焦った様子で口元を塞ぐ。よく耳を澄ますと微かにだが、下の階から物音が聞こえてるような気がする。何かを物色しているような、そんな音だ。
「———変だ、少し一階の様子がおかしい。様子を伺ってくる」
ーーエミリア、リゼの側に。
「え、えぇ」
ベットから立ち上がると、壁に立てかけてあった鉄製の剣を手に取り、足音を立てないようにザックスは気配を殺して下の階の様子を見に行った。
何かの動物か?隙間から入り込んだ鼠が台所にあった食べ物を荒らしているとか。
———それとも。
◇◇◇
一階に降りて行った夫を見送ったエミリアはリゼットを抱きしめながら布団の中に潜り込んでいた、だけど体の震えが止まらない。寒気、嫌な予感が頭の中をぐるぐると駆け巡って離れない。そんな思い出過ごしていると
やがて下の階から怒号が響き渡る、
「嘘ッ。もう奴等に見つかったっていうの……?」
こんな辺境な田舎の場所で、ずっと隠れて身を潜め続けていた。長年隠れられたんだもの、もう見つかる筈ないと思っていた。
このまま家族みんなで普通の日常を暮らしていけるんじゃないかってそんな夢物語、ありもしない幻想。私達は幸せになっちゃいけない運命だとでも言うの……?!
気づかない間に強く抱きしめすぎたのだろう、苦しそうな表情でリゼットが目を覚ます。
「・・・っ、くるしいよ、お母さん…」
「・・・っ、ねぇ。リゼちゃん…」
娘の顔を見て、いろんな物が込み上げてきた。涙とかいろんな物でくしゃくしゃになった、辛くて苦しそうな泣き顔。肩の後ろまで腕を回し、強く抱きしめ….
———こんな私達でごめんね・。
これから。何が起きてもずっと貴方の味方だから。だから、どうか。
「———あなただけでも生きて」
両の手のひらを向け、何かつぶやいている。
暖かく優しい光が、手を包み込む。顔にそれを当てられた瞬間。リゼットの意識がふっと暗転して消える。
「あっ・・・」
この娘は、絶対死なせない。何が何でも必ず守り抜く。エクシアは涙を拭い、覚悟を決めた。眠らせた娘をギュッと抱き抱え、ベットから運びだす
寝室の本棚の手前で降ろし、壁に隠されていた指紋認証スイッチを押した。
この屋敷にある隠し部屋。
もしもの時の為にと、あらかじめ設計しておいて良かった。隠し部屋にそっとリゼットを寝かせる。これで、この部屋に立ち入ることはできない。たとえ隠し部屋の存在に気付いた人物が居たとしても、私達家族以外は開けることはできない。
「リゼちゃんはここにいて。私は、お父さんを助けに行くわ!!」
こんなつまらない運命なんて変えて見せるッ!お願いっどうか持ち堪えてて貴方っ!生きて帰りましょう。そしてまたみんなで、いっしよにーーーーッ
◇◇◇◇
(・・・・・・あれ・・・ここ、、どこ…?)
リゼットは暗闇の中で目を覚ます。床がひんやりと冷たい。そこは部屋のような構造だろうか、だけど何処にも出口が見当たらない。無我夢中で手当りしだい探り始める。
「・・・助けてください、閉じ込められてるんですっ」
声を出して助けを求めるが、誰も返答が返ってこない。
闇雲に壁をドンドンッと叩いてみても、ただ自分の腕が痺れて痛くなるだけだった。
それから、少し経った。色々と部屋の中でもがいているうちに、少し時間が経ったのだろう。徐々に暗闇に目が慣れてきて部屋全体が見えるようになってきた。
すると。何となくだが、壁際にスイッチのような物があることに気がつく。この部屋の出口かも。そう考えてリゼットは恐る恐るそのボタンを押した。
「・・・でれた」
扉が開き、外に出る事が出来た。陽の眩しさに思わず目が眩んだ。
「・・・お父さん、お母さんはどこに行ったんだろう」
出た先には。いつも3人で丸まって寝ていた寝室。
だけど、そのベットはバラバラに切り刻まれており、部屋中がぐちゃぐちゃに散らかっていた。
「これは、一体何が・・・」
この時、嫌な予感が体全体と頭の中を駆け巡る。背筋がゾッとし、冷や汗が止まらない。全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。気のせいだと頭を強く振り、落ち着きを保とうと、必死に腕を思いっきり強くつねりあげる。
「・・・大、丈夫。心配ない」
リゼットは。縋るような気持ちで寝室の扉を開けた。
———リビングにいない。私室・書斎にも、トイレ、客室、風呂場等々。部屋中くまなく探してみたけど両親の姿は、見当たらない。
リゼットは、今まで立ち入りを許可された事がなかった場所。玄関ホールから中廊下を通って西洋室へ向かうことにした。
その向かう最中の通路。
床に何かを引きずったような跡が残っている。壁に点々と黒い液体がこびりついていた。その跡を辿っていくと、扉の前に辿り着く。
リゼットは意を決して。その扉を開けた。
そこには
理解の及ばない光景に体が拒絶反応を起こす。頭が真っ白になり膝から床に崩れ落ち、膝がガクガク震える。
そこで、リゼットが見たもの。服ごと体中を切り刻まれた二人の体。血まみれの状態で運びこまれて、そこに投げ捨てられたのだろうか。乱雑な状態で倒れ伏していたリゼットの父と母の姿がそこにはあった。
私の事をいつも見守ってくれていた。優しく暖かかったその二人の瞳には
———もう何の光も写してはいなかった。
「う"っ・・・ッ!ぅっ・・・ぉ"ぐっえ"ぇ"ぇぇぇ"」
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