猫のち人間、時々メイド

家具屋ふふみに

第1話 私は猫である

 トタトタトタと元気に走る足音を聞いて、私の意識が覚醒する。その音の主は私の寝る場所の下まで来ると、キラキラとした瞳で私を見上げた。


「―――リンネ! おはよー!」


「……にゃー」


 可愛らしい我が主に朝の挨拶を返し、グーッと伸びをする。そしてトントンと軽やかにキャットタワーのステップを降りて、主の足元へ。


「今日も可愛いねぇ」


「にゃー」


 しゃがみこみ、頭を撫でるその感触を味わう。小さくて体温の高い手で撫でられるのは、正直言ってかなり気持ちがいい。


美晴みはる、早く朝ご飯食べちゃいなさい」


「はーい」


 親であるママさんに呼ばれ、我が主―――美晴が離れる。それを見送りつつ前脚で撫でられた場所の毛並みを整え、私も朝ご飯を貰いに行く。


「リンネ、おはよう」


「にゃー」


 ママさんにも挨拶を返して、用意してもらった朝ご飯を口にする。猫だとこうして用意して貰えるから楽でいい。


「おはようリンネ。今日もいい食べっぷりだな」


「なぁう」


 そう言ってワシワシと頭を撫でるのはパパさん。正直その撫で方は好きじゃないけど、わざとじゃなくて苦手なだけなのは知っているので我慢する。私は賢い猫なので。


「パパ! もっと優しく!」


「おっと。すまんすまん」


 これもいつもの光景。穏やかな、朝の日常だ。




「じゃあ行ってくる」


「行ってらっしゃーい」


「にゃーぅ」


 最初に家を出るのはパパさんだ。詳しい仕事は知らないけれど、結構なエリートらしい。

 パパさんを美晴と見送り、残っていた朝ご飯を食べ切って水を飲む。そろそろ時間だろうか……。


「じゃあ私も行くわね。鍵はちゃんと閉めるのよ?」


「分かってるー。行ってらっしゃーい!」


「にゃー」


 次に家を出るのはママさん。この家は両働きであり、平日は美晴が一番最後に家を出ることになる。


「じゃあリンネ、行ってくるね。ちゃんと大人しくしておくんだよ?」


「なぁう」


 よしよしと優しく私の頭を撫でて、遂に美晴も家を出る。

 玄関でその様子を見送って、外からガチャリとしっかり鍵を掛けたのを確認すると、素早く私は身を翻す。結構今日はギリギリかもしれない。


「ちょっと拙い…?」


 つい言葉が口から出てしまう。間に合わなかったら後々面倒だ。


 トイレの窓からするりと身体を滑らせて外に出て、外から引っ張って窓にロックを掛ける。これで施錠は完了。


「よっ…と」


 地面に降り立つと、私の身体がポフンと煙に包まれる。それが晴れると、目線の高さが先程よりも高い。


「荷物荷物…」


 隠し場所から荷物を取り出して背負い、裏手から出てぐるりと遠回り。手首に巻いた腕時計が示す時刻はちょっとギリギリ。




「―――美晴!」


「あっ! りんちゃん!」


 危ない危ない。待ち合わせ時刻十秒前だ。


「ごめん、待った?」


「ううん、そんなに待ってないよ。早く行こっ!」


「うん」


 美晴が差し出してきた手を握って、二人で歩く。取り敢えず、今日もいつも通りだと胸をなで下ろした。







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