序章

第1話

平安末期から鎌倉初期にかけて―――

日本史上、あまりに有名な世相風刺の画がある。



鳥獣戯画。



それは複数の人間によってまちまちに描かれた風刺絵を、さる寺院がまとめたもの。

うさぎは笑い、蛙は踊り、猿が弓を引き、鳥が法要を営み、蛇がいたずらを施す。


むろん史実ではなく、世相風刺であった。

しかし、そんな滑稽かつ肝の冷えるような画が現れた世、“平安”の終わり。

それは、貴族支配の終焉を意味した。




武家社会の始まり。

すなわち、天皇を頂点とする皇族・貴族たちが、下級仕官であったはずの武士たちに“傀儡”として利用されていく時代の始まりである。


日本初の幕府開設。相次ぐ動乱。

そして徳川による日本統一まで、数百年を要することとなるが…


そんな中でも、貴族は存在した。

合戦も謀略も大義も功名も下克上も、すべてを静かに見つめ続けて。




これは、室町幕府の置かれた京に生まれし、とある若者たちの物語。

乱れていることが当然であった世の中で、それでもささやかな幸せを願った4人の―――









【今宵、月が果てるまで】

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